第197話

「宝珠は竜人族の魂や歴史が刻まれた宝石みたいなものなんじゃ。我々の最大の宝なのでな。おいそれとは触れんし、そこらへんに保管しとくわけにもいかんのじゃよ」


 ガインの表情は未だ厳しかった。


「その表情をするということは……その保管されている場所が問題なのか」


 蒼太の言葉にガインが頷く。



「そこに入ることができるのは基本的に族長のみじゃ、そして宝珠の持ち出しは族長でもできんようになっている。つまり、一方通行ということじゃ」


「じゃあ、俺たちには入ることができないのか?」


 蒼太の問いにガインは首を横に振った。予想と違った動きに蒼太は驚きを覚える。


「さっきわしが言ったのは正確ではなかったのう。トラップなどなく、すんなりと入れるのが族長のみなんじゃ。他の者が入ろうとすると様々なトラップが発動するようになっている」


「あのもしかして、それを作ったのって……」


 ディーナの言葉に、今度はガインの首は縦に振られた。



「グレゴールか……あー、そいつは面倒なことだな」


 蒼太はトラップの内容を想像して、目を瞑り眉間に皺を寄せていた。


「……大変そうです」


 ディーナも肩を落としている。


『グレゴール殿か……』


 それはアトラも同様だった。



「ほっほっほ、三人ともその反応をするということは、彼の意地の悪さをしっておるようじゃの」


 そんな反応を見て、懐かしい友の話をできることに思わず頬が緩んでいた。


『ふむ、なかなか面白そうだのう。我もついて行くか』


 それまで無言だった古龍が口を開いた。


「あんた、ただの興味本位だろ……まあ、いざとなったらあんたにも戦ってもらえばいいか」


「行く気満々のようじゃの。あとは誰がついていくかじゃな……」


 ガインは再び意味深な言葉を口にする。



「もしかして……」


 蒼太はその言葉から次の展開を予想していた。


「察しが良いのう。あそこはただ入るだけでも竜人族がいないと入れないんじゃ。まぁ、わしが行くのが」


「あたしが行く!!」


 窓から顔を覗かせたのはレイラだった。鍵がかかっていたはずの窓を強引にあけて彼女はずかずかと遠慮なく部屋へと入って来た。


「おい、レイラ。どこから入っているんじゃ!」


 ガインが注意するのを無視して、蒼太たちのもとへとやってきた。



「あたしを連れて行ってくれ! 足手まといにはならない……と思う」


 レイラは言い切ろうとしたが先ほどディーナに負けたことを思い出して、やや弱い言い方になった。


「俺たちは構わないが……どうする?」


 ディーナとアトラは蒼太に頷いて返事を返したが、蒼太はガインへと話を振った。


「ぐむむ、その前に謝らんか!」


「ごめんなさい! だから許可して下さい!」


 ガインがレイラに向かって怒鳴り声をあげると、彼女はすぐに頭を下げる。そしてそのままの姿勢で嘆願した。



「う、うむむ。謝ればいいというものでは……」


 普段からは考えられないほど素直に頭を下げたことにガインはやや戸惑いを見せた。


「じゃあ、どうすればいい? 真面目に勉強するし、もっと修行もする、ねえだから行ってもいいでしょ?」


 レイラは今度は甘えるように頼んだ。


「むむむ、そんな顔をしても……はぁ、わかった」


「やった!」


 言質をとったと、レイラは喜んで跳ね回った。



「ただし! 行くからには、ソータ殿たちの言うことをよく聞くんじゃぞ」


「うんうん!」


 あまりに早すぎる返事にガインはやや不安になる。


「それから、決して独断先行したり勝手に色々なものに触るでないぞ!」


「わかってるって!」


 レイラの返事が軽いものであったために、ガインは肩を落としてソータの顔を見る。



「安心しておけ、もし何かやらかしそうになったら気絶させて簀巻きにしてやるから」


 蒼太は笑顔で答えた。


「あっはっは、もう冗談きついなあ」


 レイラは豪快に笑いながら蒼太を見たが、とてもいい笑顔で頷くその目を見て話は嘘ではないと確信し、思わず身震いをする。


「……あれ? もしかして、本気?」


 レイラはディーナとアトラにも視線を向けたが、二人とも笑顔で頷いて返す。



「は、ははは。だ、大丈夫、言うこと聞くから」


 まだ出発前だったが、この時点でついていくことにやや後悔を見せていた。


「すまんな、不肖の孫じゃがよろしく頼む」


「あぁ、任せておけ。ただ、何かやらかしたら多少痛い目を見てもらうことになるのだけは承知しておいてくれ」


 蒼太の言葉に仕方ないことだとガインは頷き、レイラは震えを大きくしていた。



「それはそれとして、俺たちが向かう場所についての情報をもらえるか?」


「おぉ、そうじゃったな。では、この地図を見てもらえるかの? ここが今わしらがいるところじゃ。ここから徒歩で一週間程東に向かったところに神殿がある。そこの最深部に宝珠は安置されておる」


「最深部……どれくらいの深さなんですか?」


 ディーナの問いにガインは首を捻っていた。


「うーむ、それがじゃな。族長一人で入る場合は、一瞬で最下層にいけるんじゃが……通常ルートで行った者が今までにおらんのじゃ」


 その返事はディーナの顔を歪めるに十分だった。



「そうだ! あんたに行ってもらって聞いてきてもらうんじゃダメなのか?」


 名案だと蒼太が口にするが、ガインの表情はすぐれない。


「それは難しいんじゃ……宝珠から答えを得られるのは、明確に情報を得たいと思っておる者だけでな、おいそれと誰でも彼でも何でも聞けるわけではないのじゃ」


「そうか、いい考えだと思ったんだが甘くはないようだな」


 蒼太はダメ元で言っていたため、口で言うほどのショックは受けていないようだった。


「というか、中のことがわからないんじゃあ場所の情報以外は何もないのと同然なのか……」


 蒼太の言葉にガインは申し訳なさそうな表情で頷いた。



「すまんのう」


「いや、それはそれで面白いから構わない」


 蒼太は神殿タイプのダンジョンにもぐることを楽しく思っていた。仲間が増えてのダンジョン攻略は昔の冒険を彷彿とさせるため、自然と気分を高揚させていた。

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