第168話



 ゴルドンは料理を食べ終え蒼太に礼を言うと、気合が入ったのか厨房に篭って新作のメニューの考案を始めた。


 ディーナとミリはゴルドンが篭ったのを見計らって戻ってきた。


「ソータさん、いかがでしたか?」


「あぁ、近況報告をしたってところだな。それでシルバンの料理を出して食べてもらって、そのあとは料理の研究開始ってとこだ。また美味い飯が食えるだろうさ」


 ディーナは笑顔で頷いた。


「え? シルバンおじさんの料理があるんですか?」


「あぁ、ミリにも一皿出してやろう」


 ミリも興味を持ったようなので、蒼太が彼女の分も取り出した。それを見たミリは目を輝かせている。



「こ、これ食べていいんですか?」


「そのために出したんだ、俺たちはもう行くがゆっくりと食べてくれ」


「ありがとうございます!」


 ミリはシルバンの料理の記憶がほとんどないため、ここで食べられることが嬉しかった。



 その後はミリも新作料理の考案に参加したとかしないとか。



「さて、それじゃ今度こそ図書館に向かうか」


「そうですね、お二人ともいればいいんですけど」


『一つ質問だが、図書館内に私も入れるのであろうか?』


 獣魔登録をしているとはいっても、図書館という欠損しやすい品物を扱っている施設への入場ができるのか。最もな疑問だったが、それを口にしたのがディーナの腕の中にいるアトラというところに、蒼太は驚く。



「前の主人と別れてからずっと野性で暮らしてたんだろ? 何でそんなに人の文化に詳しいんだ?」


『私はこのように身体のサイズをある程度変化させることが可能だ、今の状態よりも更に小さくなることもできるのでな。その状態だと、責めを負うことなく街中を闊歩することができる。そうして、今の人間の情報を集めたりしたりなどしていた。と言っても特に目的があるわけではなく、ただの暇つぶしだがな』


 アトラはこれまでもちょくちょく色々な街に出入りしており、その中で現在の知識などを得ていた。


「はー、アトラちゃんすごいですね」


 図書館への道中は相変わらず人通りが少なく、アトラが話している間誰かとすれ違うということはなかった。



 図書館へと辿り着いたが、アトラの疑問に対する答えを蒼太もディーナも持ち合わせていなかったので、先に蒼太が中へ入ってアトラの扱いについて確認することにした。その間、ディーナとアトラは外でじゃれあいながら待っていた。


 しばらくすると、蒼太が確認を終えて戻ってくる。


「中には入っていいとのことだ、ただし中を見て回るのはダメで入り口の辺りで待機ならいいってさ」


「なら、アトラちゃんも一緒ですね。今日はお二人に挨拶するだけですし、中に入れれば十分です」 


『ふむ、図書館は話には聞いていたが入るのは初めてだ。興味深いな』


 アトラはどこか感慨深そうな表情で二人のあとをついていく。



 中へ入ると、今回の目的の相手。レナとガイがいつも通りカウンターで司書業務を行っていた。


「あ、レナさんガイさん、お久しぶりです」


 ディーナが声をかけると、二人も手を止めてディーナへと一礼する。


「この間の……えっと……」


「名前は聞いてなかった気が……」


 二人は顔は覚えていたが名前が出てこず、言葉に詰まっている。


「そうですね、言ってませんでした。では、改めて私の名前はディーナリウスです。ディーナとお呼び下さい」


 自分たちの名前を知ってもらっているのに、ディーナの名前を知らないことに二人揃って困っていたが、名前を聞くことができ安堵の表情になっていた。



「それで、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 男性の司書が仕事モードへと戻り、二人に用向きを聞いてくる。


「今日は二人に挨拶に来ただけだ。しばらく街を離れていたんだが、その先で二人のことを知っている人にもあったものでな」


 蒼太の言葉に対応していた男性司書だけでなく、隣の女性司書も驚きを見せる。


「私たち二人を、ということはもしかして……」


 男性司書は心当たりがあるようだった。


「そうだ、獣人の国の司書長アルノートだ」


 蒼太は頷いて、その名前をだした。



 アルノートの名前を聞いたガイとレナの表情は、大切な人を懐かしむような表情になる。


「先生が……元気でしたか?」


「あぁ、俺たちの仕事を手伝ってもらったんだが、アルノートがいなかったら一体どれだけかかってたことか……」


 ガイの質問に蒼太は城での作業を思い出しながら、答える。


「ふふっ、さすが先生ですね。蔵書の整理をいっせいにやった時も先生が出張に行っている間は全く進まなかったけど、帰ってきた途端すごい速度で進んだものね」


「あー、あれはすごかったなあ。先生が戻ってくるまでは、もう一生終わらないかと思ってたくらいだ」


 二人は修行中の頃のことを思い出し、気持ちもその頃に戻っているかのようだった。



「なんだか……いい感じですね」


 ディーナが蒼太に小さい声で囁いた。


「あぁ、何だかんだ仲がいいよな」


 蒼太も同じトーンで返している。



『ソータ殿とディーナ殿もたいがいだと思うがな』


 入ってすぐのとこで座って待機しているアトラが、これまた二人に届かない程度の小さな声で呟いた。



「あっ、すいません。つい懐かしくて盛り上がってしまいました」


「す、すいませんでした」


 ガイとレナが揃って頭を下げるが、蒼太とディーナからすればその様子すら微笑ましかった。


「いや、気にしないでくれ。むしろ意外な一面が見れてよかったよ」


「ですです、そもそもこちらから振った話ですし」


 蒼太の言葉にディーナは大きく頷いている。それを受けたガイは居心地が悪そうにしており、レナは顔を赤くしていた。



「まぁ、用事は二人に会うことだけだったんだが……何か新しく小人族か竜人族関連の本が入ってたりしないか?」


 蒼太は確認のために、司書の二人へと質問をした。


「うーん、最近は入ってないかもしれないですね……あー、でもただの物語ですがグレヴィンさんの本ならこの間入荷しましたよ。読まれますか?」


「「是非!」」


 二人の反応は早く、詰め寄られたガイは思わず後ろに数歩下がってしまった。

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