第16話 緊急事態発生
長期の休みが終わり、いよいよ本格的に授業が再開となる。
午前中は属性診断のため、俺やティーテと同じ学年の生徒たちは講堂に集められた。
かなり広いし、天井も高い。おまけにシーリングファンまで回っている。思ったよりもずっと豪華な造りだった。
「へぇ、広いな」
ティーテと共に講堂へ入っていくと、そこは喧騒に包まれていた。
生徒の中には今日の朝にこちらへ到着した者もいるようで、再会を喜び合っている者もいれば、これから始まる属性診断に期待と不安を抱き、そのことを話し合っている者もいる。
いいなぁ。
まさに青春の塊って感じだ。
俺も負けないようにこの学園で――
「バレット様! おはようございます!」
「「「「「おはようございます!!」」」」」
「…………」
怒号のような挨拶で、すべてがぶち壊しになった。
それまでのキャッキャウフフしていた空気は死に絶え、恐怖と緊張が支配する戦場の最前線みたいな空気になっている。
さすがにまだ慣れないなぁ、この扱い。
はあ、とため息を漏らしながら返事をしようとした時だった。
「ティーテにバレット、おはよう!」
俺たちふたりにそう挨拶したのは、神授の儀で一緒になったコルネルだった。
あの時、俺はティーテを通してコルネルと親しくなった。
元々明るい性格だったコルネルは、俺が変わったことを知っている。だから、いつもの調子で挨拶をしてくれたのだ。
「あ、あいつ!?」
「おいおい、死んだわ……」
「何考えてんだよ……」
周りの学生たちは青ざめた表情でコルネルを見る。
当然だ。
もしこれがいつも通りのバレットなら、コルネルは即刻退学になっていてもおかしくない。
――が、もちろん俺はそんなことなんてしない。
むしろ、コルネルの態度は歓迎すべきものだ。
「「おはよう、コルネル」」
ティーテと一緒に挨拶を返す。
すると、
「あ、あれ? バレット様……怒っていない?」
「そういえば、今日もティーテと一緒だな」
「学食でもふたりで来ていたし……どういう心境の変化だ?」
さっきとは質の違った騒ぎが講堂を包んだ。
しばらくすると、教師たちがやってきて、属性診断の概要を説明していく。特にこれと言って難しいことはない。順番に呼ばれ、診断士に見てもらうだけだ。ひとり当たり五分ほどで終わるのだという。
診断終了後、昼食をとり、午後から各属性別にクラス分けされ、そこでの実力を測るために模擬戦を行うのが通例となっているらしい。
こうして始まった属性診断――の前に、
「あー、そうだ。ひとつみんなに報告をしておかなくてはならないことがある」
スキンヘッドとたくましい筋肉が特徴的な学年主任のウォルター先生が、突然そんなことを言いだした。
「なんでしょうか……」
「まさか、模擬戦の中止とか?」
「雨が降っているわけでもないし、それはないんじゃないか?」
何事かと話し合うティーテとコルネルと俺。
学年主任は「コホン」とわざとらしい咳払いをしてから、説明を始めた。
「本日、視察予定だった騎士団の方々だが、突然の遠征任務が入ったということで急遽中止となった。しかし、模擬戦自体は行うので、安心してほしい」
なるほど。
それはちょっと残念な知らせだな。
騎士団に入ろうと思っている学生たちにとって、格好のアピールの場だったのに。特に聖騎士クラウスとのイベントを控えているラウルには――
「あっ……」
そこで、俺の思考は完全に止まった。
ヤバいじゃん。
現状、魔剣を扱えないラウルが俺に勝つ術はない。これからラウルが覚醒していくには、どうしても聖騎士クラウスの存在が必要不可欠となる。
だけど……なぜ急に原作にない動きを見せたんだ?
もしかして――というか、やっぱり原因は俺にあるのだろう。そりゃあ、さんざん原作にはないことをやってきたのだから、これくらいのイレギュラーが起きても仕方がないのかもしれない。
とはいえ、このまま主人公ラウルを放置しておくわけにもいかない。
俺とラウルにとって最良となる結果……それを導き出さなければ、今後の学園生活に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。
タイムリミットは約二時間。
それまでに、解決法を思いつかなくては!
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