第25話 嫌われ勇者、学園の廊下で聖騎士と出会う

 翌日。

 この日、俺はティーテと偶然一緒になったコルネルの三人でランチを楽しんだ後、ふたりと別れ、クラスで集めた課題を担任へ届けるために職員室を目指していた。


 この提出係は当番制で、クラス全員が一度は経験することなのだが、当然ながら俺はその輪に含まれていなかった。

 なので、担任に直訴し、俺も提出係へ加わることに。もっとも俺と接する機会の多いクラスメイトたちは、もうさすがに俺の変化に対して驚かなくなり、プリントを提出する時こそ緊張した面持ちが見られたが、こうした態度は概ね好評なようでひと安心だ。


 ちなみに、ラウルは今日から授業へと復帰している。

 さすがにあんなことがあった後だから、クラスメイトたちもラウルを敬遠しているようだった。こっちの問題も、早急に解決しないとな。


 大量のプリントを抱えながら職員室へ向かう途中、俺は胸に抱えるふたつの問題の対処法をめぐり、頭を悩ませていた。


 ひとつはラウルの件。

 もうひとつはバレットの女性問題。


 後者については正直、どうしていいのか分からない。俺はこれから未来永劫ティーテ以外の女性と関係を持つことはないと断言できる。そもそもティーテ以上の女性なんて存在するのか? いいや、しないね――と、自己完結。


 それはいいとして、マリナからもらったノートによれば、手を出したといっても一線を越えた相手はいないようだ。

 昨日はその数に驚いたが、思い返してみると、まだ学園に入学して一年目なので、バレットの女性関係は原作に比べておとなしめだ。今ならまだ軽傷で済むかもしれないという希望的観測が芽生えるくらいだ。

ともかく、誠心誠意を込めた謝罪で許してもらうしかない。


「当分は謝罪行脚になりそうだ……」


 ……悩んでいても仕方がない。

すべてはティーテのためだ。


 それに、こういうのは頭で考えるより行動して解決を模索した方がいい。

 当初の予定通り、まずはメリアと接触してみよう。


「あとはもうひとつの問題……ラウルについてだけど……」


 覚悟を決めた俺の前に、小さなメモらしき紙とにらめっこをしながらあちこち見回している不審なイケメンが現れた。


 行動自体は不審だが、身なりはきちんとしていて――って、あれはブランシャル王国騎士団の制服じゃないか? しかもあの胸にある刺繍……確か、騎士団の中でも位の高い人しかつけられないものだったはず。


 騎士団関係者かな、と思っていると、そのイケメンと不意に目が合った。

 イケメンはサラサラの金髪ストレートヘアーをなびかせながら近づいてくる。


「仕事中悪いが、ちょっと尋ねたいことがある」

「なんでしょうか」

「学園長室はこちらの校舎でよかったかな? 私は学園OBなんだが、昔と場所が変わっているみたいですっかり迷ってしまった」

「学園長室でしたら、中央校舎にありますよ。あそこの渡り廊下から校舎を移動して、突き当りにある階段をふたつ上がって目の前にあるのが学園長室になります」

「おお! あっちが中央校舎だったか! いやぁ、どうにも私は方向音痴でねぇ」

「は、はあ」


 仮にも聖騎士って言われている割にはポンコツ臭がするな、この人。


「ともかく、親切にどうもありがとう! 学園OBとして、親切な後輩くんの名を知っておきたいのだが」

「バレット・アルバースと言います」

「! 君が噂の……思っていた印象とだいぶ違うが、相当な腕らしいな」


 そう言った後、騎士の先輩は手を差し出し、握手を求めてきた。

 俺はそれに応じながら、「いえ、そんな……」と照れ笑い。


「私の名は聖騎士クラウスだ。ゆっくりと礼をしたいところだが、今は急いでいてな。日を改めて伺うよ。では、この辺で失礼する」

「あ、は、はい」


 聖騎士、か。

 もしかしたら、ラウルの件で何か分かったことがあって、その報告に来たのかもな。


 …………うん?


「聖騎士クラウス!?!?!?!?!?」


 俺は叫びながら振り返るも、すでに聖騎士クラウスの姿はそこになかった。


 ……いやいや、なんか原作とイメージ違くない!?

 もっとこう……厳格な感じだったぞ!

 むしろ喋った感じはどちらかというとポンコツっぽい!

 まあ、出番自体は学園編でラウルに稽古をつけるシーン――もっと言えば、回想シーンくらいでしか触れられていないものな。ビジュアルについても、「イケメン」ってだけで、長い金髪

 とかって描写はなかった。


 ――て、そうじゃない!


 ちょうど今から職員室へ行くんだ。

 ついでにウォルター先生に、ラウルとの再戦を今日にしてもらえるよう頼みにいかなくては! この機を逃したら、忙しい聖騎士の前で剣を振るうなんてできなくなる! 主人公ラウル最大の見せ場になるはずだ!


 俺は大急ぎで職員室へと走った。

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