第165話
一行はぶらぶらとウィンドウショッピングしながら街中を進んでいく。途中で気に入ったものがあれば、購入してマジックバッグへと収納していく。特にこれといって目立ったものを買うわけではなかったが、ディーナはこの日常が楽しく、またアトラも屋台で買ったものを食べることを楽しんでいた。
アトラは何処に入っていくのかと驚くほどに次々と食べ物をその胃袋に納めていく。
「よく食うな。食うこと自体は構わないが……苦しくないのか?」
アトラは今も屋台で買ったものを口にしており、それを飲み込んでから蒼太の質問に答える。
『私の元の姿を忘れたか? この姿は偽装してる姿であり、胃袋の容量も元々の姿に準拠する。よって、これくらいの量で苦しくなることはない』
最近はずっと子狼の姿だったため忘れがちだったが、エンペラーウルフの姿を思い起こして蒼太は納得する。
「それで、ソータさんの故郷の食べ物に似てるのってどこにあるんですか?」
ディーナはアトラとは違い、蒼太が言っていた屋台に行くまでは食べないようにしていた。
「前と同じであれば確か次の角を曲がった場所に……」
その角を曲がったところにはいくつかの屋台が出ており、その内の一つが例のお好み焼きもどきの店だった。
「ん……? お、おぉぉぉお、この間のあんちゃんじゃねーか!」
屋台の親父は蒼太のことを覚えており、辺りに聞こえるほどの大声で呼びかけた。
「……声がでかい。もう少しトーンを落としてくれ」
「おぉ、悪いな。あまりに久々だったもんだから……ってか遅すぎだ! 確かにいつ来るとは言ってなかったが、あれからどんだけ経ってると思ってやがる!」
親父は再度大声で蒼太へと怒声を張り上げた。
「だから、声がでかいって言ってるだろうが。今日はツレもいるんだ、あまり驚かせないでやってくれ」
ディーナは大声にびっくりしていたが、アトラはあくびをして無反応だった。
「お、おう悪かった」
蒼太が冷静に返したため、親父もクールダウンする。
「それで、あれから何か工夫はできたのか?」
「おうよ! まずは食ってくれ! 今すぐ焼くからな、三枚でいいか?」
親父は返事を待たずに既に一枚目を焼き始めていた。
「あぁ、アトラも猫舌……ってことはないか狼だからな」
アトラは言葉は発さず蒼太の言葉に頷いている。
「よっしゃ、今焼くから待っててくれ」
親父は更に追加の二枚のお好み焼きもどきを同時に焼いていくが、前回とは異なり色々な具材が入れられていた。片面が焼けたあたりで反対にひっくり返していく。
「美味しそう……」
ディーナの呟きに親父はにやりとする。
「ねーちゃん、それを口にするのはちょっと早いぜ」
反対側が焼けて、それを再度ひっくり返すとそこにソースをかけていく。ソースが鉄板にも流れ落ち、ソースが焼ける香ばしい匂いが周囲へ広がっていく。
「わぁ、すごい! すごく美味しそうです!!」
ディーナは先程とは違い、大きな声でその感動を口にした。親父の狙い通りの反応をした彼女に親父はしてやったりと笑顔になっていた。
「具材が色々入ってるのは確かにいい改善点だ、他にはないのか?」
蒼太の冷静な突込みにも親父は屈さなかった。
「ふっふっふ、言われると思ってたぜ。確かにあれだけで改善と言っても具沢山なだけだからな。仕上げにこれを……っと」
親父は、ソースのかかったソレの上に何かをかけていく。それはお好み焼きのトッピングとしてよく見かける、青のりでも鰹節でもマヨネーズでもなかった。
「さぁ、食ってくれ!」
三人は受け取るとそれぞれお好み焼きもどきに箸をつける。
「こ、これは」
「お……」
『む!』
その言葉の出だしと、それぞれの表情から親父は勝利を確信していた。
「美味い!」
「美味しいです!」
『美味いぞ!』
そんな三人の反応に親父は満面の笑顔になる。
「上にかかってるのはふりかけみたいなものか」
蒼太は味わいながらも、上にかけられたものが何なのか分析していく。
「ふりかけ? よくわからんが、深みがでるように色々な野菜とか肉を乾燥させたものとかを細かくしたものをかけたんだ。そうすれば、ソースだけの単調な味だと思われないだろ?」
「ほー、あれから数ヶ月でここまでの成果を出すとは……すごいな」
蒼太は親父の言葉に感心する。海が遠いため鰹節や青のりなどの発想には辿り着かなかったのだろうと予想されるが、それを近々で手に入るもので代用して、その中でもよりよいものを作り出そうという工夫に脱帽する。
「面と向かって褒められると照れるな」
親父は柄にもなく顔を赤くしていた。
「いや、ここまでやるとは思ってなかったよ。何かしらの工夫はするだろうと思ってはいたが、ここまでのものを作ってくるとは思わなかった」
蒼太は感心していたため、親父に素直な感想を伝える。
「お、おう。ありがとな、あんちゃんのおかげで俺の店も繁盛したよ。今日は俺のおごりだから好きなだけ食ってってくれていいぞ」
親父の店は以前の閑古鳥が鳴いていた状況と違い、繁盛していた。昼前ということもあり、まだ客は集まっていなかったが、その客の集まりにあやかろうと近所に屋台を出すものが出るほどだった。
「あぁ、遠慮なく食わせてもらうよ。俺はもう一枚もらおうかな。二人はどうする?」
「あ、私ももう一枚お願いします」
アトラは前足をあげて、器用に三本指を立てていた。
「悪いな、こいつには三枚焼いてくれるか?」
「任せろ!」
親父は次々にお好み焼きもどきを焼いていき、三人の前に用意していく。
その後、更に追加のお好み焼きもどきを食べた三人は苦しくなって屋台の裏で休ませてもらうことになった。
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