第23話 主人公ラウルのこれから

「えぇっと……何かありましたか?」

「おまえのことだ。大体察しはついているのだろう? ――ラウル・ローレンツの件についてだ」


 やはりか。

 ……関係ないけど、ウォルター先生のスキンヘッドに夕陽が反射して地味に眩しい。


「どうかしたか?」

「い、いえ、別に」


 当の本人は気づいていないようだが、隣のテシェイラ先生は勘づいたようで、必死に笑いをこらえていた。確かこのふたり、学園時代からずっと一緒だって原作では書かれていたな。小柄なテシェイラ先生に二メートル近い巨躯のウォルター先生(老け顔)……下手したら親子レベルの体格差だぞ。

 そんなことを考えていると、笑いの衝動が収まったテシェイラ先生は「コホン」とわざとらしく咳払いをしてから、話し始める。


「大事な話なので、場所を変えようと思うんだけど……いいかな?」

「……分かりました」


 断れないよなぁ。

 課題はその大事な話とやらが終わってからにしようか。

 ティーテとのイチャイチャタイムが削られるのは痛いが、これも俺のイメージアップ作戦に必要なことと思うしね。



  ◇◇◇



 場所を移動して訪れたのは中央校舎にある職員室のすぐ横――応接室だった。

 なんだか随分と仰々しいが……。

 

「悪いな。授業終わりで疲れているところを」

「いえ……それより、わざわざこんなところまで移動してきて、何があったっていうんですか?」

「それなんだが……ラウル・ローレンツが目を覚ました」

「!」


 やっぱり、ラウル絡みか。


「急激な魔力の増減に体がついてこられず意識を失ったようだが……命に別状はない」

「そうだ。あの時の爆発的な魔力について、何か言っていましたか?」

「本人は覚えていないそうだよ」


 テシェイラ先生が残念そうに言う。

 まあ、確かに、あの時のラウルはどう見ても正気じゃなかった。本人の意思でないとするなら……もしかして、


「魔剣の影響、とか?」

「それも考えたんだが……どうも違うようだ」

「違う?」

「根拠はあの時の魔剣の状態。模造剣で戦っている間、彼の魔剣はあの場にあったわけだが……何ひとつ変わっていなかった」


 それは俺もなんとなく感じていた。

 魔剣が絡んでいないとなると――何が原因なんだ?


「今回おまえを呼んだのは、実際にあの状態となったラウルと戦って、何か気づいたことはないか聞きに来たんだ」


 ウォルター先生が手帳とペンを胸ポケットから取り出しながら言う。

 なるほど。

 事情聴取ってヤツか。


「あの時のラウルは……まるで、瞬間的に人が変わったような印象を受けました。それで、何があったんだ、と思った瞬間、あの強烈な魔力を感じ取ったんです」

「その直後、彼のパワーとスピードは見違えるように向上した、と」

「はい」


 テシェイラ先生の言葉に頷くと、ウォルター先生がそれをメモっていく。


「君はどう考えるかな?」

「どう、とは?」


 意味深なテシェイラ先生からの質問。

 答えようによっては……ラウルの今後に影響が出るな、これ。


「……明確なことは何ひとつ分かりませんが、俺はあの暴走は彼の望む形ではなかったと思っています」

「ほう。それはなぜ?」

「これまでのラウル・ローレンツを見ていれば、自然とそう思いますよ」


 ラウルが努力家というのは、この学園の教師なら誰もが知っている。

 原作の学園編では、聖騎士クラウスの目にとまるまでの間、ひとりで孤独な修行を続けてきたと書かれていた。

 のちに、能力値の低さを魔剣の力で補い、無類の強さを発揮するが、それまでは頑張りが空回り気味だった。それでも、彼の努力は多くの教師や生徒が知るところとなり、バレットへの《ざまぁ》へとつながるのだ。


「おまえ……なんか変わったな」


 ボソッとウォルター先生が呟く。

 テシェイラ先生も、満足げに頷いていた。


 最後に、俺はラウルとの再戦を希望し、事情聴取は終わったのである。



  ◇◇◇



 寮に戻ってきた時にはすでに消灯一時間前だった。


「こりゃ課題をこなして終わりかなぁ……」


 夕食はテシェイラ先生たちの計らいで弁当に変えてもらったが、課題ばかりはどうもならない。仕方なく、部屋でやろうと思ったら、


「バレット!」


 男子寮へと入る直前、声をかける。

 この声は、


「ティーテ!?」


 まさかのティーテだった。


「どうしたんだ、こんな時間に?」

「バレットを待っていたんですよ」


 にこやかにそう語るティーテ。

 だけど、なんで?


「課題、ひとりじゃ時間がかかるでしょう?」

「あ、ああ」

「だから、手伝おうと思って来たんです」

「ティ、ティーテ……」

「談話室の使用許可はもらってあります。さあ、行きましょう♪」


 そう言って、ティーテは俺の手を取る。

 ……なんだか、積極性も出てきたな。

 控えめでお淑やかというのが原作でのティーテの性格だが、もしかしたら本来はこれくらい明るくて活発な子なのかもしれない。


 俺はティーテの小さな手を握り返し、談話室へと向かった。

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