第180話
ザムズが敵の正体を口にしようとした瞬間、窓から矢が飛び込みザムズの眉間へと真っすぐ飛んでいく。
「ひっ!」
突然のことにザムズが悲鳴をあげるが、その矢は蒼太の手によってその運動を止められたため、目的を果たせずに途中でその役目を終えていた。
「一体誰の仕業だ?」
蒼太は何でもないことのように口にするが、ディーナは窓へと駆け寄り外の様子を探り、アトラは身体を小さくして窓から飛び出すと犯人の捕縛に向かっていた。
「おい、大丈夫か?」
「……はっ、あ、ありがとうございました」
ザムズは自分が狙われたことにしばし放心状態だったが、蒼太に声をかけられ礼の言葉を何とか搾り出した。
「気にするな。しかし、よくも白昼堂々と命を狙えたものだな。それに集落に潜り込んでいたことを気づかせないとは……」
蒼太が矢を見ながら呟くと、扉をあける音とともにアトラが犯人を連行してきた。
『こいつが犯人のようだな』
「ま、まさか、なぜそんな……」
アトラが足で踏みつけ、動きを封じているのは小人族の青年だった。
「お前がさっきの犯人か。なぜザムズのことを狙ったんだ?」
蒼太がしゃがみ青年に尋ねたが、青年は首を横に向けて黙秘をする。
「か、彼が犯人じゃとは……な、何かの間違いじゃないですかのう?」
ザムズは動揺しながらアトラへ縋るような視線を送るが、アトラは首を横に振る。
『こいつが弓を持っていたのも、ここから逃げ去るのも確認している』
アトラの断じる言葉にザムズの顔を青ざめていた。ザムズの夫人も何事かと駆けつけるが、青年の顔を見て驚いていた。
「あなた、どういうことなの? トーラ君が何かをしたの!?」
夫人も彼のことを知っているようで、ザムズと同じように動揺しているのが見て取れた。
「とりあえず、抵抗できないように縛りあげておこう。いつまでもアトラの足の下ってわけにもいかないだろ」
蒼太はマジックバッグから縄を取り出して、トーラを縛り上げ、騒ぎを聞きつけ住民が集まってくる前にディーナは扉を閉める。
「奥の応接間に戻ろう、こいつが何者なのかも話してくれるな?」
蒼太の言葉にザムズは無言で頷き、応接間へと戻っていく。夫人はショックが大きかったためかしばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。
「それで、こいつは何者なんだ?」
全員がソファに着席するやいなや蒼太がザムズに尋ねる。
「彼トーラはこの集落の生まれで、わしらともいつも挨拶を交わしたり、時には食事をともにすることなどもある親しい仲のものなんじゃ……それなのに何故」
ザムズは非難するような、悲しみを湛えている様な、そんな複雑な視線をトーラへと送っていた。それをトーラは直視できずに目を逸らす。
「で、何でなんだ? さっきのは俺が止めなかったらザムズは死んでいたぞ?」
蒼太は先程の矢をトーラの目の前に取り出して質問した。
トーラはその問いに答えはしなかったが、表情は苦々しいものへと変わっていた。蒼太はトーラに近寄ると首下へと指をあてる。
「いくつか質問をしよう、さっきの矢は俺を狙ったものか?」
蒼太の質問にトーラは無言を貫く。
「じゃあ、ディーナを狙ったのか?」
これにもトーラは答えない。
「それなら、ザムズを狙ったのか?」
この質問にもトーラは答えることはなかった。
「なら、ザムズが言おうとした内容がまずかったのか?」
この質問にも対してもトーラは無言だったが、蒼太は十分だとその場を離れ元の席へと戻る。
「い、今ので何かわかったのですかの?」
ザムズは蒼太の行動が何かわからなかったため、身を乗り出してそう尋ねた。
「あぁ、あんたの命を狙ったのは確かだな。俺たちの誰かと間違えたわけではなさそうだ。それと、さっき言おうとした内容がまずかったらしい。ここからは予想になるが、こいつはこの集落で生まれ育って、今日までのどこかで襲ってきた敵側の人間と会ったんだろう。それで金でもちらつかされたか、それとも女にほだされたかして、親しかったあんたやこの集落の人間を裏切ったんだろうさ」
蒼太が呆れまじりにトーラを見ると、トーラの顔からは怒りの感情が見て取れた。
「適当なことをわかった風に言うな!」
トーラは声を荒げるが、蒼太は落ち着いて紅茶に口をつける。
「冷めても美味いな。おい、トーラといったな。適当というが、ザムズを狙ったのはあっているはずだぞ。その質問をした時に脈が大きく跳ね上がったからな。表面上はいくら無言を貫いても脈拍は正直だ」
「な、何をわけのわからないことを!」
蒼太の言葉が理解できなかったトーラはわめき散らしたが、蒼太がひと睨みするとその口を閉じる。
「経緯はどうあれ、こいつは攻めてきたやつらの仲間だと思っていいだろう。場所の情報を流したのもこいつかもしれない……集落の場所を移しほうがいいかもしれないな」
「そ、そうですね。まさか内通者がいたとは……」
ザムズは蒼太の案に頷くが、未だショックから抜け切れていない様子だった。
「まあ、こいつのことは置いとくとして、だ」
蒼太はそう言うと手ぬぐいを取り出して、トーラの口に猿轡をした。
「で、さっき言いかけた続きを聞かせてくれ。この集落、というより小人族の集落を襲い続けているのはどこの誰なんだ?」
再度蒼太はザムズに問いかける。
「う、うむ。そうでしたな」
ザムズは縛られたトーラのことをチラチラと気にしていたが、蒼太の問いに答えることにした。トーラ以外にも内通者がいる可能性を考えて、今度は窓を閉め、更に窓際でアトラが外を監視していた。
「我々を襲ったのは、人族の手のものです」
ザムズの答えに蒼太とディーナは目を見開いて驚いた。
「人族が? もしかして、勇者召喚したのもそれが理由なのか?」
蒼太の言葉にザムズは首を横に振って否定する。
「恐らくは違うと思います。我々を狙っているのは、人族領の国ですが小さな国ではなく北の帝国なのですじゃ」
以前に蒼太は情報として集めたことがあった。人族領の北方に位置する、人族領でも一際大きな勢力である北の帝国だった。
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