第176話



 蒼太を睨みつけるサイクロプス。その左足のダメージはその回復力により既に全快していた。


「一気にいかないと手数で倒すのは難しそうだな……」


 その左足をチラリと見て蒼太は呟いた。


「ぐるああああああ」


 当のサイクロプスは痛みを受けたことに激怒しており、その犯人と思わしき蒼太に向かって棍棒を振り上げた。



 蒼太はその一撃を夜月で受け流し、そのまま棍棒の側面を滑らせながら距離を詰めていく。一方のサイクロプスも近づけさせまいとして棍棒を横に振りはらう。


 サイクロプスは棍棒を振り払った先に目線を送り、飛ばされたはずの蒼太を見たがそちらには誰も飛ばされていなかった。蒼太は棍棒に力が伝わった瞬間に棍棒の上に飛び乗り、そのままサイクロプスに向けて走っていた。それに気づいた時には彼は腕の上を走りぬけ、顔まで到達していた。


「悪いな」


 蒼太が鞘に納めていた夜月を抜き、顔を斬りつけようとしたがサイクロプスの目が青く光ったことに気づき、横へ飛ぶ。



 その瞬間、青く光ったその目から閃光が走り、蒼太が先程までいた空間が貫かれた。集落からずれていたためそちらへの影響はなかったが、その閃光の辿ったとおりに木が消滅し道ができていた。


「それは反則だろ。サイクロプスにそんな攻撃方法はないはずだ」


 蒼太は過去に集めた情報からサイクロプスの項目を思い出す。それには見上げるほどの巨躯、見た目どおりの力の強さ、見た目に似合わない素早い動き、それらを生かした棍棒による攻撃、そして最大の特徴はその回復力である。とあったはずだった。



「ヒヒヒッ、そいつはただのサイクロプスじゃないよ。僕が見つけて連れてきたサイクロプスの亜種さ。君も腕に多少の覚えがあるみたいだけど、こいつには敵わないだろ? さっさとさあ、さっさとやられちゃいなよ!!!」


 その声の主はサイクロプスの後方の空中に浮かび、蒼太の困惑顔に笑い、そしてすぐにイライラしだし、ついには怒りの声をあげた。


「急に現れてそんなことを言われてもな……まぁ、いい。お前は何者だ?」


 蒼太はサイクロプスの動きに注意を払いながら、空に浮いているフードの男へと質問を投げかけた。



「僕? 僕が誰かなんてどうでもいいだろ? それよりさ、ヒヒヒッ、早く死んじゃいなよ!」


 男の声をきっかけに再びサイクロプスが蒼太に襲いかかる。


「ぐおおおお」


 蒼太は棍棒による攻撃を避けながらも、視線はフードの男に向けていた。


「……仕方ない。とりあえず、こいつから先に片付けるか」


 男からはサイクロプスの動きに同調する様子が見られないので、その動きを気配察知で感じ取りつつ眼前の敵に目を向けることにした。



 蒼太は口を閉じ、夜月に力を集中させていく。


「おや、諦めたのか? ヒヒヒッ、いい心がけだね」


 フードの男は蒼太が動きを止めたことを観念したのだと判断した。


「……」


 蒼太はその言葉に無言で返す。



 サイクロプスは再度蒼太に向けて棍棒を振り下ろした。それをいまだ姿を隠した状態で見ていたディーナとアトラは思わず息を飲んでその様子を見守っていた。


 新たな敵と思しきものが現れたことでディーナは動こうとしたが、それをアトラに諌められたため、隠れ続けていた。



 蒼太は棍棒が迫ってくる動きに合わせて、夜月を鞘から抜き放つ。その瞬間、夜月と棍棒がぶつかりあった。


「ヒヒヒッ、そんな細い剣なんかでサイクロプスの攻撃が防げるわけが、えっ?」


 フードの男が蒼太を馬鹿にしようとした声が途中で止まる。


 夜月による斬撃は蒼太の抜刀の技術と魔力によって巨大なものとなり、棍棒を一刀両断し更にそのまま棍棒を持つ腕を切り落としていた。蒼太の攻撃はそれに止まらなかった。



「焼くぞ」


 そう呟くと、周囲に数十の火球を生み出していた。そのうちのいくつかが集まり、大きな火球を形成していく。


「なんだって!?」


 フードの男は蒼太の魔法に驚きを見せる。ここまでの戦い振りを見て、蒼太は剣に自信のある男だと判断していた。しかし、目の前の光景はそれを覆すだけの魔法だった。蒼太が使った魔法自体は初級と言われるような魔法であったが、その魔法の密度が濃く、また威力も初級のそれをはるかに超えるものだ。



 蒼太はその火球のうちのいくつかを斬りおとした腕と、腕がついていた身体の斬り口を焼き再生をしないよう塞いでいく。


「グギャアアアアアアアア」


 当のサイクロプスは痛みと、再生しないという初めての体験に混乱し、声をあげるしかできない様子だった。


「お前一体何なんだ!!」


 男はフードの下で目を見開いて蒼太を怒鳴りつける。



 蒼太は男を一瞥するが、何も答えずにサイクロプスへと視線を戻した。


「とりあえず……死んでおけ」


 苦しむサイクロプスに止めを刺そうと蒼太が走り寄る。


「お、おい!」


 フードの男はそれを止めるためか、無視されたことについて問い詰めたいのか、焦りながら蒼太へと声をかける。しかし蒼太は耳に届くそれを振り払い、サイクロプスの動きを止めようと足に斬りつけようとする。



「ガアアアアアア!」


 サイクロプスは痛みに耐え、腕のない違和感に耐え、蒼太の攻撃を止めようと閃光を蒼太へと向け放った。蒼太は足を両断しようとしていたため、地面を踏み込む力が強く、避けることができなかった。


「だから僕は止めようと声をかけたのになあ、ヒヒヒッ! 馬鹿なやつだよ」


 閃光によってかき消されたと思われる蒼太のことを男はあざ笑っていた。



「ガ、ガア!?」


 閃光を放ったサイクロプスは男とはうって変わって困惑している。


「そうか、それはありがたいことだ。無用の心配だったようだがな」


 蒼太は、足を斬ろうとした夜月を閃光に向けその攻撃を相殺していた。閃光が収まるとサイクロプスは驚きでたたらを踏み、後方へと下がる。蒼太は口元ににやりと笑みを浮かべてその足に向けて夜月を放った。


 左の足を真っ二つにした蒼太は、再度切り口を魔法で焼いていく。



「なんだよ、なんなんだよ、なんでお前生きてるんだよおおおおお!!」


 男の声が響き渡り、サイクロプスは肉体へのダメージ超過によって気絶していた。



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