第181話
「なぜ北の帝国が小人族を狙うんだ? 昔のことを知っているとはいっても、今の現状を覆すとなると不可能に近いだろう。小さな芽でも摘みとろうという考えなのかもしれないが……それにしても割りに合わないな」
蒼太はそれほどの規模の国が、たかだか伝承が伝わっているだけの小人族の集落を襲うということが納得できずにいた。
「一つは先程言ったように、この長命になる魔道具を狙っているというのもあると思います。もちろん我々が様々な情報を持っているというのもあるんですがの、どうやら祖グレゴールは帝国の秘密を知ったらしくそれが狙われる最大の理由らしいですじゃ」
ザムズの言う秘密を聞こうとトーラは静かにするが、ディーナは聞かれないように彼の周囲に風の魔法による壁をつくり音を遮断していた。
「その秘密というのは?」
蒼太の質問にザムズは首を横に振った。
「それは確信を持てたのが亡くなる前だったらしく、誰にも知らされておりませんですじゃ」
蒼太はその言葉に肩を落とした。グレヴィンが見つけたものへの手がかりへの道が袋小路に入ったと感じたためだった。
「ただ……」
「ただ?」
ザムズの言葉を聞き、蒼太が先を促す。
「祖グレゴールは、亡くなる前に竜人族のもとを何度も訪れていたとのことです。もしかしたら竜人族の方であれば何か知っているかもしれません……しかし、竜人族は今どこにいるのか居場所が知れません」
蒼太もこれまでに、図書館などで様々な文献を読んでいたが竜人族の住処は謎のままだった。
「……確かにある時期を境にどの本からも竜人族の話が見られなくなっているな。だが、もしかしたら……それに関しては一つだけ手がかりがある、かもしれない」
「おぉ、本当ですか?」
ザムズが驚きを見せるが、蒼太の表情は少し自信のなさをうかがわせた。
「確信じゃないけどな……とりあえず次は竜人族の居場所を探すことになりそうだ」
「これで全種族回ることになりますかね?」
蒼太は頭を悩ませていたが、ディーナは楽しそうに笑っていた。
「ディーナ……楽しそうだな」
蒼太はジト目でディーナのことを見たが、ディーナの表情は変わらずに笑顔のままだった。
「もちろんですよ! 私にとっては全部が全部目新しいことですからね、それに……ソータさんとアトラちゃんとエド君との旅は楽しいです!」
正面から素直にそう答えるディーナに蒼太は旅は困難であればあるほど楽しいと言った過去の誰かの言葉を思い出していた。
「そう、だな。今までも明確な手がかりがなかったことなんて普通にあったからな。今度もそれと一緒で何とかなるだろう」
蒼太も今までも流れに任せていたことを思い出し、気持ちが少し軽くなっていた。
「それじゃ、俺たちはそろそろ行かせてもらおう」
いつも通りの即決で蒼太は腰をあげ、アトラとディーナもそれに倣い部屋をでようとした。
「ちょ、いや、少し待ってくだされ!」
ザムズも慌てて腰をあげると、三人が部屋を出ようとするのを大きな声で止めた。
「なんだ?」
「いえいえ、命の恩人に何も礼をせずに帰すことはできませんぞ!」
ザムズにそう言われ三人は顔を見合わせるが、その間にザムズは入り口に移動していた。強引に押し通ることもできたが、感謝の気持ちを伝えたいと必死な顔をしているため、蒼太たちが折れることにする。
「わかった、だったら何か美味いものを食わせてくれ」
「ありがとうございますじゃ!」
蒼太の言葉にザムズは満面の笑みとなり、部屋を出て夫人に声をかけにいった。
「おい、宴の準備だ! 命の恩人を歓迎する宴だ!!」
ザムズがそう言うと、夫人はわかっていると頷く。
「準備は既に始めていますよ。集落のみんなにも伝えてあります。ほら、外から声が聞こえてくるでしょ?」
夫人の言葉通り、外ではこれから祭りが始まるような賑やかな声が聞こえてくる。
「お前……さすが、わしの嫁じゃ!」
ザムズは嬉しさのあまり、夫人に抱きつこうとするがあっさりと避けられてしまう。
「馬鹿なことしてないで、あなたも外に出てみんなに指示出して下さい!」
「は、はい!」
注意され背筋が伸びたザムズは、駆け足で外に出て夫人に言われた通り宴の陣頭指揮をとっていく。
「みなさんすいません、今更ですがザムズの妻のミナと言います。この度は我々の集落をお救い頂き、本当にありがとうございました」
ミナは自己紹介をすると、深々と頭を下げ三人へと礼の言葉を伝える。
「いや、気にしないでくれ。ザムズに聞きたいことがあったものでな、結果として助けることになっただけだ」
蒼太は自分の目的を果たすためにやったことなので、このように改めて礼を言われることにはやや抵抗があった。
「そうだとしても、事実皆様は我々の命の恩人です。ありがとうございます……あまりしつこく言うと困らせてしまいますね。外は大騒ぎなので、もしよければうちで休んでいて下さい。もちろん外を見学していただいても構いません」
ミナは空気の読める嫁であるらしく、すぐに話を切り替えた。
「そうだな、適当に外をぶらぶらするのも悪くないが……その前にあいつはどうする? トーラといったか」
蒼太の質問にミナは困り顔になる。
「ここには牢屋ようなものはありませんので、どこかの家に閉じ込めておく……わけにもいきませんし」
「だったら、俺が牢屋代わりになるものを建ててやるよ。この間厩舎は作ったからそれの応用でいけるだろ」
蒼太の発言にミナは驚く。
「あ、あの、大工仕事もなされるのですか?」
「たまにな、色々と物づくり全般はやることもある。どこか小屋を作ってもいい場所はあるか?」
「そう、ですね。この家の裏にある小屋はそろそろ壊そうかと思っていたので、そこなら問題はないかと思います。こちらです」
彼女は蒼太を家の裏へと案内するため、家の扉をあけた。
「じゃあ、俺はちょっと牢屋を作ってくるから二人は好きにしてていいぞ」
「うーん、それじゃあ私たちは少し外を見て回りましょうか。戦闘中はゆっくり見る暇はありませんでしたから」
『そうだな』
こうして蒼太は裏手へ、ディーナとアトラは集落内の見学に分かれた。
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