第27話 再戦

 バレット・アルバースVSラウル・ローレンツ。


 原作である【最弱聖剣士の成り上がり】では、聖剣と魔剣の使用による真剣勝負となり、バレットが一方的にラウルをボコボコにすることで終わるこの模擬戦。


 しかし、実はバレット(前)がラウルへ八百長を持ちかけていたことが発覚。大方、ラウルには「逆らったら退学にしてやる」とか言って迫ったのだろう。


 なので、俺はラウルにこれまでのことを謝罪し、この模擬戦では本気で戦ってもらうようにした。原作のファンであり、主人公ラウルが人知れず陰で行ってきた自主鍛錬の数々を知っている身としては、あれをなかったことにするなんて考えられない。


 まあ、だからといって負ける気もない。

 なぜなら、ティーテのご褒美がかかっているからな!




 再戦の場所は最初と同じ演習場。

 周りには前回の事情(ラウルの暴走)を考慮して、より多くの教官たちが並ぶ。その中には聖騎士クラウスの姿もあった。さらにはクラスメイトたちの姿も。


「頑張ってくださいね、バレット」

「ああ!」


 ティーテの応援があればなんでもできる。

 そう強く感じながら、俺はラウルの前に立つ。


「バレット様……」

「バレットでいいよ、ラウル。それより、さっき言ったこと――確認しておくが、あれは本気だからな」


 八百長なしのガチンコ勝負。

 聖騎士クラウスはそれ見抜き、ラウルの真の実力に気づいたからこそ弟子入りさせた。だけど、周りの生徒たちがラウルの秘めたる力に気づくのはもっとずっと先の話。


 ただ、ここでラウルの実力を見せれば、周りの彼を見る目も変わってくるだろう。


「はじめ!」


 ウォルター先生の合図をきっかけに、俺たちは真っ向からぶつかる。

 ――が、あの時とはまるで様相が異なった。

 

「はあっ!」


 積極的に攻めてくるラウル。

 パワーもスピードも、前の時とは別人のようだ。

 能力値は最低クラスのはずだけど――人一倍修行を積むことで劇的に数値を上げてきたのか?


 とにかく……これがラウルの本気であることは間違いない。


「くっ!」


 ここまでは防戦一方。

 まったく手が出ない状況に、周囲の反応にも変化が表れる。


「お、おい、バレットが押されていないか?」

「あ、ああ……」

「あいつは文句なしの最低野郎だが、実力だけはあったんだ。それなのに……」


 最後のヤツ、聞こえているぞ。

 まあ、それくらい言われても仕方ないことをしてきたけどさ。


「もしかして、バレットは手加減を?」

「そんなことをするメリットなんかないだろ?」

「だよなぁ。相手が泣き崩れ、廃人寸前となるまで笑顔を浮かべながらボコるあのバレット・アルバースが、なんの利益もないのに劣勢を演じるなんてあり得ない」


 ……そろそろ本気で泣きたくなってきた。

 だけど、今については俺の評価よりラウルの評価だ。


「いやいや、単純にラウルが強いんじゃないか?」

「ステータスは低いはずだが……」


 いいぞ。

 周囲の評価が変化してきている。

 教官や聖騎士クラウスも驚きの表情を浮かべていた。


 あとは――


「バレット……」


 両手を組み、祈るように目をつむるティーテの姿が視界に入った。

 さすがに、これ以上心配させるわけにはいかないか。


「でやぁっ!」

「うわっ!?」


 ラウルの連撃に対して、俺はカウンターを決める。正直、隙らしい隙なんてほとんどなかったけど、なんとか弾き飛ばして距離を取ることに成功した。


 お互いに一定の距離を取り、呼吸を整えている時だった。


「やるなぁ、ふたりとも」

「おぉ……なんか感動してきちゃった」

「どっちが勝ってもおかしくないわね」


 クラスメイトたちの声が聞こえる。

 その言葉の数々……素直に嬉しかった。


「ラウル」

「? な、なんですか?」

「次で決めよう」

「っ! は、はい!」


 腰を落とし、地に着いた脚に力を入れて、剣を構える。

 誰かがサインを出したわけではないのに、俺たちは同時に走りだし、そして――



 ガン!



 ラウルの模造剣が宙を舞った。


「あっ……」


 ほとんど互角だった、紙一重の勝負。

 ただ、ほんの一瞬のタイミングで俺が勝った。

 少し間違っていたら、あの場に座り込んでいたのは俺だったかもしれない。


 俺はへたり込むラウルへ歩み寄ると、俺は手を差し伸べた。


「正直言って驚いたよ。また、模擬戦の相手をしてくれるか?」

「あ、ありがとうございます!」


 ラウルは俺の手を取って立ち上がった。




 その後、ラウルのもとへ聖騎士クラウスとテシェイラ先生がやってきて、何やら話し込んでいる。漏れ聞こえた言葉から内容を察するに、弟子入りの誘いと魔剣の研究についてのことだろう。実技教官や座学担当教師たち、そしてクラスメイトの見る目や接し方もこれから変わっていくはずだ。


 ――ラウル・ローレンツは、無事に原作主人公ルートに乗ったようだ。


 それを見届けた後、俺はティーテのところへ。


「お疲れ様です、バレット」

「ありがとう、ティーテ」

 

 この労いの言葉だけで戦いの疲労が癒えていく。

これも聖女としての力が成せる技なのかな?


 とにかく、うまくいったようで何よりだ。

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