第19話 嫌われ勇者、残念美人教師と出会う
「若人の悩みを解決するのも教師の役目だからね~。相談に乗るよ~?」
「テシェイラ先生……」
学園一の問題教師にして学園一の美人。
紫色の長い髪に片眼鏡――一見すると知的な印象を受ける。……いや、実際のところ本当の天才なのだからイメージ通りといえばその通りなのだが。
「よっと」
積まれた本の上からジャンプし、見事に着地成功。
パンパンとスカートについた埃を払ってから、俺の方を向く。
「とりあえず、研究室に行こうか。実を言うと、明日にでも君を呼びだそうと思っていたところなんだ。そちらから来てくれて手間が省けた」
「は、はあ……」
俺を呼ぶって……ああ、そうか。原作だと、聖剣を調査するから貸してくれって依頼するんだったな。
「さあ、入ってくれ。散らかっていて申し訳ないが」
謙遜とかではなく、本当にとんでもなく散らかっていたテシェイラ先生の研究室。足の踏み場もないとはまさにこの空間を表現するために作られた言葉なんじゃないかって思えるくらいだ。
「早速で悪いんだが、君の聖剣を見せてもらっていいかな?」
「どうぞ」
俺は言われるがまま、聖剣を差し出す。
すると、テシェイラ先生は「えっ!?」と言ってたじろいだ。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや、聞いておいてなんだが、まさかそんなにすんなりと渡してくれるとは思っていなかったんだ。……どうやら例の噂は本当のようだね」
「噂?」
「君の性格が大きな変化を遂げているという話さ。みんな言っているぞ、まるで人が変わったようだと」
大体その通りなんですけどね。
「まあ、私としては聖剣をこの目で見ることができて満足なんだが……どれどれ……」
研究者モードに入ったテシェイラ先生はジッと聖剣を見つめる。
片眼鏡越しの青い瞳。
少しタレ気味なその目に映し出される聖剣。
先ほどまでのニヤニヤした表情から一変し、真面目な顔つきとなっている。
黙っていれば、本当に美人だな、この人。
それから五分間ほど見つめ続け、
「ふぅ~……堪能したぁ」
近くにあったイスにドカッと乱暴に腰かけながらそう言って、聖剣を返してくれた。
「当たり前だけど、いいモノだねぇ~……ただ、クセも強いようだし、使いこなせるようになるには相当な鍛錬が必要になりそうだ」
「やっぱりそうなんですか」
「うん。でもこれは驚きだ。聖剣といえば、無条件に選ばれた者に力を貸すというのが定説だったからね。これだと、まるで選ばれた者を試しているような気さえする」
聖剣は扱う者を試す。
それは、朝の自主鍛錬で俺がたどり着いた答えと同じだった。
原作のバレットはここに気づかなかった。
だから、聖剣をうまく使いこなせなかったんだ。
バレットが意地を張らずに聖剣をテシェイラ先生に預けて、その力を分析してもらっていたら、また違った未来があったかもしれない。
……とはいえ、原作におけるバレットのキャラ設定からしてそんなことはあり得ないのだろうし、そもそも読者はバレットにそんな建設的な思考を求めてはいないのだろうが。
「よければ、今後もたまに聖剣を見させてもらっていいかな?」
「是非お願いします。俺も聖剣の制御に苦労しているので、先生から何かアドバイスをいただければ幸いです」
「ははは、本当に変わったんだなぁ、君は。ただ、私が言えるのは聖剣の性質に関することくらいだ。技術的なことは、学年主任のウォルター先生に聞くといい」
「分かりました」
俺は深く頭を下げた。
聖剣をコントロールするには、テシェイラ先生とウォルター先生の協力が不可欠……これが分かっただけでも、相談しに来た甲斐があったというものだ。
――と、そうだ。
念のため、アレについても聞いておこう。
「テシェイラ先生」
「なんだ?」
「ラウル・ローレンツの魔剣についてはどう考えていますか?」
「…………」
俺が魔剣という単語を口にした途端、テシェイラ先生の表情が曇った。
「アレについてはまだ何も言えない。正直、関連資料が君の持つ聖剣よりも少ないのでね。そういう意味では、研究欲をそそられるともいえるけど。一応、彼の意識が戻ったら、声をかけてみるつもりではいる」
「なるほど」
つまり、聖騎士クラウスの弟子入りこそ叶わなかったが、テシェイラ先生と出会えるフラグは立ったわけだ。……ハーレムルートかどうかは知らんけど。
ともかく、俺はテシェイラ先生に「魔剣に興味がある」と告げ、分かったことがあったら情報をもらえるように頼んでおいた。その代わりと言っては何だが、定期的に聖剣を見せに来るとも伝えた。
さて、と。
そろそろ寮に戻るか。
ティーテと話せなかったのは残念だけど、今後、俺が取るべき行動の方向性についてはだいぶ固まってきた。
とりあえず、ラウルの件がハッキリするまで、ティーテとの学園生活を楽しませてもらうとするかな。
あ。
あと、信頼回復も忘れないように。
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