第203話
『レイラ殿!』
光によってその姿が確認できなくなっていたためアトラは大声で呼びかける。光がおさまると彼女の姿が見えてきた。
『大丈夫か、レイラ殿』
アトラが慌ててかけよると、ゴーレムの胸には大きな穴が開いており動力源である魔石がレイラの手にするグニルによって貫かれていた。
「はぁはぁはぁはぁ、わ、わんちゃん、やったよ、あたしやれたよ!」
レイラは渾身の一撃を繰り出したため脱力し、グニルを握っていた手は離れ、その場に膝をついていた。
『うむ、よくやった。ソータ殿より受け取った槍の能力を引き出せたようだな』
「えへへ、ダメだと思ったけどやれたよ。それにしても、すっごい槍だね……」
疲労が依然として残っていたがグニルを魔石から引き抜き改めて眺めていく。
『ソータ殿の持つものは生半可ではないものが多いようだからな』
二人は、今現在キマイラとゴーレムの二体を相手取っている蒼太へと視線を送っていた。
蒼太は苦戦はしていなかったが、二体の攻撃をのらりくらりと避け攻撃をする様子が見られなかった。
「やっとあいつらの戦いが終わったか」
それはレイラたちの戦いが終わるのを待っていたためで、蒼太はここまで避けることだけに集中していた。
「おい、よく見ておけよ!」
蒼太は自分の実力を疑っていたレイラに実戦で見せるため、勝敗が決するのを待っていた。
「えっ? あ、あたし?」
自分を指差して驚くレイラ。それに対して深く頷くアトラ。
古龍とディーナもそれぞれの位置で蒼太の戦いを見守っていた。
「さて、まずはデカブツを倒すか」
蒼太は避ける動作をやめて、ゴーレムへと向き直ると夜月に手をかける。
「まずは……一つ」
そう口にすると、ゴーレムと歩いてすれ違う。その歩き方が余りにも滑らかだったため、レイラはぞっとするものがあった。
「次はお前だな」
未だゴーレムが立っていたため、レイラは首を傾げたがすぐにその言葉の真意がわかった。
蒼太がキマイラに向かって構えなおすと、ゴーレムの胴体が真っ二つにされ崩れ落ちていく。それをみたキマイラとレイラが驚きの表情になっていた。
にやりと笑うと、蒼太はキマイラへと向かって行く。
動揺していたキマイラだったが、すぐに我を取り戻して蒼太へと炎を放っていく。蒼太は歩みを止めず真っすぐにキマイラへと向かって行き、炎が触れる瞬間に一度だけ夜月で振り払うと、斬撃によって炎は二つに裂かれてそのまま霧散する。
そこへ尻尾の蛇が毒の牙で蒼太に噛み付こうと襲い掛かる。
「邪魔だ」
蒼太は氷魔法を蛇へと放ち口を開いたままの状態で凍らせていく。低温状態に弱いらしく、蛇はその動きを止めて凍ったまま地面へと落ちていった。
そのままの勢いで蒼太はキマイラ本体に迫る。炎で目くらましをし、そこを蛇による攻撃でというパターンで倒せると思っていたキマイラはあせりを見せたが、何かしら対応をしようと動こうとした時にはすでに遅かった。蒼太はその隙をついて、ふところへともぐりこんでいた。
「相手が悪かったな」
キマイラは目を見開いて驚いた顔をするが、次の瞬間にはその目から感情が失われて崩れ去っていった。
一瞬の出来事だったため、レイラは何が起こったのか全てを理解することができず、口をパクパクさせてアトラの顔を見ていた。
『あれが、ソータ殿の実力だ』
ディーナとの会話の中から蒼太の実力が高いものだというのは察していたが、これほどの強さだとは思っておらずレイラは未だ驚きの最中にあった。
「どうだ、これで少しは俺の力がわかってもらえたか?」
蒼太は夜月に刃こぼれなどがないことを確認すると、鞘にしまいながらレイラのもとへとやってきた。
レイラは何度も頷くことで蒼太へと返事を返す。
「ははっ、すごい勢いだな。そんなに首を動かしたらもげそうだ」
蒼太はその様子を見て笑っていた。
「あ、あの、ごめんなさい。何かすごく失礼なことを言っていたような……それにあの槍も、すごかったです。ごめんなさい」
蒼太の強さとグニルの力を知ってしまった今では態度を改めようという考えが頭の中を占めていた。
「ん? あぁ、気にするな。いきなり態度を変えられてもこっちが困惑するだけだ、今まで通りでいいさ」
蒼太は急に殊勝な態度になったレイラに違和感を感じたためにそう返すが、レイラの目は泳いでいた。
「まあどっちでも構わないけどな。慣れれば当たり前になるだろうし……といってもそろそろゴールみたいだ」
視線を送った方向を全員が注視すると、ゴーレムたちの更に後方にあった扉が開いているのが見えた。
「あの先にあるんですかね?」
空いた隙間からは扉の先が見えなかったため、ディーナが疑問を口にする。
『何やらこれまでとは空気が違うように感じるな……』
『うむ、竜人族の強い念のようなものが感じ取れるのう』
アトラの言葉に古龍が同意する。
「あ、あたしも何か感じるかも。どこか懐かしいような気が」
レイラが感じたものをそのまま言葉にするが、同じ感覚は蒼太も持っていた。
「みんなが感じているようにおそらくあそこがゴールなんだろうな。さっさと入ろう」
蒼太は少し急かす様に背中を軽く押しながら誘導していく。
「ど、どうしたんですか?」
背中を押されたディーナは性急な様子の蒼太に戸惑い、疑問を返した。
「入る時の扉と同じ理由だ。俺たちはあのゴーレムたちを倒したが、そのままだと今後の防衛が手薄になるだろ?」
「なるほど」
蒼太の言葉でディーナは全てを察する。
「ど、どういうこと?」
レイラは察していないようで、蒼太に質問をした。
「ここでぼーっとしてたらさっきのやつらが全部復活するかもしれないってことだ」
「えっ!? や、やばいよ! 早く入ろうよ!」
レイラは蒼太たちを残して一人で勢いよく部屋に飛び込んだ。
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