第187話
翌朝
蒼太たちの姿は門の前にあった。昨晩は夕食も別途作ってもらいゴルドンの話などで遅くまで盛り上がったが、道が混み始めないよう早いうちに出ようと決めていたため、朝からの出発となった。
「さて、少し眠いが出発しよう」
「ふわい」
ディーナはあくびする口を手で隠しながら蒼太へと返事をする。
「ははっ、昨日は日付が変わるくらいまであそこにいたからなあ、まあ道中馬車で寝てくれ」
蒼太はそのディーナを見て笑顔を浮かべていた。
「す、すいません」
ディーナは顔を赤くした顔を隠すようにいそいそと馬車へ乗り込んで行く。
「アトラは大丈夫か?」
『あぁ、一足先に休ませてもらったから。私は大丈夫だ』
アトラは蒼太たちが話をしている間、店の片隅でいち早く眠りについていた。
「じゃあ、今日は外でエドと一緒に周辺の情報を探ってくれ。それで、俺が寝ていたら起こしてくれると助かる」
『承知した、ソータ殿もゆっくりとされるといい』
アトラは任された任務を全うすることを約束すると、エドに話しかける
『エド殿よろしく頼む』
エドは鼻を鳴らしアトラの言葉に答える。
蒼太たち一行のとりあえずの目的地はトゥーラだった。このまま獣人の国での情報集めも悪くないとは思っていたが、蒼太が考えているあてについての情報はトゥーラのほうが集まりやすいと考えていたからだった。
「トゥーラに向けて、のんびりと旅を楽しもう」
その声を出発の合図として、エドが歩みを進めた。
★
二週間程度でトゥーラへと着いた一行はとりあえず自宅へと帰ることにした。着いた時間が夜間だったため、食事を終えた後、情報収集にはでかけずに今後の方針についての話し合いすることとなった。
「今後の動き方を相談したい」
まず蒼太が口火を切る。
「そうですね。でも、どうしましょうか……竜人族の居場所への手がかりとなるとかなり難しい気が」
ディーナもこれまでの情報から竜人族に関する本が圧倒的に少ないことには気づいていた。
「あぁ、だから少し手分けをして情報を集めていこうと考えている。まず俺はあてに関しての情報を集める。こっちは人づての情報集めになるから、街中をぶらぶらしながらってことになる」
「なるほどです。じゃあ、蒼太さんは街での情報集めをして私は図書館で竜人族に関する情報の集めなおしってところですかね」
ディーナは蒼太が言おうとしたことを先回りする。
「その通りだ。それで帰ってきたらその情報の精査とグレヴィンの本の読み直しだな。俺たちが見落としていることもあるかもしれないからな」
ディーナは蒼太の言葉に頷いた。
『私はどうすればいい?』
アトラの質問に蒼太はやや考えこむ。
「うーん、家にいてもらってもいいが……獣魔登録してるから自由にふらふらってわけにはいかないだろうな。とりあえず俺と一緒に行くか、俺のほうは外が多いから特に問題になることはないはずだ」
『承知した』
ディーナはその人選にやや不満そうな顔をしている。自分だけ一人なことが問題なのか、アトラと一緒にいたかったのか、蒼太のお供をしたかったのか、それは本人の中でも整理しきれていない感情だった。
「どうしたディーナ? 別に一緒に行動するんでもいいぞ。時間的に余裕がないわけじゃないし、一緒ならそれはそれで深みが増すだろうから、何の問題もない」
それに気づいた蒼太が別の提案をするが、ディーナは首を横に振った。
「いいえ、すいません。何でもないんです、最初の案で行きましょう。私は図書館でソータさんとアトラちゃんは街での情報収集で」
自分の不満を感じ取られたことを少し恥ずかしく思い、それを何とか打ち消そうと最初の案へ賛成する。
「そうか? まあ、とりあえず明日はそれで状況次第で変えていけばいいか」
その言葉に頷くディーナの顔からは不満の色は消えていた。
「じゃあ……今日は寝るか。明日は朝飯はみんなで一緒に食べよう。その後は各自の判断ってことで」
「はい、おやすみなさいです。アトラちゃん行きましょう」
『わかった、私はディーナ殿の部屋の隅を借り受けよう』
三人はそれぞれの部屋へ向かい就寝した。
翌日の朝は蒼太も訓練はせずゆっくりとした目覚めとなった。蒼太が着替えて一階に降りると、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってくる。その匂いに釣られて蒼太はそのまま匂いのもとへと足を運んだ。
「あ、ソータさんおはようございます。今朝食の準備ができるので、あちらで座ってて下さい」
「おはよう、悪いな」
それだけ言うと蒼太はリビングへ向かいソファへと腰をおろした。アトラもディーナと同じタイミングで起きたらしく、リビングで丸くなっていた。
「お、アトラも起きてたのか。おはよう」
『ソータ殿、おはよう。今日はゆっくりなのだな』
これまで、蒼太は二人よりも早起きだったためアトラは少し意外だった。
「たまにはな、色々と移動も多かったから少しゆっくり休みたかったんだ。またすぐに旅にでることになるだろうからな」
『確かに。休める時に休んでおくのは重要なことだ、いざという時に力が出せないのでは困るからな』
アトラは蒼太の応えに満足して、返事を返すと再びその場で丸くなった。
「お待たせしましたー、朝食ができたのでダイニングへ来て下さい。アトラちゃんの分も用意してあるからどうぞ」
ディーナに促されて移動すると、テーブルの上には朝食が用意されていた。
「こ、これは!?」
蒼太は料理のラインナップに驚きを隠せなかった。それらは彼にとって馴染み深い、和食の朝ごはんそのものだったからだ。
「えへへー、前にソータさんに教えてもらったことをベースにして、何とか作ってみました。もしかしたら味は全然違うかもしれませんが……」
ディーナは最初は笑顔で胸を張っていたが、話していくうちに徐々に自信がなくなってきたのか言葉尻を濁す。
「いやあ、でもこれすごいぞ。とにかく食べよう、ディーナも早く席に」
蒼太は自分の席に既についており、ディーナも慌てて自分の席へと向かった。
「いただきます」
ディーナが席についたのを確認すると、蒼太は両の手を合わせて挨拶をし料理に手をつけていく。
「これは……!」
蒼太がまず口に含んだのは味噌汁に似たものだった。その味は蒼太のイメージする味噌汁にかなり近かった。蒼太は次に卵焼き、これは出汁を入れており少し甘めの味付けにしてある。焼き魚も程よい塩加減に焼かれていた。次に海苔はこの周辺には海がないため手に入れるのを苦労した一品で、こちらは軽く炙って香りが出してあり、ご飯のお供にしやすいようカットされている。そのご飯もやや固めに炊かれており蒼太の好みの通りで昔ディーナに話した通りの一般的な朝食であった。
ディーナは蒼太が食べる様子をドキドキしながら見守っている。
「ディーナ!」
「は、はい!」
突然蒼太に名前を呼ばれて驚いたディーナは思わずどもってしまう。
「これすごいぞ。ちゃんと和食の朝食だ!!」
蒼太は感動で声が大きくなっていた。
「よかったぁ……よかったです」
ディーナは肩の力が抜けて、自分も食事に手をつけていった。
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