第205話
「フランシールが俺を助けてくれたのか……」
「あぁ、あいつは最後までソータを召喚してしまったことを悔やんでいたからな。お前が住んでいた国は魔物なんていない平和な国って言っていただろ? この世界は魔物の危険にさらされているのが当然の世界だ、なによりお前は勇者として召喚され魔王との戦いにまで駆りだされた。彼女はそのことに心を痛めていたんだ」
レジナードは彼女の思いを代弁していく。
「そんなことを考えていたのか……俺はこの世界に召喚されたことを恨んでなんていなかったのに、言ってくれれば……」
「そういうところがフランシールなんだろうな」
「あぁ……そうだな、それがあいつだったな」
二人は彼女の性格を思い出して頷きあっていた。
「それで、ソータはどうしてここまでやってきたんだ? 俺が死んでから長い時間が経っているんだろ?」
レジナードは膨大な時間が流れていたことは知っていたため、ここまでやってきた理由を尋ねた。
「俺はグレヴィンが調べていた秘密を知るためにここまでやってきた、どうやら竜人族の二代前の族長がグレヴィンと何やら秘密を探っていたらしいと聞いたんだ」
「ふむ、それで宝玉の間へとやってきたのか。俺を見つけてくれてよかったよ、お前の成長を見ることができた。送還されたり、記憶が虫食いになってたり色々大変だったろうに、よく真っすぐ成長してくれたな」
レジナードは悲しみをこらえるような表情で再び蒼太の頭を撫でる。
「えっ!? どういうことだよ!」
蒼太はレジナードの変化に気づいて大きな声で彼を問い詰めた。
「すまんな、そろそろ時間だ。宝玉に宿る生命エネルギーの一部が今の俺なんだが、こうやってお前と話していることで徐々にそのエネルギーがなくなっている。本来であれば、一問一答に近い形で情報を得られるだけだからな。元の姿で触れて話せるのは本来とは違う方法なんだ」
話しながらも彼の姿は徐々に透き通っていく。
「な、なんだよ! おい! も、もっと話を聞いてくれよ!」
蒼太はすがるような声でレジナードに声をかけるが、消えていくのは止まらない。
「ソータ、そんな顔をするな。俺はもう既に存在しない者だからな、お前には今の仲間がいるんだろ?」
その質問に蒼太は涙をこらえながら頷く。
「だったら、こんな場所にいつまでもいないでそいつらのもとへ戻ってやれ。きっと心配しているはずだ」
既にレジナードの姿は微かに見える程度だった。
「お前は、もう、立派な、一人前の、おとこ……」
★
「レジナード!!」
彼の姿が完全に消えると共に、蒼太の意識はもとの世界へと戻っていた。
「ソータさん! 大丈夫ですか? あっ、涙……」
ディーナは何か変わったことはないか確認すると、蒼太の目から涙がこぼれていることに気づく。
「いや、大丈夫だ。久しぶりに懐かしい顔に会ってついな」
蒼太は涙を拭ってみんなへ振り返った。
「それよりも、目的の族長の宝珠を探さないとだな」
「見つけたよー、古いのから順に奥から並べられてるから一番手前の端っこを探せばすぐだったよ」
レイラが褒めてくれと言わんばかりに、勝ち誇った表情になっている。
「あぁ、よく見つけたよ。案内してくれるか?」
もしかしたら歯牙にもかけられないかもしれないと思っていたレイラだったが、蒼太が柔和な笑みでそう言ったため思わず頬を赤くした。
「こ、こっちだよ!」
先導するレイラは顔を見られないように足早になっていた。
「これが先々代の族長の宝玉か……」
蒼太は先ほどは自分だけの判断でレジナードの宝玉に触れ、心配をかけてしまったことを思い出して全員の顔を確認した。みんな蒼太に任せると頷き返す。
「それじゃあ、いくぞ」
蒼太が宝玉に触れると光を放つが、先ほどのレジナード程の輝きはみられなかった。蒼太は先ほどのように立ち尽くしているような風はなく、目を閉じて宝玉に語りかけている様子であった。
それから時間にして数十分経ったところで、蒼太が目を開いた。
「終わった……」
宝玉から手を離して蒼太は呟いた。
「どうでした? 何かわかりましたか?」
今度は蒼太に大きな変化がなかったのでディーナが質問をする。
「いくつかはな、肝心なことはなんとも言えないところだ」
蒼太の表情は何かを考えてる最中のような難しい顔だった。
『どうした、ソータ殿? グレゴールとあの族長殿のやりとりを聞いたのではないのか?』
アトラの問いにも蒼太は首を横に振る。
「やりとりというか、何と言うか要領を得なかったな」
族長とのやりとりの成果が芳しくなかったため、蒼太の答えも不明瞭なものになっている。
「順番に聞かせて下さい、何を質問してどんな回答を得られたのか」
ディーナが話をわかりやすくするため、順序だてての話を提案する。
「わかった。少し腰を落ち着けて話そうか」
蒼太はバッグから蒼太、ディーナ、レイラ用に三脚の椅子を用意した。
「まず俺は族長、というかその記憶の封じられている宝玉に尋ねた。小人族の族長と一体何を調べていたのか? とな。答えは色々調べたということだった」
その答えに一同は困った表情をする。その反応を見た蒼太は予想通りの反応だと頷いて話を続けていく。
「何を聞きたいのかが明確でなければわからないと言ったガインの言葉の意味がわかるな。で、だが俺はそこで質問を帝国に絞ったものへと変えてみたんだ」
それならば、蒼太はそう思っていたがそれでも有用な情報を得るのは難しかった。
「帝国に関しても色々なことを調べていたようでな、どれという断定が難しかった」
蒼太の言葉に一同は肩を落としてしまう。
「仕方ないので片っ端から聞いたんだが……わかったのは二人がなにを調べていたかではなく、帝国の特徴やどんなやつが支配者なのかとか、そいつの周りにはどんな実力者がいるのか。そういった類の情報だった」
「それでは、何が敵なのかわかりませんね……小人族の村を狙った人がどこの人なのかとか」
ディーナも期待していたため、表情に陰りを見せる。
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