第15話 嫌われ勇者と幼馴染聖女の登校風景

 いよいよ初めての授業を受ける時がやってきた。

 今さらだけど、この世界の言語は日本語じゃない。

 俺は当たり前にみんなと会話をしているが、それはバレットの記憶を共有しているからできること。

 文字の読み書きにしてもそうだ。

 各教科のテキストには死にかけの蛇がのたうち回っているような字がびっしりと行儀よく並んでいる。ひらがなも漢字もないテキストだが、不思議と俺はこの字を読むことができた。


 朝食後、自室へと戻り、学習に必要な道具一式をカバンに詰めて準備完了。

 ちなみに、朝の鍛錬の際にティーテと一緒に登校する約束をしており、この後、寮の玄関で待ち合わせをしている。


「「「いってらっしゃいませ、バレット様」」」

「うん。いってきます。留守の間、よろしくね」

「「「お任せください!」」」


 息のピッタリ合ったメイド三人衆に見送られて、俺は部屋を出た。



 寮の玄関に到着すると、すでにティーテが待っていた。


「ごめん。待たせちゃったみたいだね」

「い、いえ、私が楽しみに過ぎて早く来ただけで……」


 確かに、待ち合わせていた時間よりも十分以上早い。

 俺も気をつけて部屋を出たつもりだったが、ティーテはそれよりも早く着いていた。その理由が楽しみだからって……可愛すぎかよ。


「じゃあ、行こうか」

「はい!」


 ティーテみたいな可愛い子と一緒に登校……なんて素晴らしい学園生活なんだ。

 平静を装いつつも、内心浮かれていた俺は、寮のある敷地を抜けて学園へと続く長い並木道に出た時、その美しい光景に思わず目を見開いた。

 

 木々に囲まれ、一面が濃緑に覆われた学園の周辺。その奥には、水面が太陽の光に照らさてキラキラと輝く学園湖が広がっている。


 学園郷。


 そう呼ばれるここアストル学園は、学び舎というより一級のリゾート施設を彷彿とさせる場所だった。


 雄大な自然の中、並木道を歩きながら、ティーテと会話は今日の授業の話題へ。


「俺たちはまず属性診断から始まるんだよな」

「はい。その診断結果をもとにクラス分けをするのですが……私とバレットはきっと光属性だと思います」


 聖剣に選ばれた者と聖女だもんな。

 というか、その辺は原作小説ですでにネタバレしている。


 ちなみに、その原作である【最弱聖剣士の成り上がり】の主人公ラウルもまた光属性と診断され、俺たちと同じクラスとなる。


 原作のバレットはそれが気に入らなかった。


 元々、貧民の出であるラウルにいい感情を抱いていないが、自分たちと同じ光属性であることが発覚すると嫌がらせは激化していく。特に、診断結果が出て、同じクラスになった最初の授業である模擬戦では、まだ魔剣をうまく扱えないことをいいことに、ラウルをボコボコにするんだよな。


「……うん?」


 今、不吉なワードが脳内をよぎった。

 ボコボコに……?


 誰が? 

 誰を?


 その答えは簡単――俺がラウルを(原作では)ボコボコにするのだ。


「…………」

「バレット? どうかしましたか?」

「あ、いや、なんでもない……」


 急に押し黙ったものだから、ティーテが不思議がっている。

 なんとか誤魔化したが……そうか。原作通りなら、今日の模擬戦で俺とラウルは初めて戦うことになる。わざと負けたところでラウルの悪評が消えるわけじゃないし、下手をしたらこちらの印象も悪くなる。

 一体どうすべきか……。


「でも、緊張しますね」

「緊張? 模擬戦が?」

「そうじゃなくて……ほら、今日は騎士団の方が視察に来るじゃないですか」

「あ」


 忘れていた。

 学年が上がって最初の模擬戦を、王国騎士団のお偉いさんが見に来るのだ。

 

 これはラウルにとって最初の転機となるイベント。

 原作では模擬戦を視察しに来た騎士団の前で、俺(バレット)はラウルをボコボコにし、聖剣の持つ強さを騎士団へアピールする。だが、この中でただひとり、聖騎士の称号を持つクラウスという騎士が、ラウルの潜在能力を見抜き、師匠となる。


 つまり、俺がラウルをボコボコ――とまではいかなくても、負かしたところで聖騎士に素質を見抜かれるというイベントは発生するはず。

 なら、俺も聖剣の力を実戦でどこまで引き出せるのか、そっちに集中しても問題なさそうだな。


「なあ、ティーテ」

「なんですか?」

「今日の模擬戦……俺を応援してくれ――」

「もちろんです!」


 食い気味にOKをいただいた。

 ティーテの応援があるとなっては、負けられないな。

 主人公ラウルには悪いが、今日は本気で戦わせてもらう。


 今から模擬戦の授業が楽しみだ。

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