第184話



「……とりあえず、回収したら戻ろう」


 蒼太は攻撃を防いだ鎧の男のことを考え、ディーナは超長距離攻撃を行った者のことを考えながら集落へと歩を進める。


『やつら、なかなかのてだれであったな』


 アトラは冷静に相手の戦力を分析する。


「あぁ、あの鎧の男。俺に気配を悟らせずに俺たちの間に割り込んできた……そして、夜月の攻撃を防ぐとはな」


 本気の一撃ではないにしろ、自慢の刀の一撃を防がれたことに蒼太はもやもやするものがあった。


「それに、最後の魔力矢による攻撃……確実に私たちに狙いを定めてました。あの精度はあなどれません」


 弓の腕前で自分が負けるとは思っていないが、それでもディーナは相手のその技術に一目おいていた。



「なんにせよ、あいつらとは再びまみえることになりそうだな」


 蒼太のこの発言は完全に予想だったが、どこか言葉に確信めいたものがあった。


「私もそんな気がします」


 ディーナも同じ予感を感じており、その表情は厳しいものだった。


 アトラは口には出さなかったが、あれだけの数の魔物をなんなく使役していたフードの男に思うところがあった。それはアトラが倒した魔物の中にはウルフ種のものもいたからであった。



 辺りに散らばった魔物の死体を亜空庫に次々に格納し、あらかた終わったところで集落へと戻る。


 集落は未だ眠りに包まれており、起きているものはおらず、戦闘があったことや蒼太たちが外に出ていたこと。そして戦いを終えて戻ってきたことを知るものはいなかった。



「今日のうちに発つか」


 蒼太は入り口でディーナとアトラにだけ聞こえる声で言った。ディーナとアトラは一瞬驚くが、すぐに彼と同じ考えにいたり頷いた。


「ここは放棄したほうがいい。それも早いうちにな、できれば明日のうちがいいだろう」


 帝国の手の者にここの集落の場所は割れており、蒼太たちが逗留していると思ってくれているうちに移動する必要があった。しかし、蒼太たちが居続ければ住民たちの心にはどこか油断が生まれてしまう。


 実際に今日の宴も敵が再度攻め込んでくることを想定できず、全員が眠りこけてしまっている。



「とりあえず、世話になったザムズの家にいくらかの資金源と手紙を残していこう」


 蒼太たちは静かにザムズの家へ戻ると自分たちに割り当てられた部屋へと行き、ディーナが手紙を書き、蒼太は戦闘で手に入れた魔石や素材をテーブルの上に乗せていく。


 ディーナは手紙にこの村の危険性を書き、明日にでも移動することを推奨すると書き連ねていく。今後の移動などの資金源として、魔物の素材や魔石を置いていくことも追記しておく。



「あとは、あいつらがどう判断するかだ。ここにいてこれ以上頼られても困るからな……特にアトラは守護獣様とか言われていたから、ここに残って復興のシンボルにとか言われたら目も当てられない」


『あぁ、それはありそうで怖いな。昔はグレヴィン殿と契約をしていたから集落を守っていたが、今はどれだけ頼られようとも私はソータ殿と契約をしているゆえに優先するは旅のほうだ』


 アトラも旅立つことに賛成する。



「あいつらにも戦う力がある。昨日の戦いも俺たちが到着するまでの間、小人族だけで戦いぬいていた。その間の被害も最小に抑えられていたようだ」


 蒼太は小人族の戦闘能力を思い出し、十分に戦う力があると判断していた。そこに自分たちがいては、本来の力を出さずとも勝てることがわかり、戦闘に対する意欲の低下や蒼太たちへの依存心が高くなると考えていた。


「ですね。上から見ていましたけど、皆さんの戦いはしっかりと連携をとったものでかなりの錬度でした。さすがにあのサイクロプスとかがきたら難しいでしょうけど、あの人数であれだけの時間、戦線を維持できたのは素直にすごいと思います」


 ディーナも手紙を書きながら会話に加わってくる。



 蒼太が取り出した素材はテーブルを埋め尽くすほどになっており、売れば一財築けるだけの量が置かれていた。


「ディーナ、そっちの進捗はどうだ?」


「はい、あとは署名をして……これで終わりです」


 手紙を封筒に入れると素材の上に乗せる。


「さて、それじゃそろそろ出るか」


 蒼太が立ち上がると、ディーナとアトラも頷き後を追うように立ち上がる。



 扉を開けると、そこにはミナが立っていた。


「みなさん、こんな時間にどこに行かれるんですか?」


 彼女は全てを察していたが、あえてその質問を投げかける。


「わかっているんだろ? 手紙に詳細は書いておいたが、この集落はもう終わりだ。場所を移動しなければ昨日以上の戦力の魔物たちがきて滅びるだけだ」


 蒼太の強い断定の言葉にミナは苦しそうな顔をする。



「俺たちは二度この集落を救った。一度目は結果として、という注釈つきにはなるがそれは事実だ。これ以上の関与はきっといい影響を与えない。これまで集落を守ってきたのはあんたたち自身だ、これからもそうあるべきだろう」


 蒼太は何を言われても集落を出て行くことを決めており、話しながらもミナの横を通って玄関から外へでていく。


「でも、もう少しだけいてくれても!」


 ミナはそんな蒼太たちへと振り向き、言葉を投げかける。


「悪いな。俺たちにも予定があるから出て行かせてもらう……もし、行く場所に悩んでいるならドワーフの国に行くのも悪くないかもしれないな、金になりそうな物を置いておいたからそれを売って装備を買うといい」



 それだけ言って出て行く蒼太たちの背中をミナは止めることはできず、ただ見ていることしかできなかった。


 蒼太たちの背中が見えなくなると、ミナは再度家の中に入り蒼太たちが使っていた部屋へと向かう。彼が一体何を置いていったのか、それが気になっていたからだった。



「こ、こんなに!?」


 ミナは部屋の中を見て驚くこととなる。テーブルの上に大量の魔石が置いてあり、その上に手紙がおかれている。その他にも床の上には魔物の毛皮や牙や角などが大量に置かれていた。


 蒼太は今回手に入れた素材のうち、保存のきくものを選んで部屋に置いていた。


「ありがとう、ございます」


 村を二度救い、そして今後のことも考えこれだけの物を置いていった彼らに届くように、とミナは振り絞るように感謝の言葉を口にした。

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