第17話 嫌われ勇者、主人公と戦う(模擬戦)

 結論から言わせてもらえば、名案は浮かばぬまま模擬戦の授業を迎えた。


 原作のバレットは聖剣の力をアピールするため、本来使用する予定の模造剣から聖剣へと変更し、対戦するラウルも魔剣を使用するというガチンコ勝負を繰り広げる。

 だが、さすがに俺にはそんなマネはできないので、普通に模造剣での勝負となった。


 模擬戦の場所は学園校舎の東側にある演習場。

 周囲に何もない広大な空間に、光属性と診断された生徒――計三十七名が集結していた。


 光属性は全魔法属性の中でも特に希少性が高い。なぜなら、応用次第で炎や水といった別属性の魔法も使いこなせる、いわゆるオールラウンダーとなれる。むろん、誰もがなれるわけでなく、あくまでも可能性を秘めているということだ。


 オチを語ってしまって恐縮だが、バレットはそのオールラウンダーである。

 ちなみにラウルもオールラウンダーなのだが、ラウルの方は光属性の者が扱えないとされている闇属性の魔法さえも操ることができるというとんでもないスペックだった。


 恐らく、作者がふたりの能力の差別化を図るために急遽付け足されたような設定に感じるが……まあ、それはこの際どうでもいい。


 問題は属性うんぬんの話ではなく、俺とラウルの模擬戦について。

 原作ならば、ここに騎士団の人間が視察のためズラリと並び、その中でも秀でている聖騎士クラウスがラウルの素質を見抜いて鍛え上げるという流れだが、どういうわけかその視察自体が突如中止となってしまった。


 つまり、ラウルはここで聖騎士クラウスとつながりを持てない。


 まさか、闇堕ち――なんて展開はないと願いたいが……。


 不安にかられているうちに、対戦相手が教官の口から発表される。これまで原作ブレイクを続けてきたわけだから、もしかしたらここでの対戦相手に変化があるのではないかと期待していたのだが、


【バレット・アルバース対ラウル・ローレンツ】


 ダメでした。

 ここだけはイレギュラー起きないのかよ……。


「頑張ってくださいね、バレット!」

「あ、ああ」

「? 緊張しているんですか?」

 

 緊張というかなんというか……本当のことは言えないので、ここでも誤魔化す。


「大丈夫だよ、ティーテ」

「そうですか? ……じゃ、じゃあ」


 ティーテは小さな手をチョイチョイと曲げて俺を呼ぶ。そして、俺が近づくと、



「じゃあ、バレットが勝ったらご褒美をあげますね♪」



 そう囁いた。


「……分かった。死んでも勝つよ」

「も、模擬戦なんだから、そこまで本気にならなくても……」


 模擬戦用の模造剣を握る手に力が入る。

 俄然ヤル気が出た。

 ティーテとしてはそこまでとは考えていなかったようだが、ご褒美と聞いて黙っているわけにはいかない。

 ……とはいえ、あのティーテのことだから、そのご褒美とやらも全年齢対応の健全なものだろう。それはそれでとても嬉しいよ。ていうか、ティーテが祝ってくれるという事実だけでお腹いっぱいだ。


 まあ、それはともかく、可愛い幼馴染の婚約者が応援してくれるのだ。無様な戦いだけはできないな。


 ティーテの言葉は俺を振っ切らせてくれた。

 ラウル……ここでおまえに負けるわけにはいかないが、必ずその秘めたる力を見出し、みんなにおまえのことを認めさせる。


「はじめ!」


 審判役の教官が叫び、いよいよ模擬戦が始まった。


「いくぞっ!」


 ティーテからの激励を受けた俺は、その勢いのままに先制攻撃を仕掛ける。

 ガン!

 木製の模造剣同士がぶつかり合う鈍い音がする。

 真正面からの攻撃に対し、ラウルはそれを受け止めた――が、力負けし、徐々に後退していく。


「ぐっ……」


 模造剣に力を入れるも、弾き飛ばされるラウル。

 そういえば、各ステータスもほぼ最低値なんだっけか。


「さすがはバレット・アルバース……強い」

「でも、それより驚いたのが正々堂々戦っていることだ」

「ああ、いつもは泣いて許しを乞う相手を満面の笑みで痛めつけているのに……」


 なんという鬼畜。

 ただ真剣勝負をしているだけで評価の上がる男バレット――もう分かりきっていたことだけど、こいつホント最低だな!


「ラウル・ローレンツ、戦闘の意思はあるか?」


 教官が尻もちをついた状態のラウルへ問う。

 当然、ラウルは試合続行を選択。

 ――その時だった。


「うん?」


 違和感を覚えた。

 目のために立っているのは主人公ラウル――のはずが、なんだか別人に感じる。

 一体なんだ、と首を傾げた直後だった。


 

 ラウルが目の前から姿を消したのだ。

 そして、肌を刺す爆発的な魔力。

 ……まさか、ラウル?



「――むっ!?」



 考えがまとまらないうちに、すぐ真横から強烈な気配を感じて咄嗟に模造剣を構える。

 ラウルだった。

 目にもとまらぬスピードで俺の懐に飛び込み、脇腹に強烈な一撃を叩き込もうとしていたのだ。


「なっ!?」


 なぜ?

 なぜ、ラウルがここまでの力を?

 原作ではまだ覚醒前のはずなのに。


 困惑する俺を尻目に、ラウルはさらに攻撃を仕掛けようとしてきたが、


「っ!?」


 まるで、糸の切れた操り人形のように、突然バタッとその場に倒れた。

 教官たちが駆け寄り、クラスメイトたちは騒然となる。


「きょ、今日の模擬戦は中止とする! 生徒たちは校舎へ戻れ!」


 学年主任のウォルター先生(スキンヘッド・マッチョ)が叫び、生徒たちは強制的に校舎へと移動させられる。

 一体、ラウルの身に何が起きたんだ……?

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