第207話

「あー、帰りもあのゴーレムのとこ通らなきゃなのかなあ?」


 レイラは全力の戦いを思い出し、辟易とする。


「それでもいいんだが……帰りくらいはどこかに」


 蒼太はなにかを探すようにフロア内を散策していく。ディーナもそれに倣ってフロア内を確認していた。


「あ、ソータさん! もしかしてこれですか?」



「どれどれ?」


 何かを見つけたディーナの声に蒼太が近寄って来る。


「これなんですが……」


 そこにはずっと使われずにいたのであろうと思われる埃を被った魔方陣がある。それは蒼太が召喚された際の円の魔法陣とは異なり、四角い方陣であった。


「……うん、これっぽいな。とりあえず綺麗にしておこう。クリーン」


 魔方陣の汚れが落とされていき、本来の姿を取り戻していく。



「これは……」


 蒼太はしゃがみながらその魔方陣に触れるとその発動条件と、効果内容を調べていく。


『ふむふむ、どうやら出る場合には族長がどうこうという条件は関係ないようだのう』


「わかるのか?」


『うむ、暇つぶしに色々と調べてみたからのう。以前の石熱病の薬の時と同様で古い知識だがのう。これも古いタイプのようだから、我の判断もあってると思うのう』


 古龍の判断も後押しとなり、蒼太は自分の判断に自信を持つ。



「なら、とりあえず起動してみるか。アトラと古龍は小さいタイプに変身しておいてくれ。魔方陣のサイズが小さいから今のままだとはみ出るからな」


 蒼太に言われ二人とも子狼、子竜サイズに変形する。


「ソータさんと古龍様って強いだけじゃなく色々知っててすごいね!」


 レイラは憧憬の眼差しで二人を見ていた。


「これの作成者に直接師事したからな。癖みたいなものもあるし、意外とわかりやすい」


 蒼太はそう答えると、魔力を流していく。



 すると魔方陣はそれに応えるように光を放ちはじめる。


「よし、順番に入ってくれ。俺は最後まで確認してから入ろう」


 蒼太に促され、レイラが魔方陣の上に乗っていくと強い光を放ち転移していく。光が収まってくると、ディーナ、アトラ、古龍と続けて入り問題なく転移されるのを確認する。


「レジナード、ありがとうな……」


 そう呟くと蒼太も魔方陣に乗って転移していく。レジナードの宝玉はただ静かに光を放っていた。



「あ、来ました。ソータさんお帰りなさい!」


 蒼太の姿が見えるとディーナが駆け寄って声をかけていく。それに追随するようにエドも寄って来た。


「あぁ、ただいま。ここに出てくるのか」


 あたりを見回すと、レイラが手をあてて開いた巨大な扉があるのと同じフロアだった。よく見ると蒼太の足元にも似たような魔方陣が設置されているが光は放っていなかった。


「こっちの魔方陣だと……確かに何かキーになるものが必要みたいだな。竜人族の族長になったら手に入る物なのか、印なのか何かはわからんが」


 蒼太の予想は当たっており、物、印の両方が必要だった。



「とりあえずは戻ろう。これからの俺たちの動向をガインにも話しておかないとだからな」


 蒼太はチラリとレイラに視線を送る。当のレイラはアトラと戯れていた。


「エド、ただいま。戻ったばかりで悪いが、このまま戻っても大丈夫か?」


 レイラからエドへと視線を移すと、蒼太はその頭を撫でながら声をかける。


「ヒヒーン」


 エドは頷いてから声をあげる。その目はそれが俺の仕事だから任せろ。そう言っているようだった。



 一行を乗せた馬車を引き、エドは来た道を戻って行く。


「さて、このあとは迷宮に行く予定だが……その前にしっかり話し合っておかないとだな」


 蒼太は馬車の中でみんな、主にレイラに向かって話し始める。御者台には代わりにディーナが座っていた。


「話すってその迷宮についてってこと?」


 レイラは何のことか見当がついていなかったため、そう質問するが蒼太は首を横に振る。古龍とアトラは話の内容に見当がついていたため、この場は無言を貫いている。



「いや、レイラ。お前の今後の処遇についてだ。今回の神殿に同行してもらったのは、レイラが自分から言い出したのと、入るために竜人族の協力が必要だったからだ。だが次の迷宮となると話は違う。古龍は俺たちを連れていってくれる。ディーナは俺の仲間で、アトラは俺と契約している獣魔だ」


 そこまで言うとようやく話の流れを理解したのかレイラは俯いてしまう。


「竜人族がこの島から出ることはほとんどないんだろ? 出る手段がないからなのか、しきたりで決まっているからなのかはわからないが、それこそ数百年の単位でも稀な話だ。と、なるとレイラがもし俺たちについて行きたいと言ったとしても、その許可がおりるとは限らない」


 蒼太が現状を分析した結果を淡々と話していくと、レイラが勢いよく顔を挙げた。



「でも! それでもあたしはついて行きたい! おじいちゃんなら何とか説得するから連れて行ってほしい!!」


 そう言ったレイラの目は真剣そのものだった。神殿に行きたいと言った時は自身の好奇心を満たすためのただの興味本位だったが、迷宮への同行は今回のゴーレムたちとの戦いで感じとった自分の成長からくるものであった。もっと自分の力を発揮したい、そういう気持ちが彼女の表情に表れていた。


「ふぅ、そうか。なら戻ってそれをガインに話そう。俺としても使える戦力ならついてきてもらって構わない。さすがに今回のようにうかつに動いてトラップを発動されても困るがな」


「そ、それは……ごめんなさい。でも、がんばるから連れて行って下さい!」



 御者台で話を聞いていたディーナもレイラの反応を好ましく思い、微笑んでいた。


「とりあえず……ガインの説得はがんばってくれ。俺も後押しはさせてもらうが、最後に物を言うのは自分自身の強い気持ちのはずだ」


 レイラはそれを聞いて大きく頷いた。


『まあ、そう急ぐことでもないだろうからゆっくり説得すればよいだろうのう。迷宮へ移動するとなれば、すぐに行けるだろうからのう』


「そうだな、時間制限は特にないからな。それでも待って一週間といったところだが」


 古龍の言葉に蒼太も同意する。


「それだけあれば十分だよ! 戻ったらすぐにおじいちゃんに話してみるよ!」


 それからのレイラはどうやってガインを説得するかを戻るまでの間ずっと悩んでいた。

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