第24話 嫌われ勇者、覚悟を決める

 ティーテのためにも真っ当な人間として生きる。

 そう決意した俺の前に、最大の障壁が姿を見せた。


 それは――バレットの女性関係だ。


 厄介なのが、バレットが声をかけたり、交際を迫った人についての記憶が曖昧だという点。気に入った女性がいれば、たとえ相手に彼氏がいようがお構いなしに口説きまくっていたって描写が原作ではあった。そのせいで、泣く泣く別れたカップルもいたらしい。


 少なくとも、緑化委員のメリアとは何かがあったと思われる。

 さらに、クラスの中にも、俺に筆舌には尽くし難い眼差しを送ってくる女子生徒が何人かいるので……たぶん、相当な数だと思う。


 そんな中、ある事実を思い出した俺は、ティーテとの勉強会が終わって自室に戻ると、すぐさまメイド三人衆を呼び寄せた。


 マリナ。

 プリーム。 

 レベッカ。


 彼女たちの協力を仰ぐことにしたのである。

 まず、俺は状況を説明し、ティーテのためにこれまでの女性関係を清算したいと告げたのだが、


「「「…………」」」


 三人は沈黙。

 なんというか……空気が重い。


「え、えっと……」


 声をかけるも反応なし。

 そこで、俺はある事実に改めて気づく。


 今、目の前にいる三人のメイド――全員美人でスタイルも抜群。

 果たして……バレットがこの三人を放っておくだろうか。

 思えば、屋敷から学園へ戻ってくる時も、三人が中心に荷造りをしていた。バレットにとって、この三人はお気に入りだったのではないか。

 しかし、共有している記憶に、三人との情事に関するものはない。

 だからきっとセーフ……のはず。三人との関係だけ都合よく抜けているなんてことがなければ。


 緊張しながら三人の反応を待っていると、


「バレット様……よくぞ決心してくださいました」


 マリナが三人を代表してそんな言葉を口にした。


「とても素晴らしいことですにゃ!」

「ティーテ様もお喜びになります!」

 

 プリームとレベッカが続いた。

 レベッカに至っては泣いてるし……。


 ……とりあえず、メイド三人に手を出していたって最悪の事態は避けられたようだな。


「幼い頃からティーテ様を間近で見続け、おこがましいながらも妹のように思っていた私たちにとって、それは最良の判断と断言できますよ! おふたりは間違いなくこの学園のベストカップルになります!」


 マリナが何やら熱く語り始めた。

 ……って、幼い頃のティーテ?


「ティーテは小さな頃から俺を……?」

「気づいてなかったんですか!?」


 落ち着いた雰囲気のレベッカに似つかわしくない大きな声で驚かれた。ティーテに関する情報は共有しているが、それによると、バレットがティーテに対する好意にはまったく気づいていなかったようだ。


 あくまでも政略結婚。

 バレットにとって、ティーテとの婚約は政治的な意味合いが強い。

 エーレンヴェルク家はお世辞にも大貴族とは呼べないが、歴史がある。ブランシャル王国の建国当時から、産業面で国を支えてきた。当主に野心がない家系ということもあってか、派手な振る舞いこそなかったが、領民からの信頼は非常に厚かった。


 でも、マリナたちの話を聞く限り、ティーテはバレットをただ政略結婚の相手とは思っていなかったようだ。


「バレット様、こちらをお使いください」


 そう言って、マリナは俺に一枚の紙を渡す。

 そこには女性の名前がズラリ。

 まさか……これは……。


「あなたが学園に入学してから口説いた女性のリストです」

「! な、なんでそんなものが……」

「何かトラブルがあった時に対処できるよう記録をしておきました。まさか、このような形で役に立つとは思ってもいませんでしたが……」


 ナイス!

 これでバレットがどの子に声をかけたか把握できるぞ!

 どれどれ――


「えっ…………」


 その紙に目を通した瞬間――絶句。

 な、なんて数だ……三十人以上はいるぞ。

 ていうか、よく見たらこれ生徒だけじゃない! 教師までいるじゃねぇか! 授業で怯えていた先生はこれで弱みを握られていたのか!?


 これ……すべてに当たるのかぁ。

 刺されたりしない……よな?


「あ、あの、バレット様、私たちも力になりますので」

「ティーテ様との幸せな未来のために!」

「頑張りましょう!」


 メイド三人衆はヤル気になっているみたいだし……うん。これもティーテのためだ。

 頑張って女性関係をクリアにするぞ!

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