第213話
三人のやりとりがしばらく続いていたが、レイラは二人の仲睦まじい様子を見て満足し、蒼太たちのもとへ戻ってくる。
「もういいのか?」
「うん、二人ともあたしがいなくなってもずっと幸せでいてくれそうだからね」
蒼太の問いにすっきりとした表情でレイラが答えた。
「よし、それじゃ出発だ!」
蒼太のかけ声で、一行は本来の姿に戻っている古龍の背中へと乗り込んでいった。
「進路は昨日の夜言った通り、上空からなら一発でわかるはずだ」
『うむ、了解しておるのう。みな準備がよければ出発するぞ』
「いいみたいだ。頼む」
全員が頷いたのを確認すると、蒼太がそれを古龍へと伝える。
古龍は大きなはためきで空へと舞い上がり、聖地を飛び出していく。レイラは島の二人に手を振るが、感慨にふける間もなく古龍は雲の中へと入っていった。
「あ、あれ? 速くない? って、えええええ! 何これ、雷が!!」
あっという間に島が見えなくなったことに驚いていたが、雲の中に入るとあまりの雷の多さにレイラは大声を出してしまう。
「この雲を抜ければ外の世界だ。雷は……まあ我慢しろ、当たらないようにはなってるはずだ。多分」
「えっ? ほ、本当に大丈夫なの? 多分ってどういうこと!?」
レイラは慌てた様子でディーナやアトラを見ると、二人は何が起きても対応できるように構えていた。
「二人とも構えてるけど、本当に大丈夫なの!? きゃああ!」
古龍の近くを雷が通ったことで、レイラは目をつむって小さくなる。
「大丈夫だ、俺たちにはあたらない。はずだ」
再びフォローいれる蒼太の言葉は、これまた再び不安になる言葉が最後についていたため、レイラは混乱の最中にあった。実際には来た時と同様、蒼太が防壁を張っていたため直撃する危険はなかったが、余りの驚きように少しいじわるをしていた。
ディーナとアトラは、万が一に備えて構えていたがそれが余計にレイラの不安を煽ってしまっていた。
『かっかっか、そんなに怯えんでも大丈夫だのう。そもそもこやつらが雷の直撃を受けるようなヘマをすると思うか?』
古龍のフォローに、そう言われればとレイラは落ち着きを取り戻す。
「まあそういうことだ」
「あー、よく見たら防壁張ってるんだね。それなら安心だ。ひゃん!」
安心した側から、防壁に雷が直撃したためレイラは妙な声を出してしまった。
「そういうことがあるから、ディーナとアトラは構えているんだが」
蒼太の言葉に二人は頷き、再び雷に対しての準備をする。
「あ、あたしはどうすればいい?」
「うーん、とりあえず待機だな」
レイラの武器は槍であり、それを構えてしまうと避雷針になりかねないため蒼太は待機を命じる。
「う、うん」
指示通り待機をするが、周囲には未だ雷が飛び交っており落ち着かない様子であった。
しばらくすると、浮遊島のあった雲から飛び出し静かな空へと出る。
「うわー! すごい、すごい広い!!」
一面に広がる青空にレイラは感動して、古龍の背中の上で飛び跳ねていた。
「初めて外に出たならその感動もひとしおだな……落ちるなよ?」
蒼太の言葉も耳に入らないくらいレイラは感動に打ち震えている。
「まあ、しばらくは飛行移動だからそのまま味わっていてくれ。方向はわかってるな? 頼むぞ」
『うむ、任しておけ』
古龍は視界が開けたことで大きく翼を動かしてゆっくりと迷宮のある島へと向かっていった。
移動中レイラは興奮しっぱなしだったが、はしゃぎすぎて疲れたのかそのまま古龍の背中で横になって眠ってしまった。
「こいつのことだから、おそらく俺たちがいつ来るかわからないって家の前でずっと待っていたんだろうな。しばらく寝かせておいてやろう」
蒼太の言葉を聞いて、古龍は気持ち速度を緩める。
ゆったりとした旅は蒼太たちにも風景を眺める余裕をもたらしていた。
「うわー、綺麗ですね」
次第に下に広がる雲も晴れ、遠くの方に海が見えてくる。飛行している高度から見る海は壮観だった。
『あれが海か……話には聞いたことがあるが私も初めて見るな』
表情は変わらなかったがアトラにとってもその風景には心に訴えかけるものがあった。
それからしばらく海に向かって進むと、今度はその向こうに切り立った岩山が見えてくる。現在の高度はかなり高いはずだったが、それでも真っすぐ進めばひっかかってしまうほど岩山は高くそびえていた。
『あれか……しっかし、高いのう』
古龍もこのあたりまで来るのは初めてのことだったらしくその高さに驚きを見せた。
「そう、みたいだな。とりあえず高度を上げてもらって上から入れるかどうか挑戦してみてくれ」
『承知したのう』
古龍は現在の高さから更に高度をあげると、山によって円状に囲まれたその中央には、神殿のような様相の迷宮が確認できた。
『ゆっくりと降りるから、周囲の警戒はしておいてくれのう』
古龍に促され、蒼太は気配察知スキルを、ディーナやアトラは目視で何かないかと確認していた。空飛ぶ魔物が蒼太たちに向かって来ようとしたが、古龍の姿と気配によって恐れをなし戻っていってしまう。
「これなら何の問題もなくいけそうだな」
蒼太の言葉通り、地上まで何の問題なく辿り着くことができた。
着地の振動でレイラも目を覚ます。
「ん? ふわあ、着いたのかな?」
目を擦りながら周囲を確認すると、そこには竜人族の神殿よりやや小ぶりなサイズの神殿があった。
「ちいさっ! も、もしかしてこれが迷宮ってやつ? もっと、こう、洞窟みたいなのを想像していたんだけど……」
「確かにな……おそらく外観は神殿になっていて、中は空間魔法で広がっているんだろう。広すぎて探索しきれないなんてことがなければいいんだが」
一行は神殿を見ながら、蒼太の言葉に頷いていた。
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