第11話 嫌われ勇者、幼馴染の婚約者といちゃつく
侮っていた。
俺は主人公ラウルの闇の深さを侮っていた。
ラウルが去った後、俺はティーテのところへと戻り、事情を説明。
――と言っても、ラウルのことは伏せておく。
いずれ時が来たら話そうとは思うが、今語るのは……正直、怖い。
真実をさらけ出すことで、やっと近づいてきたティーテの心が一気に離れてしまいそうな気がしたからだ。
もちろん、このままでいいなどとは微塵も思っていない。
しかし、どうしたものか……。
ティーテと肩を並べて歩きながら、俺は原作の学園編を思い出してみる。
そういえば、ラウルは珍しく平民の出だったな。いや、平民の生徒はいるし、決して数が少ないというわけではない。
だが、ラウルの出生は少々複雑だった。
肝心なところはネタバレ防止のためか明かされていないが、確か五歳よりも前の記憶がなくて、気づいた時にはひとりぼっちだったはず。今回の学園入学については、貧民街で偶然彼の剣士としての資質に気づいた学園長が特別に呼んだと書かれてあったような――
「あの、バレット……難しい顔をしているようだけど……何かあった?」
心配げに俺の顔を覗き込むティーテ。
そこでようやく眉間にシワを寄せて俯いていることに気がついた。
……うん。
ティーテに無駄な心配をかけないよう、彼女の前では常に彼女のことだけを考えるようにしよう。
「なんでもないよ、ティーテ」
「そ、そうですか……」
うん?
ティーテの様子が何か変なような――と、思った次の瞬間、俺の左手に温かな感触が。
なんと! ティーテが俺の手を握ったのだ。
「! ティ、ティーテ!?」
「あ、ご、ごめんなさい! ……嫌でした?」
「とんでもない!」
即座に否定する。
「ちょっと驚いただけだよ」
「じゃ、じゃあ」
「このままでいよう」
俺はティーテの手を握り返す。
すると、彼女の頬は緩み、目を細め、クスクスと笑う。
いいぞ。
笑顔が凄く自然な感じだ。
「なあ、ティーテ。あそこのベンチに座らないか?」
「はい!」
少し歩き疲れたので、ティーテにそう提案し、木製ベンチに腰掛ける。
聞こえてくるのは近くにある噴水から出る水の音と小鳥の囀りのみ。
なんという癒しの空間。
こんなところで休憩していたら、たまりにたまった疲労が全身の穴という穴から溶けだしてきそうな気さえする。
「でも、バレットは凄いですね」
おもむろに、ティーテがそんなことを言う。
「どうして?」
「聖剣使いであることを予言して、実際にそうなってしまうのですから」
あれはオチを知っていたから――などと言えるわけがないので、照れ笑いで誤魔化しておくことにした。
「そういうティーテこそ、聖女なんて凄いじゃないか」
「あ、あれはたまたまで……」
「いや、きっと神様がティーテを選んだんだ。俺はそう思うよ」
これについては率直にそうだと感じていた。
だって、ティーテは本当にいい子だし。
ティーテ・エーレンヴェルクという少女を知る人に、「実は彼女は聖女なんだ」って言ったとしても、「ああ、やっぱりね」というリアクションが返ってくるのは間違いない。
……マジで、原作のバレットはティーテのどこが気に入らなかったのか。
まあ、ただの女好きってだけなのかもしれないが。
それから、ティーテと他愛ない会話で盛り上がった。
俺にはバレット・アルバースの記憶が残されているが、思いのほか人物相関図についての情報は少なかった。
たとえば、神授の儀で出会ったコルネル。
彼女は【最弱聖剣士の成り上がり】の本編には登場しない。もしかしたら、作者が後々登場させようと温めていた人物かもしれないが、そこまで重要そうな秘密を隠しているとも思えなかった。
元々バレットが他人に興味関心があまりないといういい加減な男なので、彼女に関する情報はほとんどなかったし、原作に登場しないから俺も情報を持ち合わせていない。
なので、元々のバレットの性格を利用して、素直に分からないとティーテに告げる。ティーテも、これまでのバレットの振る舞いからそれを理解しているので、いろいろと補足情報をくれたので助かった。
楽しくおしゃべりをしていたが、気がつくと日が暮れ、寮に戻らなければならない時間となった。
寮は当然ながら男女別。
さすがにそこはバレットでも特別扱いされていない。
つまり、寮の食堂で一緒に食事をしてから俺たちが会えるのは次の日ということになる。
「名残惜しいです」
「俺もだよ」
今度は自然な流れで手をつなぎ、俺たちは寮へと戻った。
さて……飯食って部屋に戻ったら主人公ラウル対策を考えないとな。
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