第13話 信頼される勇者になろう

※11話あたり、ティーテの口調がちょっと変だったので修正しました。





 食堂では少しの間だけ混乱があったが、なんとか落ち着きを取り戻し、俺たちも普通に食事を済ませた。


 料理は肉と魚から選ぶようになっており、俺は肉を選択。

 出てきたのはフルーツソースのかかったステーキ。

 味は豚に近いな。

 白米が進みそうな味だが、当然ここにそんなものはない。

 あったのはパンだが、これはライ麦パンに近い味と食感だ。

 ちなみに味は――うま~い!

 これに文句をつけていたバレット(原作版)って……ただの嫌がらせだったんじゃないかと邪推したくなるな。


 異世界の料理に興味を抱くも、今日はただ料理を味わっているだけとはいかない。パトリックをはじめとする取り巻きたちとも席を共にしているが、彼らはみんな驚きの表情で料理を口にする俺を見つめていた。

 パトリック曰く、普段のバレットであれば、「下々の者たちと一緒に食事するなど考えられない」とかのたまって、屋敷から連れてきた専属シェフに料理を作らせていたとのこと。

 なので、急な心変わりに動揺を隠せない様子だった。

 そこはティーテやコルネルにも言った通り、「俺は生まれ変わった」の一点張りでしのいだのだが……すぐに信用を得られそうな手応えはなかった。


 これまでの振る舞いを思えば、それは無理もないことだ。

 今になって突然「改心したからよろしくな!」と言われても、すんなりとは受け止められないだろう。


 なので、食事の間はこれまでに生まれた俺とパトリックたちの溝を埋めるため、いろんな話をした。俺の知り得る情報を総動員して、パトリックたちがこれまでどのような場面で俺――バレットの力になってくれたのか、なるべく具体的にそれを言葉にし、それらについてひとつひとつお礼の言葉を添えていく。


 最初、パトリックたちは茫然と聞いていた。


 これまで――いや、本来だったらこれからも、バレットの口から出ることはないだろう労いの言葉に、彼は信じられないといった様子だったが、次第に表情が緩み、ついには泣きだす者までいた。


「これまで、本当にすまなかった。君たちにはとても感謝している。できれば、これからも付き合ってもらいたい。もちろん、君たちの親御さんとも」


 彼らの親がアルバース家にどれだけ貢献してくれているのか、俺は知っている。

 原作版のバレットは、彼らが奉仕するのは当然のことだと偉ぶっているが、そうやって支えてくれる者がいるからこそ、今のアルバース家があると言って過言ではなかった。


 もし、俺がこのまま問題なく成長し、アルバース家を継ぐこととなれば、ここにいる彼らも親からの役目を引き継ぎ、アルバース家の商人として関わっていくことになる。

 だからこそ、信頼関係はしっかり構築しておかないと。

 


 ――ちなみに、原作でもある【最弱聖剣士の成り上がり】では、ラウルとの最後の戦いで敗れ、バレットが貧民街に消え去ったことで、彼らはその呪縛から解放され、ラウル側について冒険の後押しをする。


 とはいえ、バレットの敗戦以降、彼らが直接本編に顔を出したことはなく、地の文でサラッと存在を匂わせて終わりというパターンが多かった気がする。

 こうして、実際に彼らと会話をしていると、本当にいい子たちなので、原作ではもっと出番があってもいいんじゃないか? まあ、読者から名前を憶えられていほどのキャラではないので、作者的に出す必要性を感じなかったのかもしれないが。


 ともかく、俺はこの食堂での出来事を通して、取り巻きである商人の息子たちとの関係を大きく改善することができた。


 ここで、ひとつ教訓を得る。

 信じてもらうためには、とにかく言葉と行動で示さなくてはダメだということ。


 これを実践していくことが、当面の課題となるだろう。

 行動して信頼を勝ち取る。

 ティーテの件だってそうだ。


 驚くほどすんなり俺の変化を受け入れてくれたが、それは、ほんのわずかだがまだ好意が残っていたから。今回のパトリックたちのように、時間をかけて話し合うことが必要だ。


 まあ、のんびりとやっていこう。

 期間は卒業するまで――チャンスはいくらでもある。

 焦って変な結果を招かないように、そこだけには注意したい。



 こうして、俺たちは充実した楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。



  ◇◇◇



 夕食が終わってからも、俺とティーテは話し込んでいた。

 場所は男女共同で使える談話室。

 ここで、消灯時間になるまでずっと話していたのである。

 会話の内容は些細なことばかりだ。


 例えば、俺の好みの味の話。

 ティーテは聖女であり、家柄も良い。

 屋敷には使用人もいる――が、将来は自分でも料理をしたいと考えているようで、俺の好きな料理を作ってくれるのだという。


「今はまだ修行中の身ですが……いつかおいしい料理を作ってみせるので、待っていてくださいね」

「ああ、楽しみにしているよ」


 こんな感じの日常的会話は、寮長から談話室を出るよう催促されるまで続いたのだった。




 ちなみに、部屋に戻るとメイド三人衆からティーテのことで質問攻めに遭った。


「ティーテ様との仲は私たちが取りもって見せます!」


 マリナが代表して鼻息荒く言うけど、結構いい感じなんで間に合っています。

 というわけで、丁重にお断りをしたが、三人はこれからも俺たちの仲を見守ってくれるらしい。

 なんというか、世話好きの姉が一気に三人できた気分だ。

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