第209話
それからというもの、レイラは毎日ガインの説得に奮闘していた。ガインはといえば、いいともダメだとも返事はせず返答保留を貫いていた。レイラが説得に疲れて一旦諦めたあと、ガインは蒼太たちのもとを訪れていた。
「そうかそうか、レイラは強かったか!」
訪れてはレイラの神殿での戦い振りを聞いて相好を崩して満足すると家に戻って行った。
「ふぅ、やっと帰ったか。レイラのことを面と向かって褒めたいけど、今は説得中だから甘い顔を見せないようにしているんだろうな」
蒼太はため息をついたが、ガインの気持ちに理解を示していた。
「迷宮に行くという話がなければ、素直にレイラさんの活躍と成長を喜べたでしょうからねえ」
ディーナも大きく頷きながら、ガインの今の立場に同情を見せていた。
『気持ちはわからなくはないが、こう毎日来てはな……』
アトラは一階で休んでいることが多いため、同じことを繰り返し聞き話すガインに辟易としていた。
「まあ、それも今日で終わりだ。約束の一週間になるからな、明日の朝にガインの家に言って結論を聞いて出発しよう」
「もしダメだということになったらどうします?」
「その場合は仕方ない、レイラには諦めてもらおう」
蒼太のあっさりとした言葉に、ディーナはやや不満を持つ。
「いいんですか?」
「……結局のところは竜人族の判断だからな。数百年という長い時間この聖地で過ごし続けていた一族だ。俺たちの意見で方針を覆していいものでもないと思う。それに、正しい判断をするためにレイラの説得を聞いたあとここでレイラの戦い振りについて何度も確認していたんだろうさ」
蒼太は一族の長の判断の重みというものを蒼太は考えたうえで、ガインの決断を尊重するつもりだった。それを聞いたディーナもそれならば、と納得する。
「どちらにせよ、レイラさんにとってよい道が開かれるといいですね」
決闘したことで、どこか通じ合うものを感じていたディーナは彼女の幸運を願っていた。
『この島に残ることが幸せな場合もあるからのう』
それまで無言で室内をふらふらと飛んでいた古龍が話に加わってくる。
『次に行く迷宮は一筋縄ではいかんようだ。そこに彼女を連れて行くのは危険だといえるからのう。このままここに残り生きていくのも悪くはないだろうのう』
古龍は残る可能性も悪くないと考えているようだった。長い時間生きている古龍ならではの長い目でみた意見だった。その意見に対して、蒼太たちは何も言えずにいた。
翌朝 ガインの屋敷応接室
そこには、蒼太たち一行と、ガイン、レイラがおりその場を沈黙が支配していた。全員が揃ってからも話が始まらないので、蒼太が話を切り出す。
「それで、レイラの件について結論は出たのか?」
そう振られてガインが目を開いた。
「そうだな……もう一度確認させてもらうが、これから迷宮に向かうあたってレイラは足手まといにはならんか?」
「俺たちの面子の中では何ランクか実力が下なのは本当だ。ディーナと戦った時点であれば、足手まといどころか使えないという判断だったが、まあ神殿での戦いを見る限りそこそこ使えるようになったとは思う。俺が渡した武器もそこそこ上手く使いこなせていた。あの成長度合いから見ると、今まで伸び悩んでいたのは環境のせいというのもあると思う。もしかしたら、今回の旅で再び成長するのでは、という期待は持っている」
蒼太の言葉にレイラはがっくり肩を落としたと思えば顔を上げたり、笑顔になったりと一人百面相をしていた。
「結論としては、現状は足手まといだが、経験を積めば見込みはある。といったところか」
ガインは蒼太の言葉を額面通りには受け取らず、言葉の真意を汲んでいく。
「その通りだ、まあそれもレイラ次第といったところだがな。本人に変わろうという意思がなければ何も変わらないだろうからな」
「あたしがんばるよ! 変わりたい! 変わる、強くなるよ!!」
レイラは立ち上がって宣言する。いつものような勢いだけでの発言とは異なり、彼女の目には強い意志が秘められていた。
「……わかった。お前が覚悟しているなら、許可しよう」
「やったー! おじいちゃん大好き!!」
レイラは喜んでその場で何度かジャンプするとガインに抱きつこうとする。
「ただし!」
が、ガインの言葉でその動きを止めた。
「わしはレイラの今の力というものを知らん、それを見せてわしを納得させてくれ」
「わかった! でも、どうすればいい?」
レイラが尋ねると、ガインは立ち上がり窓へと近づいて行く。
「聞いておったな! お前ら、レイラに今まで負けた鬱憤を晴らす最後の機会だ! 相手をしてもらえ!!」
「おおおぉ!」
窓の外には、その場を埋め尽くす程の竜人族が待機しており、ガインの呼びかけに鬨をあげた。
「え? えぇぇえ? みんな外にいたの? な、なんで?」
レイラはガインに許可をもらうことだけに集中していたため、外の様子に気づいていなかった。
「レイラ、出るぞ。これがガインが用意した最後のテストらしいからな……勢い余って殺すなよ?」
レイラがグニルを完全に使いこなしているとは言いがたいため、蒼太は念のために釘を刺した。
「う、うん、行ってくるよ!」
蒼太の言葉にグニルを握り締めたレイラは、勢いよく外へと飛び出して行った。
「あいつ、本当にわかってるのか?」
「うーん少し心配ですね……私たちも行きましょうか」
何かあった時のために回復役として、ディーナは待機することにする。
「そうだな、俺たちも外に行こう」
蒼太たちが外に出ると、既に戦いは始まっていた。若い竜人族たちがレイラに向かって行き、既に何人もが吹き飛ばされ気絶していた。
「これは壮観だな……一人一人回復してたら間に合いそうにないか。確かあれがあったはず……」
蒼太は人知れず亜空庫からアイテムを出し、それの設置を始めていた。
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