第182話
裏手に回り小屋を確認する。確かに小屋は古く、壁もところどころに穴が開いていた。
「これは、壊して片付けてもいいのか?」
蒼太は小屋の壁に手を当てながらミナに尋ねる。
「えっ? あ、そうですね。片付けてもらえるなら助かります」
一瞬蒼太の言葉の意味を図りかねたミナだったが、言葉通りだと判断し素直に答えた。
「わかった。少し離れるか別の場所に行っていてくれ」
蒼太はマジックバッグから巨大なハンマーを取り出しそれを構える。
「は、はい!」
ミナはそれに驚いてつい大きな声を出したが、走って離れた木の陰に隠れて蒼太の解体風景を眺めることにした。
「いくぞ、それ!」
掛け声と共に蒼太は小屋の解体をしていく。蒼太の手際は見事なもので、驚くほどの早さで小屋は跡形もないほどにバラバラにされていった。時間にして十分も経たずにその作業を終えた蒼太。
「す、すごい」
それを見ていたミナは驚きで思わず木から姿を出して呆然と眺めていた。
「まずは、これを片付けるか」
蒼太はミナが見ていた為、亜空庫ではなくマジックバッグへと解体で出た木材などを収納していく。実際にはマジックバッグの口を亜空庫と繋げているため、ミナにはまるで手品を見ているかのような速度に見えていた。
小屋の跡地の整地までを終え、そのままの勢いで牢屋を建てていく。材料は同じくマジックバッグから取り出していく、罪人を逃がさないようにするため金属の壁と扉にしその扉には食事を差し入れるような小窓もつける。壁の扉にも空気用の小さな窓をとりつけていく。さすがに金属製の牢屋を作り上げるには数時間かかった。
「こんなところか……」
蒼太はできあがった牢屋を見て満足する。
「なあ、あんたこれでいいか?」
「は、はい。こ、こんなにすごいものを作って頂いて何と言ったらいいのか……」
ミナはびっくりしながら、何とか言葉を搾り出していく。
「じゃあ、これ鍵な。代わりはないからなくすなよ?」
「あ、ありがとうございます!」
ミナは渡された鍵を受け取ると、ザムズの家へと戻る蒼太の後を遅れまいとついていく。
家へと戻ると、ディーナとアトラも既に戻っておりリビングでくつろいでいた。
「あ、ソータさん、ミナさんお帰りなさい」
ディーナは自分のバッグから取り出した紅茶を飲んでいた。
「ただいまです。すいません、お茶の用意もせずに空けてしまって」
ミナは慌てて台所へとお茶の用意に向かうが、そこにザムズが戻ってきたことで中断することとなる。
「宴の準備は完了じゃ! 皆さん、外に用意をしましたので来てくだされ」
全員で外に出て、中央の広場へ向かうとそこにはたくさんの人がたくさんの料理と共に待っていた。
「みんな、この方たちが我々を救ってくれた英雄じゃ!」
ザムズの声に、その場にいる全員が声を上げ三人を歓迎する。
「まずは、伝説の守護獣のアトラ様!」
元々小さい頃から物語として読み聞かせられてきたアトラの名前、そして戦いの最中救われた者もこの場におりみんな歓声をあげ大きな声で名前を呼ぶ。
「次に、他種族でありながら我々を救って下さった二人の英雄を紹介する!」
ザムズは二人に一歩前に出るよう促してから紹介の声をあげる。
「こちらの方が前線に立って戦われたソータ様。そしてこちらの見目麗しい女性が弓矢による攻撃にて数々の敵を葬ったディーナ様じゃ!!」
この声にも住民は沸きあがった。
「今日はお三方への感謝、そして無事魔物の襲来を乗り越えられた無事を祈っての宴じゃ、皆気のすむまで飲んで食べるとよい。それみんなグラスを持て……良いな? かんぱーい!!」
ザムズの挨拶で宴が始まった。
蒼太とディーナには特別席が用意され、そこに料理と酒が運ばれてくる。この世界では十六歳で成人を向かえるため、酒もその年齢で解禁される。
「俺の国ではこの歳で酒を飲むのは禁じられている。気持ちはありがたいが、果実水を頂こう」
「あ、私も同じものでお願いします」
二人の言葉は、宴ということで酒を飲み盛り上がろうと思っているみんなへと水を差す発言のようにも思えたが、ここでもミナが空気を読んで二人へと果実水の入った水を用意する。
「みんなお酒を勧めたりしてはダメですよ? お二人が果実水がいいとおっしゃっているんですから、それでいいんです」
笑顔でそういうミナに酒を持参して挨拶にきた住人たちは苦笑いで戻っていった。
「悪いな」
「いえいえ、気になさらないで下さい。助けて頂いた方たちが気分を害するような真似はさせません」
ミナの言葉にザムズも隣で大きく頷いていた。
「その通りですじゃ。もし皆さんが来ていなかったら、魔物の群れに押し込まれ、最後には巨大な魔物によって跡形もなくつぶされていたでしょうからのう」
ザムズはしみじみとそう言う。また周囲に集まって来ていた住人たちもその言葉に同意していた。
「情報を得るためのついでだったんだがな……まあいい、酒はいらないから美味いものを食わせてくれ」
そう言うと、蒼太の前には次々に料理が運ばれてくる。
パーティ用に大量に作ったそれらだったが、決して大味ではなく蒼太が美味いといえるだけの料理だった。
「私はそうですね、そんなには食べられないのでデザートを頂けますか?」
戦闘の時の勇ましさと、今の穏やかに笑みを浮かべるお嬢様然としたギャップに男性の多くはやられており、我先にと男たちがデザートを運んできていた。
「ありがとうございます」
その内のいくつかを受け取り、笑顔で礼を言うと渡せた者は満足そうな顔で自分の席へと戻っていった。また渡せなかった者たちもその笑顔を見られただけで十分と、笑顔で戻っていった。
またアトラの元へは主に子供たちが集まり、食べ物を持って囲んでいる。
おとぎ話の伝説の守護獣の登場とあり、その近くにいるだけで子供たちは強くなったような気分に浸っていた。
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