第189話
ディーナは一通りの本を読み終わったため図書館を後にする。外に出ると日が落ち始め空は夕焼け色に染まっていた。
「お、今終わったとこか?」
声の主は夕焼けを背負っていて顔が見えなかったが、その声と気配と共にいる子犬サイズの狼のシルエットからディーナは誰かわかっていた。
「はい、ソータさんも何か情報ありましたか?」
「そうだな、有力な情報を手に入れたが……目撃者当人の話は聞けなかったな」
蒼太はあの後も情報収集を続け、最初に手に入れた噂の信憑性を高めようとして話を聞いてまわったが噂を聞いた者しかいなかった。
「なるほど、私のほうは本から色々なことを知ることはできましたが、その中に居場所に繫がりそうなものはほとんどなかったです」
そう言ってディーナは肩を落とした。
「俺も似たようなものだから気にするな、とりあえず家に帰って情報の共有をしよう」
「そうですね。一応多少ですけど居場所の情報はあったので、それをソータさんのほうで精査してもらえると助かります」
ディーナは数ある情報の中から何とか搾り出すように、居場所の可能性に辿り着いていたが、それもあやふやなものであり自信を持てないため蒼太に意見を求めることにした。
「わかった、家で聞かせてもらおう」
そう言って三人は家路についた。
家につくとディーナは食事の準備をはじめ、蒼太はエドの食事や水の用意と厩舎の掃除、それからエドへの櫛入れを行う。
「悪かったな、一日ほったらかしにして」
エドは蒼太の言葉に首を横に振って応える。
「しばらくしたらまた出かけることになるだろうから、その時はまた頼むぞ」
今度の声かけに対してはエドは大きく頷いた。
そうしてしばらくの間ゆっくりとコミュニケーションを図っていると、ディーナに食事の準備ができたと呼ばれたため蒼太は家の中へと戻っていった。
食事をしながら、図書館の前での話の続きをしていく。
「俺のほうは単純な話だから、そっちからしていこう。俺のあての話だが、ここから東に行った場所にある死の山と呼ばれるところで、以前古龍と呼ばれるものに会ったことがあるんだ。同じ竜繫がりで何か知らないものかと思ってな」
蒼太は一度水を飲む。
「それで、そいつは今もそこにいるかどうかを確認したんだが……最近は山での目撃情報がないらしい。それとほぼ同時期に出たのが南西にある谷で見かけたという情報だ。何人かが言っていたから信じたいところなんだが、さっきも言ったが竜を見た当人からの話は聞くことができなかった」
そこまで言うと、蒼太は情報の精度がイマイチなことに眉間に皺を寄せた。
「なるほど……でも、それなら一度行ってみれば解決ですね。明日にでも行ってみましょう」
ディーナは蒼太の悩みを吹き飛ばすかのように即決した。
「あ、明日か。そうだな、行ってみればどっちにせよわかることだったな」
それまで悩んでいたことが馬鹿らしく思えた蒼太の顔からは、先程までの皺は消えていた。
「じゃあ、明日の予定はそれで行きましょう。次は私が集めた情報を話しますね」
ディーナはメモを取り出して、それを見ながら調べた内容を話し始めた。
「竜人族の情報ですが、本から得られた情報はそのほとんどが姿を消す以前の話でした。その中で気になったのが、私たちがいた時代よりも更に過去の話をとりあげた本でした」
ディーナは竜人族は姿を消して以降どこに行ったのか? それを調べていても一行に情報に行き当たらないことから、同じようなこと、もしくは似たようなことがなかったか、過去にスポットを当てて調べることにしたのだ。
「そちらでも、明確に同じような事態になったとは書いてありませんでした。ですが、竜人族が集まる特別な場所があるという情報がありました」
「よくそんなのを見つけたな」
自分であったなら何もなかったという結論になっていただろうと予想していたため、蒼太はディーナの着眼点に感心していた。
「ふふっ、たまたまです。それに……それがどこにあるのかは漠然とした情報しかなかったんです……」
そう言ったディーナの顔からは笑顔が消え、肩を落とした。
「ふーむ、その漠然としたっていうのはどんなものなんだ?」
「えっとですね……あった。竜人族には聖地としている場所がある。それは遥か空の彼方にある。これだけです。情報量としても少ないですし、それがどこを示すのかという情報も見当たりませんでした」
それを聞いた蒼太は黙って考え込んでいた。
しばらく沈黙が空間を支配したが、それに耐えかねたのか口を開いたのはアトラだった。
『何にせよ、ソータ殿の言う竜に会ってみるのが先決だろう。そこで何かわかるかもしれない、わからなければ再び情報の集め直しをすればいいだけだ』
「まぁ、その通りなんだがな。ついつい考えてしまうものなんだよ」
蒼太は苦笑しながらアトラへと返事を返した。
「ディーナの話に気になる部分があるが……それもとりあえずは古龍と会えてからのほうがいいな」
「そう、ですね。まずはその竜さんにお会いしたいですね、古龍ということはお話できるんですよね?」
ディーナの表情は笑顔に戻っており、古龍に対する強い興味がその心中を占めていた。
「あぁ、初めて会った時は擬態していたな。ただの火竜の幼成体だと思って戦いを挑んだらかなり手ごわくてな……まさか古龍だと思ってなかったから舐めてたよ」
蒼太は古龍との戦いを思い出していた。
「ソータさんが手ごわいとなると、かなり強いですね」
『ふむ、その話を聞いては俄然私も会ってみたいという気持ちが強くなってきたな』
自分が歯が立たないと思っている蒼太をてこずらせる相手というものに、アトラは興味津々だった。
「うーん、まあ強いことは強い。だが、今は夜月があるからな……あの時は俺も本気じゃなかったし……」
負け惜しみのように言う蒼太を見て、ディーナとアトラは優しい笑みを浮かべていた。
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