第29話 嫌われ勇者、動きだす
翌日。
ティーテからのご褒美を堪能した俺は一大決心を胸に学園生活を送っていた。
それは――バレット(前)の女性関係の解消。
その第一弾として、今日俺は……緑化委員で微妙な態度だったメリアへ話しかけてみようと思う。
放課後になると、教室に残っている生徒はほとんどいない。
運動系の活動や委員会に参加する者は関連教室へと向かっているし、自主勉強や鍛錬を積む者は図書室かトレーニングルームへと足を運ぶ。
ちなみに、ティーテは学園生徒会の集会があるとかですでにいない。
さすがだなぁ。
俺も見習わないと。
さらに付け加えると、現生徒会会長はうちの姉――レイナ・アルバースだ。なんというか、生徒会長という立場が似合いすぎて、「でしょうね」という言葉しか出てこない。
そういえば、今朝ティーテと一緒に登校していると、
『そろそろお義姉様とお呼びした方がいいでしょうか……?』
なんて言っていたが……本当に呼んだのかな?
あとで聞いてみよう。
ああ、それと、ラウルは今日からクラウスさんと剣の修行に励んでいる。クラウスさんはかなり張り切っているようで、ついさっき教室まで直々にやってきて「ラウル、修行だ!」とか言って連れ去っていった。
……聖騎士って、暇なんだろうか。
気を取り直して、俺は教室に残っていたメリアのもとへと向かう。
「メリア、少しいいかな」
「ひゃ、ひゃい!?」
……そんなに怖がらなくても。
「な、なな、何かありましたでしょうかですか?」
パニックになっているせいで言葉遣いもおかしい。
……本当に手を出していないんだろうな、バレット(前)。
「ちょっと話したいことがあるんだが……いいか?」
「うぇっ……」
ダメだ。
今にも泣きだしそうな顔をしている。
なんとか落ち着かせようとしていた――その時、
「待ちなさい!!」
教室中に響く大きな声。
ひとりの女子生徒が放ったその声は、明らかに俺へと向けられていた。
「またメリアに酷いことをしようと企んでいるんでしょう!」
「えっ?」
振り返ると、そこには空色をした長い髪をサイドテールにまとめた女子が立っていた。キッと強く細められた瞳は、間違いなく俺を射抜いている。
「ああ、えっとぉ……クライネ?」
――で、合っていたよな?
彼女の名前は転生後に覚えた。
クライネ・フォズロード。
ブランシャル騎士団に所属するマーシス・フォズロード副団長の娘。クラス委員長を務めている彼女はとても正義感が強く、原作の【最弱聖剣士の成り上がり】では、卑劣な嫌がらせを繰り返すバレットを敵視していた。原作の学園編では、バレットと口論になるシーンが多数存在し、その腹いせとして、彼女の父であるマーシス副団長にありもしない罪を着せると、アルバース家の力で降格させてしまうのだ。
まあ、それもバレットの独断で行われたもので、父上はまったく関与していない。後々、その悪事は主人公ラウルの手によって公に知れ渡り、マーシス副団長は濡れ衣が晴れて復帰。反対に、バレットの立場を大きく揺らすこととなるのだ。
この世界に関してはバレット=俺なので、そのような展開にはならないが……相変わらず目はつけられているようだ。
どうやら、メリアとクライネは仲が良いようで、怯えるメリアを守るようにクライネは俺の前に立ちはだかる。
「何? あたしを押しのけてでも、メリアに嫌がらせをするわけ? 昨日みたいに!」
「ああ、いや、そういうわけじゃ――昨日?」
その言葉が引っかかった。
昨日は……授業が終わると模擬戦をして、その後、夕食を食べて、ティーテのご褒美を堪能していた。メリアにちょっかいなどかけていない。
「その件については誤解だ。俺は何もしていない。昨日、一体何があったんだ?」
「今さらそんな嘘をついても通じないわよ! さあ、白状しなさい! 女子寮のメリアの部屋周辺をうろついていたって! しかも、他の女子にも似たようなことをしているそうじゃない!」
「メリアの部屋周辺を? そんなことはしていない。昨日は消灯時間になるまでティーテと一緒にいた。彼女が証人になってくれるはずだ」
「あの子はあなたの婚約者なんだから、あなたに不利となる証言なんてしないに決まっているわ!」
「婚約者……そうだ……ティーテは俺の婚約者だ……」
「なんで嬉しそうなのよ!? 前々からそうでしょ!?」
「はっ! そうだった!」
いかんいかん。
ついついその事実が嬉しくて我を忘れてしまった。
「とにかく! 私と一緒にお風呂入ってもベッドで寝ていても、メリアはあなたに付きまとわれていると思って迷惑しているの!」
「! ク、クライネちゃん!?」
「えっ? ふたりはお風呂も寝る時も一緒なのか?」
「へっ? ~~っっっ!!!!!」
しまった。
つい好奇心から聞き返しちゃったけど……そういうことだったのか。メリアも「それは言っちゃダメって約束したのに……」と小さな声で抗議している。
仲がいいとは思っていたが……よもや、それ以上に深い絆で結ばれているようだ。これは原作になかった展開だ。
「やっぱり、あのふたりはそうだったのか」
「睨んだ通りだったな」
「お似合いのふたりよ」
「ああ、実に素晴らしい!」
一方、クラスメイトたちは祝福モード。
どうやら、以前からこのふたりにはそういう噂が立っていたらしい。それをうっかり自爆してしまったのだ。ついには拍手が巻き起こり、教室は和やかなムードに包まれ、ふたりは光属性クラス公認カップルとなったのである。
「「…………」」
顔を真っ赤にして俯くふたり。
やがて、我に返ったクライネは「次こそ覚えていなさい!」という捨て台詞を吐いてメリアと共に教室を出ていった。
結局、誤解を解くには至らなかったが、大きなヒントを得た。
それをもとに、俺はある仮説を立てる。
もしかしたら……バレットの悪評を利用して女子生徒にストーキングしている不届き者がいるのかもしれない。
それが事実なら、バレットの評判を大きく下落させる要因のひとつに数えられる。
これは……早急に真相を解明する必要がありそうだ。
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