第166話
再び三人はぶらぶらと歩いていた。
「いやあ、まさかあそこまでレベルが上がってるとは思わなかった」
「美味しかったですねえ。ソータさんの故郷と同じでしたか?」
ディーナの質問に蒼太はしばし考え込む。
「うーん、かなり近いな。店であれをお好み焼きとして出されたら、こういうのもあるんだなくらいには受け取ると思う。むしろ下手な店で食べるよりはあの親父作ったほうが美味いかもしれないな」
ソータはそれほどに店主のお好み焼きもどきを評価していた。
「はー、すごいですね。確かに美味しかったですけど、本場と比べてそんなにですか」
蒼太は深く頷いてディーナに肯定の返事を返した。
「街のみんなも美味いと思ってるんだろうな、あれだけ行列ができたからなあ」
蒼太たちが裏で休んでいる間、屋台にはひっきりなしに客が来て親父はその対応に追われていた。親父に声をかけるのも憚られたので、三人は会釈だけして屋台を後にしていた。
「すごかったですね。途切れることがなかったし、客層も色々な方が来てました」
物珍しさもあるだろうが、屋台で出す料理の中では親父の店はクオリティが高く、老若男女に好まれているようだった、
「それじゃ、次は宿にでも行くか」
昼食時を屋台の裏で過ごしていたので、そろそろランチタイムを過ぎる頃合であり、宿の食堂も落ち着いてくる時間帯だった。
「あー、そういえばそうですね」
ディーナはなぜ宿に行くのかわかっていたが、アトラは合流する前のできごとだったので首を傾げていた。
『ソータ殿、図書館へ行くのではなかったかな? 一体なぜ宿になど』
泊まる場所は自宅があり、食事も終わっているため食堂に行く理由もなかったためアトラの疑問は最もであった。
「アトラと会う前に宿の食堂のシェフに話をするって約束をしててな、ちょっと遅刻だがまあいいだろ」
「ちょっと、ですかね……」
ディーナも忘れていたので、気まずそうな顔をしていた。
『ふむ、私と会う前となると往復の距離を考えても二週間は経過しているということか』
アトラは冷静に突っ込みをいれるが、蒼太は気にしてない様子で、ディーナは図星を突かれたことで額に汗を浮かべていた。
「そういうことだ。まあ本人と約束したわけではないから、大丈夫だろ」
蒼太は楽観的にそう言ったが、ディーナは気が気ではなかった。
ディーナの心配をよそに、三人は宿へと辿り着いてしまう。
「さあ、入るぞ」
蒼太が先陣を切って宿へと入っていく。ディーナは躊躇を見せたが、アトラに促されて渋々中へと入っていく。
「あっ! ソータさんとディーナさん、それと……ワンちゃん? いらっしゃいませー!」
今回三人を出迎えてくれたのは、ミリの元気な声だった。
「久しぶりだな」
「お久しぶりです」
蒼太とディーナの挨拶にミリの笑顔はより輝いていた。
「ほんっっっっっと久しぶりですよ! もう、ずっとどこ行ってたんですか! って獣人国って言ってましたね」
ミリのテンションは高かった。他に客がおらず、いつもなら制止役のはずのミルファーナもいないためそれを注意する者はいなかった。
「いや、獣人国の後にそのままドワーフの国にも行ってたんだ」
「ど、ドワーフの国ですか?」
ミリは思っていた以上の長距離の旅だったことに目を丸くして驚いていた。
「あぁ、それで帰ってきたのが二週間と少し前だったか。戻ってきた日にここにも寄ったんだが、ミリは出てたみたいだったな」
蒼太の言葉にミリは思い当たることがあるようだった。
「あー、多分買出しに行ってた時ですね。もう、お母さんも教えてくれたらいいのに」
ミリとすれば最もな怒りだったが、蒼太としては内心胸をなでおろしていた。
「そのミルファーナはいないのか? ゴルドンに話をしてやって欲しいと言われてたんだが……」
蒼太はあたりを見渡してミルファーナの姿が見えないため、ミリへと質問する。
「お母さんなら買い物に行ってますよ。私みたいな店の買出しじゃなく、日用品を買いにですね」
「そうか、じゃあゴルドンはいるか?」
発案者だったためミルファーナの所在を確認したが、話をする相手のゴルドンがいればいいかと考えを変える。
「お父さんなら、休憩中なのでいます。呼んできますね!」
蒼太の返事を待たずにミリは走って厨房の中へと走っていった。その背中を見ていたが、ただ立っているのも手持ち無沙汰だったので、他に客のいない食堂のテーブルの一つについて待つことにした。
しばらくすると、ミリがゴルドンを伴って戻ってきた。
「おう、よく帰ってきたな」
久しぶりに会ったが、仏頂面のままゴルドンはゴルドンなりに歓迎の挨拶をする。
「もう、お父さんったら。もっと景気のいい顔してよ、それじゃ嫌なことがあったみたいじゃない!」
ミリに言われゴルドンは渋い顔をしたあとに表情を色々と変えるが、ミリの言う景気のいい顔には程遠かった。
「はぁ、お父さんに期待した私がバカだったよ……」
ミリは肩を落としてため息をついていた。
「それで、俺に用だと言っていたが何だ?」
ゴルドンは娘の機嫌を取り戻せないと判断し、蒼太へと自分の呼んだ理由を尋ねることにした。
「あぁ、ミルファーナに頼まれたんだ。あんたにシルバンの話をしてやるようにってな」
「シルバンだと!」
ゴルドンは目を見開いて蒼太に詰め寄った。
「そ、そうだ。獣人国では世話になってな、色々とメシを作ってもらったんだが……少し離れてくれるなら話そうと思うんだが、どうだ?」
蒼太の言葉に自分の状態に気づき、我を取り戻す。
「す、すまなかったな。どうも兄貴の名前を聞いたらついつい頭に血が昇って……」
ゴルドンはそう言うとよろよろと空いている席に腰を下ろした。
「話、聞かせてもらっていいか?」
冷静になったゴルドンは改めて蒼太へと頭を下げた。
「そのために来たからな」
蒼太は大きく頷くと、最初の出会いから話を始めていく。
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