第30話 嫌われ勇者と幼馴染聖女、襲われる
メリアとクライネの関係は思わぬ形で公となり、クラスメイトたちから祝福された――というのはさておいて、バレットの悪評に便乗して悪事を働く存在がいる可能性が出てきた。これは由々しき事態だ。
このまま放っておけば、そのうち実害が出るかもしれない。
そうなる前に、なんとか手を打たないと。
俺はその事実をある人物に伝えるため、中央校舎を訪れていた。
そこは学校の中枢機関が備わった校舎。
職員室や学園長室――そして、生徒会室があった。
「失礼します」
ノックと断りを入れてから入室。
そこには、
「バレット!?」
驚くティーテと、
「どうしたんだ? おまえがここに来るなんて珍しいじゃないか」
生徒会長を務めるレイナ姉さんがいた。
姉さんはバレットの悪行について知らない。
それでも、生徒会長として人望は厚かった。
バレットの悪行が霞んでしまうくらい、姉さんは有能だったのだ。
しかし、そんな姉さんにバレットのことを告げ口する者はいなかった。皆、バレットからの報復を恐れていたのだ。
……ただ、原作を読んでいると、姉さんの有能エピソードを見る限り――もしかしたら、バレットの悪行の数々を知っていたのではないかと思ってしまう。それでも何も言わなかったのは、姉として、バレットが更生してくれることを願ってのことだろうか。
原作では、バレットの悪事を追求しなかったことがきっかけとなり、姉さんは婚約者だった騎士アベルを失う。その後、主人公ラウルのハーレム要員となるが……姉さんにとって、それは決して望んでいた未来ではないはず。
アベルさんを紹介されるのはもう少し先の話だけど……その時は全力で応援しなければ。もちろん、ティーテも一緒に。
「? どうした? ジッとこっちを見つめて」
「っ! あ、ああ、いや……ちょっと報告したいことがあって」
「報告したいこと?」
怪訝な表情を浮かべるレイナ姉さん。
うぅ……ちょっと怪しまれたかな?
ともかく、俺はメリアの部屋周辺をうろついている謎の存在について報告した。
「それは心配だな……」
「ですね」
姉さんとティーテは不安そうに呟いた。
「この学園郷の警備を考えるに、外部の者の犯行であるとは考えられない。恐らく……学園関係者だろう」
生徒だけでなく、学園で働く職員もその対象となる。
となると、犯人を絞り込むのは難しいな。
「このことは私の口から学園警備部へ知らせる。今日から、女子寮の周囲の警備強化をしてもらうことにしよう。生徒たちには明日にでも注意喚起を呼びかけないと」
「それなら、メリアも安心すると思うよ」
ついでにクライネも。
何気に一番喜んでいるのはあの子かもしれない。
「と、いうわけで、私はこれから学園警備部へ行って来るから……バレット」
「はい?」
「ティーテを女子寮前まで送ってやってくれ。今の話を聞いたら、ひとりで帰らせるのは心配でしょうがないからな」
「あっ――わ、分かったよ。行こうか、ティーテ」
「はい♪」
こうして、姉さんの粋な計らいにより、俺とティーテは一緒に帰ることになった。
◇◇◇
「すっかり暗くなったね」
「ごめんなさい。どうしても今日中に片づけておきたい仕事があって」
「いいよ。仕事熱心でいいじゃないか。緑化委員の仕事もあるんだし、あまり無茶はしないようにね」
「ありがとうございます♪」
いつものように、世間話をしながら帰路に就く俺とティーテ。
中央校舎から歩いて十五分ほどの距離で、道中特に危険となりそうな場所はない。道の両脇には、発光石を埋め込んだランプを等間隔で吊るしてあるため、夜でも安心して進むことができる。
俺とティーテは今度の休みのデートプランを一緒に練りながら、ゆっくりと寮へ向かって進んでいく――と、
ガサガサ。
道の脇にある茂みから、何やら物音がした。
「だ、誰かいるのでしょうか……」
突然の事態に怯えるティーテ。
気のせいだよと安心させようとしたのだが――俺は確かに感じ取っていた。
この感覚……最初の模擬戦でラウルが暴走した時に似ている。
早くここから離れなければと思い、ティーテに話しかけようとした時だった。
「がああああああ!!!!」
茂みの中から、強力な魔力をまとう男子生徒が飛び出してきた。
俺たちに襲いかかってくる男子生徒。俺は咄嗟に、その男子生徒をぶん殴って、ティーテを抱き寄せる。
「バ、バレット!?」
「心配するな! 俺が必ず守るから!」
「は、はい……」
その宣言でティーテは落ち着いたようだが……ぶっちゃけ、今は俺の方が動揺しているかもしれないな。
だって――こんなイベント、原作にはなかったぞ!
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