第18話 嫌われ勇者、考察する
模擬戦の途中で意識を失ったラウルはすぐさま医務室へと運ばれた。
容体については安定しており、大丈夫だろうという報告が入った――が、不可思議なのは模擬戦の途中で見せた、あの強力な魔力。
確かに、ラウルが医務室へ運ばれるというシーンはある。
だが、そこに至るまでの経緯がまるで違った。
【最弱聖剣士の成り上がり】の原作では、ティーテの見ている前で、バレットに成す術なくボコボコにされて医務室へと運ばれる。そこで、お見舞いに来た聖騎士クラウスに特訓をつけてもらうと約束するのだが……今回は事情が異なる。
あの時――一瞬だけ見せた、爆発的な魔力。
直接ラウルと戦った俺が感じ取ったのはもちろん、周りにいた教官や王国騎士の人たちもそれに気づいていた。
あれは本当に……ラウルの魔剣が放った魔力なのだろうが。
もしかしたら、まったく別の要素が絡んでいるとは考えられないだろうか。
あれは明らかに異常だったもんな……あらゆる可能性を考慮しておく必要がありそうだ。
ちなみに、ラウルは面会遮断となっており、部屋にさえ近づけない状態だった。
模擬戦終了後。
俺は騎士やら教官やらからいろいろと事情聴取を受けたが、正直、俺の方がいろいろと教えてもらいたいくらいだ。
すべての聞き取りが終わる頃には、廊下の窓から西日が差し込んでいた。
うーん……この調子じゃ、ティーテのご褒美はお預けかな。あの騒動で青ざめた顔をしていたし。
「ふぅ……」
思わずため息が出る。
まったくもって予想外の展開続きだったな、今日は。
ただ……原作の流れとはだいぶ違ってきた。
最大の相違点はラウルの周囲の評価だ。
あの模擬戦でボコボコにされたラウルだが、周りは彼に対する同情心が芽生えていた。それから、ラウルは強くなりたいという一心でクラウスから修行を受ける。とても厳しい修行であったが、ラウルは最後まで耐え抜き、魔剣の力を解き放つ。
俺の――バレット・アルバースの転落人生の幕開けだ。
だが、実際はそうならなかった。
ラウルが突然倒れた時、光属性クラスの生徒たちは驚くと同時にラウルを奇異の目で見ていた。まあ、豹変って感じだったし、元々魔剣を授かったことで、周りの評判は俺にも負けないくらい酷かった。
それが、今回の件でより深いものへと変わってしまったのだ。
「…………」
ラウルが倒れ、教官たちに連れていかれた後、彼の評価は、俺の存在がぼやけてしまう勢いで大きく下落した。一発逆転を目指して、何かヤバいモノに手を出してしまったのではないかと噂する者まで出る始末だ。
ラウルの意識が戻るまで真相は不明のまま――が、もしかしたら、俺が今向かっている先に待っている人物が、何かを知っているかもしれない。
「ここか……」
アストル学園中央校舎三階。
魔法研究科のラボがいくつも並ぶここは、他の校舎とは明らかに雰囲気が違う。
研究材料や書類が廊下にまであふれ出していて、足の踏み場もない。
壁一面が本棚になっており、さまざまな文献がジャンル不問で入り乱れている。
まさに研究者の巣窟って感じだ。
ここに、ティーテが相談するように勧めてくれたテシェイラ先生がいる。
原作ではラウルのハーレム要員となるテシェイラ先生は、神授の儀で得られるアイテムについて研究している人物だ。
原作での彼女は俺――バレットの聖剣、そしてラウルの魔剣を研究対象としており、何かと接触を試みている。バレットはそんなテシェイラ先生を無視しているが、ラウルは聖騎士クラウスの後押しもあって魔剣の研究をしてもらっていた。
その成果は卒業間際に明らかとなり、彼の成長を支えることとなるのだが、今となってはその成功フラグも死にかけている。
とはいえ、ラウルをこのままにはしておけない。
俺の聖剣とラウルの魔剣。
このふたつが真の力を発揮する――原作では絶対にあり得ないそれを実現すれば、これからの戦いを有利に進められるはず。
……そう。
勇者バレットが戦うことになる真の敵。
【最弱騎士の成り上がり】の原作でもまだ明かされていないラスボスって……一体どんなヤツなんだろう。
「おやおや~? 難しい顔をしているねぇ、バレット・アルバースく~ん」
考えながら歩いていると、頭上から声がした。
このねっとりとした鬱陶しい喋り方は……。
見上げると、うず高く積まれた本の山のてっぺんに座る女性を発見する。
この人が――テシェイラ先生か。
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