第211話



 徐々に意識がはっきりしてきたレイラは周囲に誰がいるのか把握していく。


「あ、あれ? あたし……たしかおじいちゃんと……あー! あぁ、負けたんだ」


 彼女は戦いを思い出し、負けたことを思い出し、声をあげ、そして結果を受け入れ肩を落とした。


「わしも久しぶりに誰かと戦ったからか、少し鈍っていたな」


 そのガインの言葉が追い討ちをかける。


「おじいちゃんひどいよ。強すぎだよ……」


 チラリとガインを見て、彼女は更に肩を落としていた。



「まあ、戦闘経験に差がありすぎるな。レイラは格上との戦いをほとんど経験してないだろ? その点ガインはあいつの弟だけあって、戦いの経験が豊富だな」


「うむ、まだまだ若い者には負けんよ」


 蒼太の言葉にガインはにやりと笑みを見せる。


「もう、おじいちゃん! あたしを島から出したくないからって、あんなに本気で邪魔しなくてもいいじゃないか!!」 


 立ち上がったレイラは、先ほどまでの傷心ぶりはどこかに消えガインに詰め寄って行く。


「お、落ち着きなさい。わしは何も邪魔をしたわけではないぞ」


「あれが邪魔じゃないなら、なんなんだよ! 途中から現れて、今まで戦ったところなんて見たことないのにあんなに強くて……」


 彼女はガインを睨みながらも感情が昂ぶりすぎて、涙が目から溢れていた。



「な、泣かんでくれ」


 ガインはおろおろと慌てて蒼太たちに救いを求める視線を送っていた。


「レイラ、もう少し感情を抑えて人の話を最後まで聞け。ガインがあそこで出て行ったのは、お前の力を間近で見せてもらうためだ。そして、格上の敵を相手どった時にどうなるかもな」


「?」


 蒼太の言葉が何を意味しているのかわからないレイラは涙を拭いながら首を傾げるだけだった。


「わかっていないみたいだな……ガイン、お前の判断を聞かせてやってくれ」


 蒼太に促されると、ガインは頷いてレイラの目を見る。



「レイラ、強くなったな。ここで同年代の連中を相手に調子に乗っていた時とは比べものにならん。その槍の力もあるかもしれんが、お前自身が強くなりたいと考えた結果じゃと思う」


 急に褒められたことで、彼女は困惑している。


「まだわからんのか……はぁ、我が孫ながら理解力が乏しくて困ったものじゃ」


 ガインは彼女の反応に肩を落とす。


「そもそもガインは、向かって来た相手を全員倒せとは言ってないだろ? お前の力を見せてくれと言ったんだ」


 その様子をみかねて、蒼太が再びフォローを入れた。



「えーっと、つまり?」


「ここまで言ってもわからんのか……十分力を持っているのは見せてもらった、つまりソータ殿に迷惑をかけるなよということじゃ」


 レイラはそこまで聞いてようやく状況を把握する。


「じゃ、じゃあ、行ってもいいの? ソータさんたちについて行っていい?」


 その質問にガインは無言で頷く。


「……やった!!」


 レイラは、大声で喜びを表現するとそのままガインに抱きついた。


「おじいちゃん、ありがとう!」


「おおう、喜んでくれてよかったよ。それにレイラの強さもみることができたからの」


 ガインは素直に喜ぶ孫に相好を崩し、でれでれの表情だった。



「あー、喜んでとこ悪いが、確認しておきたい。本当にいいのか?」


 蒼太の言葉は、喜ぶ二人を冷静にさせる。


「いいのか? とはどういう意味かの」


 ガインが蒼太に言葉の真意を尋ねる。


「正直なところを言えば、俺たちがこれから向かう先は安全な場所ではないだろうし、それこそ自分の身は自分で守れないと命を失うかもしれない。成長を考えればいい経験をさせられるとは思うが、それでも命を失う危険と隣り合わせなのは否定できない。それでもレイラは行くのか? レイラを行かせてもいいのか?」


 蒼太は真剣な表情で二人に質問を投げる。



「……命をかけられる覚悟があるかはわからないけど、それでもあたしはみんなについて行きたい。そして強くなって、一緒に戦いたい!」


 レイラの目は本気で、強い意思を感じとることができた。


「ここまで言っておるんじゃ、わしはレイラの意見を尊重する。もちろん何かあってもソータ殿たちを責めるようなことはせん」


 ガインも覚悟を決め、腹を括る。


「わかった。次の質問だが、俺たちはその迷宮に行ったあと地上の街にも行くと思うが、その時に竜人族がいるとわかったら騒ぎになるかもしれないが、それも構わないのか?」


「むむむ、そこまでは考えていなかったな……」


 ガインの表情は苦いものへと変わる。



「俺が聞きたいのは、別に構わないか困るかのどちらなのかだ。困るなら、俺が持っている偽装の腕輪を使ってもらえば見た目を偽ることができるから問題はないと思う」


「おぉ、そんなものがあるのか。それは助かる、長い間姿を現さなかった竜人族がそのままの姿でおれば、大騒ぎになりかねんからの」


 蒼太はその言葉で問題があることを理解し、カバンから腕輪を取り出してレイラへと手渡す。


「これ、腕につければいいだけなの?」


「あぁ、つけたら腕輪に魔力を流してくれ」


 レイラが蒼太に言われた通りにすると、レイラの姿は竜人族のそれから人族のそれへと変化していった。元々人族に近い容姿ではあったが生えていた頭の角や尻尾が消えていく。



「わわっ、これすごいね。本当に角とかなくなってる!」


 レイラは変わった自分の姿に驚いて何度も頭を触って角がないことを確認していた。


「これならばれることはないだろ。これから行く迷宮はいいが外したら元通りだから、地上に降りたらなるべくつけておけよ。それと、竜人族の力を本気で使う時は元の姿に戻っていないと制限がかかるから、それだけ注意してくれ」


 偽装の腕輪は蒼太のように髪や目の色を変えるだけであれば制限はかからなかったが、他種族になるほどの大きな変化となると能力的な制限がかかることがあった。


「はーい、でもこの状態で強くなれれば元の姿に戻った時もっと強くなってそう……楽しみ!」


 確認が終わったレイラは偽装の腕輪を自分の荷物に収納した。



「あのー、そろそろいいですか?」


 一連のやりとりがひと段落ついたところで、レイラに倒された男の一人が声をかけてきた。


「ん? あぁ、いいぞ」


 何をしたいのか予想がついていたので、蒼太たち一行はレイラから離れて距離をとった。


「よし、みんないくぞ!」



 男の掛け声とともに、レイラのもとへと竜人族の仲間たちが押しかけて胴上げが始まった。


「わ、わわわ、な、何!?」


「レイラおめでとう! 無事に帰ってこいよ!!」


 彼らは口々にレイラへの激励の言葉を伝え、高く高く彼女を空中に飛ばし上げていた。

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