第185話
長老の家を出て、エドと合流した一行は集落を離れ森の中を歩いていた。
「次はどこに向かいましょうか?」
とりあえず進んではいるが目的地を決めていなかったので、ディーナが蒼太に尋ねる。
「そうだな……とりあえずトゥーラに戻ろう。竜人族の居場所に関しては情報が少なすぎるし、俺のほうのあての居場所の確認も必要だからな」
蒼太は先頭を歩き、前方の草を刈りながら進んでいる。
「あて、ということはどなたか竜人族の現在の居住地を知っている方がいる。ということですか?」
「可能性がある、といったところだな。俺にも確信はないが聞いてみて損はないだろうと思っている」
蒼太は前方を向き道を作りながらディーナへと返事を返した。
「なるほど……そうだ、確かグレヴィンさんって最後のほうは竜人族のもとを頻繁に訪ねていたって言ってましたよね?」
「言っていたな。それがどうかしたか?」
だからこそ竜人族に会いに行こうとしている。そう思った蒼太は何故今更そんな質問をするのか疑問に思った。
「アトラちゃんってグレヴィンさんの契約獣魔だったから、もしかして一緒に行っていたりしないのかなあって」
ディーナはそう言いながらアトラを見る。蒼太も進む足を止めてアトラへと視線を送った。
『期待に応えられず申し訳ないが、私は竜人族の現在の居住地には行ったことはない』
アトラはやや申し訳なさそうな表情で、そう返した。
『竜人族がその住まいを移したのは小人族が各地の集落へと分かれたのと同時期のことだ。それまではグレゴールに同行することが多かったが、分かれて以降は集落の守りにあたっていたため一人で竜人族の居場所へと向かっていたようだ』
アトラは当時の状況を思い出し、どうして一緒に行かなかったかを説明した。
「そうだったんですか……いいんです。もしかしたら、って思っただけなので」
ディーナはそう言い優しくアトラの頭を撫でた。
「一緒に行っていないにしても、どこに行ってたかとか、どっちの方面に向かってたかとか断片的な情報はないのか?」
蒼太は何か手がかりはないかと、アトラへと質問を続ける。
『うーむ、詳細なことはなにぶん昔のことなので思い出すのも難しいが……おそらく行き先に関することは誰にも何も告げずに出かけていたと思われる』
「そうか……とりあえずは、今手に入る情報を探してみるしかないか」
アトラの回答に納得し蒼太は再び先頭での草刈り作業へと戻っていった。
街道に出る頃には夜明けを向かえ、空が白み始めていた。
「やっと出たか……服を何とかしよう」
ところどころに草や泥はねなどがついていたので、蒼太は全員にクリーンの魔法をかけ汚れをとっていく。
「これでいいな。まずはトゥーラに戻ろう……エド悪いな、頼むぞ」
蒼太が亜空庫から取り出した馬車本体をエドに装着すると、蒼太とディーナとアトラが乗り込む。戦闘もあり夜間の視界が悪い中での移動であったため、それぞれに疲労が見られたがここでの休憩を避けるのには理由があった。
この周囲は休憩をするにはやや不適当な場所であり、他の旅人や冒険者に見られることで何かがあると感づかれることを避けるためであった。
「ヒヒーン!」
エドは他の三人に比べて最も疲労が軽いとわかっていたので、彼らが遠慮しないように大きな声を出して出発の合図とした。
その後は蒼太とディーナが交代で御者を務め馬車に揺られながら進んで行った。エドが揺れを少なくし、中にいる負担を減らそうとしたため帰り道は行きよりも時間がかかった。
獣人の国に辿り着くと、すぐに宿を取り食事もせずに眠りにつく。
翌朝の目覚めは快調であり、それぞれの身体の疲れは取れていた。
「おはよう」
「おはようございます」
『おはよう』
昨日は宿へと辿り着いた時間が遅かったためツインの部屋しか取れず、蒼太とディーナは同室で宿泊していた。しかし、疲れもあったことと普段から聖域のテント内で一緒に休んでいるため、お互いに抵抗はなかった。
「今日はどうする?」
気になることは色々とあったが、今のところ急いで戻ったところで情報が増えるわけではないためこの街でゆっくりするのもいいと思っていた。
「そうですね……今回もシルバンさんのお店に行ってみましょうか」
「それも悪くないか、行きは寄らずに通り過ぎたからな。あそこならアトラにもメシをだしてくれるだろ」
店によっては獣魔やペットなどの入店を断る店もあるが、あの店の二人は冒険者であるためそのあたりの問題も解消できるだろうと蒼太は考えていた。
「問題は混み具合ですね……」
ディーナは以前の店の様子を思い浮かべていた。
「とりあえず行ってみよう。この時間ならさすがに行列はできてないだろ」
まだ朝であるため、昼食から開く店に並ぶ者はいないだろうと考えられた。ディーナとアトラからも反対意見はでなかったので、腰をあげて扉を開くと蒼太はそのままレストランへと向かうことにする。
店の前までつくと、予想通り客はおらず扉にも閉店の札がかかっていた。
「入れるか?」
蒼太が扉に手をかけると鍵はかかっておらず、入り口のベルの音とともに扉が開かれた。
「いらっしゃいませー。ごめんなさい、まだ開店まで時間が……ソータさん、ディーナさん、それにわんちゃん?」
アトラは目立たないように子犬サイズになっていた。
「久しぶりだな、近くに用があったから寄ってみたんだが、さすがにこの時間は邪魔だったか?」
「いえいえ、お二人だったら歓迎です! もちろんわんちゃんもどうぞ!」
給仕兼デザート担当のゾフィは笑顔で三人を迎えた。
その声に気づいたシルバンも厨房から顔を出す。
「何を騒いでるんだ? お、おぉ! 二人とも元気だったか! よく来たな!!」
シルバンも笑顔を浮かべ、二人のもとへとやってきた。
「ん? そっちのやつは、おいおいこいつ小っこいくせにすげー強くないか?」
アトラの擬態した姿からその実力を感じ取るシルバンに蒼太、ディーナ、アトラの三人は驚いていた。
「まぁいい。一緒に来たってことは仲間なんだろ? メシを作ってやるから待っていろ」
シルバンはそれだけ言うと急いで厨房へと戻っていった。
「いつもいつもあわただしい人でごめんね。私も手伝ってくるわね」
ゾフィは仕方ないなと苦笑いしながら、シルバンの後を追い厨房へと入っていった。
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