第202話
古龍の戦いは一方的であった。最初に火竜の姿で戦闘を開始し炎が効きづらいと判断すると、すぐに水竜の姿に変化して新しい攻撃を繰り出して行く。それすらも効果が薄いとなると、雷竜の姿をとり雷をゴーレムに直接叩きこむことでその機能を停止させていた。
更に止めとばかりに、爪竜の姿で本体を切り裂くことで完全に沈黙させる。
『かっかっか、なかなか面白い敵だったが我にかかればこんなもんだのう。しかし、三回変身させられるとはなかなかのものだのう』
本来の古龍の姿であれば一蹴するのも容易かったが、それでは簡単すぎてつまらない。またサイズの問題でこの場所では動きづらいと言った二つの理由から、別の姿での戦闘を行っていた。
『さてさて、他の者はどうかのう』
ディーナの戦い方はいつもと同じ方法で、精霊とアンダインと底上げされた水魔法による攻撃を組み合わせたものだった。
「せい!」
ゴーレムは巨体であったが動きは速く、ディーナは避けることを優先し、水魔法を身体に当てて隙を作らせてそこをアンダインで攻撃している。アンダインは斬力や突力に特化した武器ではないため、致命傷を与えることはできずかすり傷を与える程度であった。
しかし、ディーナはそのことを気にせず何度も同じ動きを繰り返していく。
ゴーレムに疲労というものは存在せず、反対にディーナには疲労が蓄積されて行く。この点からも持久戦は不利だったが、ディーナはそれすらも気にしていなかった。
何十か何百かアンダインによる攻撃が当たった瞬間にディーナは機が熟したと判断して、精霊による強力な水魔法でゴーレムを後方へと弾き飛ばした。
ディーナは残った魔力を銀弓に集中させていく。普段であれば多数の敵を遠距離で討伐する際に使っているが、今回は一気に魔力を集中させるとゴーレムへと向かっていった。
これまでの攻撃は全てゴーレムが拳を振り下ろしたところを水魔法で起こし、身体の中央を狙って斬りつけていた。
「これで!」
ゴーレムが倒れた身体を起こし立ち上がろうとしたところに魔力を限界まで込めた一撃を放つ。先ほどまで狙っていた場所と同じゴーレムの身体の中央を目掛けて。
ゼロ距離での一撃はゴーレムの傷を広げ貫いていくと同時に大きな爆発を巻き起こした。
ディーナは爆発を想定しており、自分の身を精霊に守らせていた。だが、爆風を全て遮断することはできずに大きく吹き飛ばされてしまった。体勢が崩れていたため、着地もままならないとディーナは受身をとることへと考えをシフトさせていた。
しかし、ディーナが地面や壁に衝突することはなかった。
『お嬢ちゃんもやりおるのう。火力の差を技術で見事に埋めおったのう』
なぜなら古龍がその身でディーナのことを受け止めていたからだ。
「古龍さん、ありがとうございます。助かりました」
『かっかっか、お嬢ちゃんなら我が来なくても何とかしてそうだったがのう』
「いえいえ、それは買いかぶりというものですよ」
二人がなごやかに話している時に、レイラは焦っていた。
「こいつ、強くない!?」
思った以上の速い動きにレイラは思うように攻撃を与えられずにいた。共闘しているはずのアトラは、隙をついてはダメージを与えていく。しかし、このゴーレムは回復力が高いようで傷をつける側から修復されていた。
『確かに、この回復力は厄介だな』
アトラも自分の攻撃では致命傷を与えることはできないと考え辟易としていた。
「どうしようか? きゃっ!」
レイラは攻撃を避けながらアトラの側へと移動し、声をかける。
『ふむ、レイラ殿。その槍での攻撃ならいけるのではないかな』
アトラも蒼太が用意した槍の力を感じ取っており、それならゴーレムの装甲を討ち破れると考えていた。実際に蒼太が用意した理由もそこにあった。
単純にアトラも一対一の戦いであればまだやりようがあったが、今回は二人で戦う流れになっていたため蒼太の意図を汲んでいた。この機会にレイラにグニルの使い方を覚えさせる必要があると考えていたのだ。
「や、やってみたいけど、あいつ動き速くない?」
話している間もゴーレムは二人めがけて攻撃を繰り出してくる。
『それを何とかしないと、あいつには勝てない。それはわかっていると思うが。それに、武器を貰っておいて何の成果も出せないのではレイラ殿は立つ瀬がないのではないか? 先ほどソータ殿にその槍に相応しい戦士になると啖呵をきった気がするが』
アトラがそこまで言ったところで、レイラの表情が引き締まったものへと変わっていく。
「そうだったね……うん、わかったやってみるよ」
内なる闘志に火がついたレイラだったが、頭は不思議と冷静さを取り戻していく。頭がクリアになったレイラは先ほどまでなんとか避けていたゴーレムの動きも冷静に見ることができ、動きを予想しながら余裕を持って避けることができるようになっていた。
「わんちゃんが攻撃して隙を作ってくれるかな? 私はありったけの力を込めて槍の一撃を当ててみるよ」
アトラは頷くとゴーレムに飛びかかっていき、注意を引きつけていく。
「グニル、あたしに力を貸して」
レイラは額をグニルにくっつけて、願うようにそう呟いた。何か反応を示すということはなかったが、それでもそう口にすることで自分とグニルに繫がりができるような気がしていた。
彼女は槍を後ろに引き、できる限りの魔力を込めていく。グニルの魔力許容量は蒼太が作っただけあり、上限が見えないくらいには高かった。
「いける」
レイラには確信があった。
そもそも彼女は竜人族の中でも魔力が高い。しかし、魔法はあまり得意ではなく魔力を攻撃力に転換しようにもそれに耐えうる武器がなく消化不良だった。
その問題もグニルを手に入れた今では解消できており、そこに竜人族ならではの力の強さ、これまで教え込まれてきた槍術の技術が加わっていく。
「わんちゃん、いくよ!」
レイラの声にアトラはゴーレムの胴に大きな一撃を繰り出し体勢を崩させた。
「くらえええええええ!!」
レイラは一番的のデカイ身体の中心へとその槍を放って行く。グニルはゴーレムに触れた瞬間から込められた魔力を開放していき、ゴーレムとレイラの姿は光に包まれた。
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