第201話

「思ったより魔物が多くて、意外とトラップの類が少ないな」


 道中蒼太たちが発見したトラップは、レイラが間違えて踏んで発動させた床から槍が突き出してくるものや、これまたレイラが壁に手をついた時に発動した大きな鉄球が転がってきたものの二つだった。


「しかも、よくあるようなチープなものしかありませんでしたね」


 蒼太の言葉にディーナが同意するが、発動させた当のレイラはあれをよくあるものと表現するディーナの横顔を信じられないものを見るような目でみていた。



『魔物もグレゴール殿が用意したにしては大したことのないものしか出てこないな』


「嵐の前の静けさというやつかもな……」


 そう言う蒼太の視線の先には再び大きな扉が見えてきていた。


「ボス部屋というやつですかね」


 以前に話したゲームの言葉を引用したディーナの表現がぴったりなくらいには、思わせぶりに凝った意匠の扉であった。



 近寄ると扉には施錠などはされておらず、押すだけで開くようだった。


「完全に嫌な予感しかしないが、行くしかないな」


 蒼太はみんなの顔を確認してから、扉を開けていく。


 一行が部屋に足を踏み入れると、自然と扉がバタンとしまり開かなくなっていた。


「閉じ込められたか……」


「い、いやそれも重要だけど、そ、それよりも、前、まえを」


 レイラが動揺して指差す方向を全員が注視する。



「でっかいなあ」


「大きいですし、ちょっと数が多いですね」


『これが本命なのかもな……グレゴール殿がやりそうなことだ』


『かっかっか、これは面白い』


 あわあわしているレイラを除いた四人は、その物体を見上げてそれぞれの感想を述べていく。



 その視線の先には巨大なゴーレムが四体、それに加えてゴーレムの奥には通常のサイズを遥かに越えた大きさのキマイラがいた。それらのどれも侵入してきた蒼太たちを見ていたが動き出す気配はなかった。


「おそらく、これ以上近づいたら戦闘開始ってことなんだろうな。数は丁度いいが、どうする?」


「えっ? どうするって? 数って? どういうこと?」


 レイラが驚いて蒼太に尋ねる。これだけの相手を前にして誰一人動じてないことにも彼女は焦りを感じていた。



「いや、誰がどれを相手にするとか。あっちもゴーレムが四体にキマイラで合計五。こっちは俺とディーナとアトラとお前と古龍の五人、一人が一体を受け持てば丁度いいだろ?」


「えっ……いやいやいやいや、無理無理無理! あんなの一人で相手にするの無理! ディーナさんだってあんなの無理だよね?」


 助けを求めようとディーナに振るが、ディーナは困った表情で首を傾げる。


「うーん、同意してあげたいですけど……なんとかなるんじゃないですかね?」


 その返事にレイラは口をぽかーんと開けて呆けてしまう。



「どうしても自信がないなら、俺が二体受け持とう。レイラは誰かと共闘してくれればいい」


 そう言うと蒼太はマジックバッグから一本の槍を取り出す。


「あと、これを使ってくれ。俺が昔作った槍で銘を魔槍グニルという。名前は俺がいた世界に伝わるとある国の神様だかが持ってる槍から引用させてもらってる」


「グニル……」


 レイラはそれを受け取り手に持っただけで、その槍の強さを感じ取っていた。



「元々持っていた槍も悪くはないが、竜人族のみんなが持っているものと同じレベルのものだろ? それだとさすがにこいつらの相手はきついだろうからな。俺は槍は使わないからお前にやるよ」


「こ、こんなにすごいのもらえないよ! よくわからないけど、これってすごく高いよね? 私、お金とか全然持ってないし代わりにあげられるようなものもないからっ」


 レイラはくれるという言葉を聞いて、焦ってグニルを突き返そうとした。



「言っただろ? それは俺が作ったものだ。つまり売り物じゃないから値段なんてあってないようなものだ……今のお前だと少し持て余すかもしれないが、いつか使いこなせるようになると思っての先行投資だな。もし、悪いと思うのなら少しでも早くその槍に見合う力を身につけてくれ」


 そう言われるとレイラも受け取らないわけにはいかず、神妙な顔でグニルを再度受け取った。


「……うん、わかったよ。グニルに相応しい戦士になるよ!」


 レイラの言葉に蒼太は満足し頷いていた。


「そっちの槍はバッグにしまっておいてやろう」


 元々使っていた槍は言葉通りに鞄にしまわれる。



「それじゃ、俺がキマイラとゴーレム一体を相手にする。ディーナが一体、レイラとアトラで一体、古龍も一体相手してくれ。何か異論はあるか?」


 ディーナは首を横に振って答える。


『私とレイラ殿か……ふむ、いいだろう』


「よ、よろしくね。あたし足を引っ張らないようにがんばるね!」


『ふむ、ゴーレムか。あまりああいった無機生命体と戦闘したことはないが、大丈夫だろうのう』


 全員が納得してくれたことで、蒼太は夜月を、ディーナは背中に銀弓そして手にはアンダインを、レイラは先ほど渡されたグニルを構える。



「それじゃ俺からターゲットを取らせてもらおう。行くぞ!」


 蒼太は言うが早いか、敵の一団へと向かって走り出す。ディーナたちも後に続くがゴーレムは先頭を走る蒼太に狙いを定めており、四体のゴーレムの巨大な拳が蒼太に向かって振り下ろされる。


 その拳が触れる寸前に飛び上がり、正面のゴーレムを跳び越しながら顔に火球をぶつけていく。そして頭を踏み台にしてキマイラへと向かっていった。



 キマイラも既に戦闘準備に入っており、向かってくる蒼太へと炎のブレスを放っていた。


 蒼太がキマイラとの戦闘に入ると同時に、ディーナは水魔法とアンダインのコンビネーションで一体のゴーレムを引きつけ離れた場所で戦闘に入っていた。


 アトラも一体に体当たりをし、そこへレイラが槍による攻撃をいれることで戦闘が開始される。


『かっかっか、我が誰かと共闘することになるとは面白いこともあるものだのう』


 古龍は笑みを浮かべて、蒼太と戦った時の火竜の姿になってゴーレムの頭を掴むとそのまま誰もいない壁際へと引きずっていった。



 こうして神殿にグレゴールマーヴィンが用意した最大の試練が始まった。

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