第195話



「二人に言っておくが、これは殺し合いではない。どちらかが参ったと言うか、わしが決着と判断したら終了じゃぞ」


「わかってるって、じいちゃん早く始めてよ」


「私も承知しました。彼女の言うように早く始めましょう」


 ガインがルールの説明をしたが、二人は聞いているのか聞いていないのか早く始めるようガインへと要求した。ディーナはアンダインを鞘から抜き、精霊も呼び出している。レイラも槍を既に用意し、戦闘準備は整っていた。



「はぁ、わかった。それでは……はじめ!」


 ガインは二人から距離をとってから開始の合図をした。


「これで、終わりよ!」


 レイラは一撃で決めようと、開始の合図と共に槍を構えディーナへと突進していく。その速さは蒼太が見ても目を見張るものがあった。


「速いな」


『しかし、あれでは』


 アトラの言葉に蒼太は頷きを返す。



「これでですか?」


 槍の一撃はアンダインによって受け流され、ディーナは柄の部分でレイラの胸元へと一撃を喰らわせる。その衝撃で二人の距離は再び開いた。


「えっ?」


 レイラは自分の攻撃が防がれたこと、そして自分が弾き飛ばされたことに目を丸くして驚いた。何が起こったのか理解できないといった様子だった。



「どうかされましたか?」


 ディーナは首を傾げて質問する。レイラはその顔を見て、自分のおかれた状況を改めて把握し、相手が自分よりも強者かもしれないという可能性を悟った。


「あんた、強いね……まともに攻撃を受けたのなんて大人以外だとあんたが初めてかもしれないよ!」


 レイラの気持ちは戦う前よりも高まっていた。自分よりも若く見え、腕も細い、そして自分と同じ性別。それが必殺の一撃を防いだばかりか、体格で上回る自分を吹き飛ばした。そんな予想外の展開に笑みを浮かべていた。



「そうですか、私は攻撃を受けるつもりはありませんよ?」


 レイラが繰り出したのは連続の突き攻撃だった。大振りの攻撃は防がれたため、今度は数で勝負をすることにする。しかし、ディーナはその全てを余裕を持って避けていた。


「くそっ、ちょこまかと」


 レイラは点での攻撃では避けられるため、槍を突いた状態から横なぎにして線による攻撃を繰り出していく。



 ディーナはそれをアンダインの腹で受け止める。


「ふきとべええええええ!!」


 レイラはそのまま思い切り振りぬきディーナを弾き飛ばそうとした。しかし、その手に伝わってきた感触は軽いものだった。


「今度はこちらの番ですね、なかなか強かったです。そしてお疲れ様でした」


「なっ!」


 ディーナはレイラの力を利用して自分から飛び、レイラとの距離をとるといつの間に取り出したのか銀弓を構えていた。その弓から次々に矢が放たれ点による攻撃が集まり面による攻撃となったため、レイラは避けられずその攻撃を全て喰らうことになってしまった。



 矢が全て止み、砂煙が消えていくとそこには腕で自分の身を守って立ち尽くしているレイラの姿があった。


「そ、それまでじゃ! ディーナ殿の勝利!! れ、レイラ大丈夫か!?」


 ガインはその宣言だけすると、レイラへと駆け寄った。


「大丈夫だと思います。見た目は派手でしたけど、威力は抑えてたので。一応、回復魔法をかけておきますね」


 ディーナは口では冷静さを保っていたが、内心ではやりすぎたかも……と動揺をしていた。


「大丈夫だろ。意外と頑丈そうだし、ディーナの言う通り手加減していたしな」


 蒼太はレイラの力量と、銀弓の威力を鑑みて判断していた。



「どれ、これもかけてみるか」


 蒼太は回復薬をとりだして、レイラの頭からかけていく。


「わっぷ、な、なんだなんだ。なんか冷たいよ!」


「気がついたみたいだな」


 蒼太は空になった瓶をしまいながら、レイラの頭にぽんっと手を置いた。


「なななな、なにするんだよ! 気安く人の頭をさわるなよ!」


 レイラは目を覚ますと蒼太の手が自分の頭の上に乗っていることに気づいて、慌ててディーナの後ろに隠れた。



「わわ、だ、大丈夫ですか?」


 後ろに隠れた彼女に向かってディーナは驚いた顔で確認した。


「ん? あぁ、さっきのか。結構痛かったけど大丈夫だよ。あんたディーナって言ったっけ? すっげー強いな。あそこまで手も足もでなかったのは初めてかもしれないよ!」


 レイラはディーナの背中から離れると、ディーナの強さを興奮気味に賞賛していた。


「じゃ、じゃあ、族長さんにお話を聞いても構いませんか?」


 彼女の変わりようにやや押されぎみの様子でディーナが質問をする。


「もちろんさ! あたしに勝ったんだからね、そっちのやつらもおまけで行っていいよ」



「……まあ、目的が達成できるのなら何でもいいがな」


 おまけ扱いであることに辟易とするものがあったが、蒼太は話を聞けるのであれば、と気にするのをやめて族長へと視線を送った。


「孫娘が迷惑をかけてすまんかった。わしの家で話をしよう……レイラ! お前には後で話があるから、覚悟しておくんじゃぞ!!」


 蒼太たちに謝罪をしたガインは、レイラへの釘刺しは忘れなかった。


「うへえ、仕方ないけど嫌だなあ……」


 どうやらレイラは後先のことを考えずに行動するタイプのようだった。


「それと、ディーナ殿とソータ殿に礼を言いなさい。彼女は回復魔法を、彼は回復薬をお前に使ってくれたんじゃ」



「むー。どうもありがとうございました」


 レイラは唇を尖らせながら、不承不承といった感じで二人に感謝の言葉を述べる。


「私は別に構わないです、私が負わせた怪我ですから」


「俺もだ。回復薬なんてそれこそ山のように持っているからな。それとガインの孫をあのままにしておくわけにもいかないからな」


 昔の知り合いであるガインに対して、蒼太は思うところがあるらしかった。



「ふーむ、そう言ってもらえるのはありがたいんじゃが、この子には何か罰を与えねばな」


 そう言うと、ガインは腕を組んで考え込んでしまう。その隙にレイラがこの場から逃げ出したことにも気づかないまま。

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