第206話

「本題についての話はほとんど聞くことができなかったが、新しく面白い情報は得られた」


 蒼太も求めている情報が得られなかったことは残念に思っていたが、それでも今後の行動において有用なことを聞けたため落ち込む様子はみられなかった。


「どういう情報ですか?」


 ディーナの質問に蒼太は頷いて、話し始める。


「グレヴィンは延長された寿命を活かして、色々なアイテムを作っていたんだ。日常で使われるようなアイテムももちろん作っていたんだが、それ以外に戦いなどで使える一歩用法を間違えれば危険なアイテム類もたくさん作成していた。そして、それらは全て普通では辿り着けないような場所に保管されているということだった」



『グレゴール殿ならやりそうなことだ。おそらくその保管されている場所というのも一筋縄ではいかないのだろうな』


 予想を交えたアトラの言葉はグレヴィンの性格を正確にとらえており、その通りだと蒼太も頷いていた。


「その場所は海の上にある孤島でその中央に保管されている迷宮があるんだが、島の外回りはぐるっと岩山で囲まれている。中に入るには切り立った岩山を乗り越えるか、それこそ空から向かうしかないらしい。幸い俺たちは空から向かう手段はあるから、それ自体は問題にならないだろう」


 蒼太は古龍をみながら言った。


『うむ、それくらいなら容易いことだのう。我が連れていってやろう』



「頼んだぞ」


 口にしたのは短い言葉だったが、蒼太は古龍の存在を頼もしく思っていた。


「これで向かう手段は解消できたが、問題は中に入ってからだな」


「あー、ですねえ」


『うむ、おそらくここなど難易度としては低いだろうな』


 蒼太、ディーナ、アトラは難しい顔になっていた。



「みんな強いから大丈夫でしょ。ここだって結構あっさりクリアできたじゃない!」


 レイラは先ほどの戦いで自信を持ったのと、蒼太たちの実力を目の当たりにしたため楽観的な意見を口にした。


「そうだな。ここくらいの難易度だったらいいんだが……ここはあくまで竜人族の神殿だ。グレヴィンが仕掛けに手を貸したといっても、遠慮しながらという部分もあっただろうな。だが、次はおそらくグレヴィンが好き勝手作ったものだし、中にあるアイテムがアイテムだから気合を入れていかないと俺たちでも危険かもしれない」


 蒼太の言葉には実感のこもった重みがあり、レイラは唾を飲み込んだ。



『ソータ殿の言う通りだな、私の元主人でありながらその意見には賛同せざるを得ない』


「私もそう思います。今回、この神殿でもいくつかのトラップを発動させてしまいましたが、その迷宮では発動させただけでも危ないと思ったほうがいいでしょう」


 アトラ、ディーナが蒼太の意見を肯定することで、よりその言葉の真実味が増していく。


『かっかっか、お主たちほどの実力の持ち主にそこまで言わせるとは相当な傑物のようだのう』


 古龍は豪快に笑い楽しみにしているが、レイラはこれまでのやりとりに頬をひくつかせていた。



 冷静に考えてみるとこの中で一番実力で劣るのはレイラであり、トラップを発動させていたのも全てレイラであった。そのため徐々に自信がなくなり、肩を落としていく。


「あ、あたしってもしかして足手まとい?」


 思考が徐々に暗い方向に進み、ついにはそんなことを呟いてしまう。


「あー、その表情の変化からみるに色々考え込んでいるのはわかったが、特に気にすることはないと思うぞ。若いし、俺たちはそれなりに経験を積んでいるからな。この島の中だけで生活していてそれだけの実力があるなら十分なんじゃないか」


 蒼太のフォローの言葉にレイラは顔をあげる。



「そうですよ。それに、ゴーレムも倒したじゃないですか。ここに来る前と、今でかなりの成長をしてると思いますよ!」


 ディーナは両の握りこぶしを作ってレイラに向かって熱弁をふるう。


「そ、そうかな?」


『うむ、私は一緒に戦ったからわかるが、レイラ殿はソータ殿より受け取った槍を使いこなして見事にゴーレムと戦っていた。ディーナ殿と戦った時のレイラ殿から見ると、相当な成長を遂げている』


 共に戦ったアトラの言葉は最も胸に届いたらしく、レイラの表情が目に見えて明るくなっていく。



「えへへ、そんなこと、あるかも? まあ、あたしがいればその迷宮もどんとこいだね!」


「そうやって調子に乗らなければよかったんだがな、まあ俺たちにつっかかってきた頃に比べればましか……」


 ディーナとアトラと盛り上がっているレイラの耳には蒼太の呟きは届いていなかった。


『かっかっか、一人くらい不安要素があったほうが面白いからいいのではないかのう。連れて行くつもりなんじゃろ?』


 古龍の言葉に蒼太は微妙な表情で頷いた。


「まあ、そうなんだが……あいつのお調子者な性格はおいとくとして、センスはある。ずっとこの島にいるだけじゃ能力の開花はないだろうからな、少しでも経験を積むことでレジナードに近づけるんじゃないかと思ってはいる」



『その顔は何か問題でもあるという顔だのう』


「まあ、な。ディーナは千年前から知っている俺の大事な仲間だ。アトラは俺の仲間だった男と契約した獣魔だったし、今は俺と契約している。あんたはなんというか、色々を気にしなくても問題はない存在だろ? だが、あいつは違う。ここについてきたのにはちゃんと理由がある。誰かしら竜人族が一緒にいないという条件があったからな。族長のガインの許可も得られていた」


 蒼太がそこまで言ったところで古龍は蒼太の考えを察していた。


『なるほどのう、人というのは面倒くさいものだのう』


「それは俺も思うよ。でも、それが良くも悪くも人なんだよ……とりあえず、ガインに相談だな」


 蒼太はいまだはしゃいでいるレイラを見ながらそう結論をだした。

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