第14話 努力といちゃつきは怠らず
空が薄っすらと明るくなってきた早朝。
俺は寮から歩いて五分とかからず着ける森の中にいた。
俺が起きた時、すでに仕事に取りかかっていたマリナたちにはここへ来ることは伝えてあるので、朝食の時間になるまでゆっくりと鍛錬ができる。
なんの鍛錬か――それは、聖剣を制御すること。
その目的は、聖剣の力に呑み込まれないようにするためだ。
神授の儀を経て、聖剣を手にした俺だが、その強大な力に正直ビビっている。原作のバレットはこの力を欲望のままに使っていたが、それではダメだ。心を蝕まれ、やがて正常な判断ができなくなり、結果として聖剣の真の力を引き出せずに終わる。
聖剣は人を試す。
俺はそう感じていた。
「…………」
俺は目を閉じて、意識を聖剣へと集中させる。不思議なもので、前世の俺は魔法なんて使ったことがないのに、こっちでは何をどうすればいいか理解でいる。これも、バレットの記憶を共有していたからだ。
「ぐっ!?」
その強大な力をうまく制御できず、剣から魔力が溢れ出る。それは近くの木の枝に当たり、粉々に吹き飛ばした。あんな小さな魔力の欠片であの威力……こりゃあ、一朝一夕でコントロールできそうにはないな。
周りの信頼回復と一緒で、こっちも根気強くやっていかないと。
再び聖剣に魔力を込めて特訓再開。
しかし、今度も失敗して近くの枝を破壊――と、
「きゃっ!?」
女の子の悲鳴が聞こえた。
それも……聞き慣れた声だ。
「えっ? ティーテ?」
「あ、お、おはようございます……鍛錬のお邪魔をしてしまってごめんなさい……」
近くの茂みから申し訳なさそうに顔を出したのはティーテだった。
「どうしてここに?」
「バ、バレットがこっちへ歩いていくのが寮の窓から見えたので……その……今なら一緒に話せるかなって」
恥ずかしそうにそう語ったティーテ。
俺と話したいがために、朝早いのに寮から出てきたのか……朝食の時にも話はできるが、それよりも早く会いたかった、と。
「あの……もしよかったらなんですが……このまま鍛錬を見学させていただいても?」
「俺は一向にかまわないよ。でも、見ていてもつまらなくない?」
「そんなことありません。バレットの頑張っている姿はとても素敵です」
な、なんというか……そう真っ直ぐと見つめられて言われるとさすがにドキッとするな。
気を取り直して、俺は聖剣をコントロールする特訓へと移る。
――が、やはり苦戦続き。
誰かから師事を受けた方がいいのかもなぁ。
「あ、あの……」
額の汗を拭っていると、ティーテがおずおずと挙手をして俺を呼ぶ。
「どうかした?」
「あ、え、えっと、差し出がましいかもしれませんが……聖剣を魔力でコントロールするならば、テシェイラ先生にアドバイスを求めてみても……」
「テシェイラ先生?」
あ、その人、確か原作にいたな。
確か、神授の儀で受け取るアイテムについて研究をしているのだとか。
……そうだ。
バレットが聖剣を授かったことについて、ずっと疑問を抱いていた人物。一方、ラウルの素質を見抜き、よくアドバイスを送っていた。ちなみに、後々ハーレムメンバーの一員として加わる女性でもある。
それはさておき……変わり者ではあるが有能な人という印象だ。
テシェイラ先生なら、
「会ってみるか。テシェイラ先生に」
「是非! ちょっと変わっていますけど、優しい先生ですから、きっとバレットの相談に乗ってくれると思います!」
変わっている、か。
ああ……原作でもそんな描写があったな。
曲者×残念美人。
しかもこの人はまだイラスト化されていないから、どんな容姿なのかは分からない。バレットの記憶にも残っていないのだ。こいつは自分以外の人間にトコトン興味がないんだな。
とりあえず、今日の授業後にテシェイラ先生を訪ねてみよう。
念のため、ティーテにもついてきもらおうかな。
一体どんな人なのか――楽しみだな。
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