第12話 食堂でひと騒動
時間も時間ということで、めちゃくちゃ腹が減った。
寮には学生食堂があるらしいが……この世界の学食がどんなものか見てみたい。
――というわけで、夕飯のメニューはなんだろうかとティーテに尋ねたら、
「えっ!?」
物凄く驚かれた。
……なんか、オチが読めた気がする。
どうせ、学食の味に対して文句を垂れまくっていたとかだろうなぁ。
もしそうなら、ちょっと行きづらさはある。
「どの面下げて来やがったんだ!」……とか思われそう。
ただ、この世界で平穏無事に生きていくなら、これは避けて通れない道だ。俺は――いや、バレット・アルバースはこれまでにさまざまな悪事を働いてきた。これもそのうちのひとつに違いない。
そこで生まれた誤解をどうやって解いていくか……そこが肝だな。
「あー……たまには食堂で食べるのも悪くないかなって思って」
「そ、そうだったんですね……」
とりあえずそう誤魔化して、一緒に食堂へと向かう。
男子寮と女子寮の間に建てられた小さな木造建ての食堂は、この時間になると学生たちで大賑わいとなる。
しまったな。
もうちょっと時間をずらせばよかったか?
そんなことを考えながら、ティーテと共に食堂へ入る。
学生たちでひしめき合い、賑やかな学生食堂――が、入り口付近で俺の姿を目撃した学生のひとりが、「バ、バレット・アルバース!?」と叫んだ直後、それまでの喧騒が嘘だったかのように静まり返る。
「な、なんでバレット・アルバースがここに……」
「ついこの前、学食の味に対して文句を垂れまくっていたのに……」
やっぱりそうだったのか!
食事を注文するより先に、働いている料理人の人に謝罪しなくちゃいけないかな。
一歩ずつ前進するたびに、学生たちは俺を避けて道ができる。
な、なんて気まずいんだ……。
学生たちからすれば、「なんでここにバレットが!?」と半ばパニック状態ということもあるのか、全員が背筋をピンと伸ばしてひと言も喋らない。脳の情報処理が追いついていないって感じだ。
――だが、この緊迫した空気を切り裂くように、ドタバタとやかましい複数の足音が近づいてくる。
「バレット様あああああああああああああ!!」
俺たちの前に現れた途端、腰を直角に曲げ、深々と頭を下げたのは、ついさっき、庭園でラウルに絡んでいたパトリックだった。さらにその後ろから、チャールズ、レオン、カイル、ビリーと、俺の取り巻きをしている商人の息子たちがやってきて、次々に頭を下げていく。
「お、おいおい……」
これには俺の方が驚いた。
一体なぜ彼らは頭を下げているのか。
俺の機嫌を損ねるような行為はしていない。ラウルに絡んでいたのだって、バレット(原作)が命じたことだ。
彼らに非はない。
バレットの機嫌を損ねたら、アルバース家と取引をしている彼らの父親は仕事がやりづらくなる。下手をしたら、取引を中断され、路頭に迷うことになるかもしれないから。
「と、とりあえず、顔を上げてくれ。その状態だと話ができな――」
「はい! ただいま!」
食い気味に言って、すぐさま行動に移す五人。
乱れのないその動きを見ていると、普段からバレットに対してこのような態度なんだろうなぁと推測できた。
「あ、あの……」
俺が黙っていると、パトリックが恐る恐る声をかけてきた。
周りの学生たちも注目している。
ティーテも固唾を呑んで俺とパトリックを交互に見やる。
「あなたがここへ来たということは……俺たちに何か用がある、と?」
「えっ?」
あ、そうか。
さっき、俺がラウルへ絡んでいるのを止めたから、自分たちが粗相をしたと思ったのか。
「いや、君たちに何か言うつもりでここへ来たんじゃないよ。ただ、ティーテと一緒にご飯を食べようと思って」
「っ! そ、そうだったんですね……て、えぇっ!?!?!?」
「「「「「えぇっ!?!?!?」」」」」
パトリックどころか、その場にいた全員が叫んだ。
……そんなに、バレットが学食で飯を食うのがレアイベントなのか……。
まあ、根気強く行こう。
まずは食堂の料理人たちへ、文句を言ったことの謝罪をし、ティーテも交えながらパトリックたちと食事をし、これまでの無茶な振る舞いを詫びて、これからの関係性についても詳しく話していこう。
前途多難だが、ひとつひとつ確実に「バレット・アルバースは生まれ変わった」という事実を、学園中に浸透させていかなくては。
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