第155話

 ギルドへ蒼太とディーナが足を踏み入れると、フロアにいた職員、冒険者の視線が二人へと集まった。期間にすれば約二ヶ月間トゥーラから離れていた二人が戻ってきたことに驚いているようだった。


 その中でアイリが素早く応しており、二人の姿を確認するとすぐにミルファを呼びに行っていた。


 蒼太のことを知っている冒険者は遠巻きにひそひそと噂をし、初めて見る者たちはフロアの空気が変化したことに首を傾げていた。


「何か騒がしいな」


 蒼太はいつもと違う雰囲気に疑問を持つ。


「そうですか? こんなものじゃないですかね」


 ディーナは冒険者ギルドは騒々しい場所というイメージを持っているため疑問を持たなかった。



「そうか? まあいいか。アイリかミルファは……いないか」


 蒼太は街に戻った報告をしようと思い、見知った二人のどちらかがいないか受付を確認するが、どちらもいないためどうしたものかしばい考え込む。


「どうしましょうかね、何か依頼でも受けてみますか?」


 ディーナは掲示板へと近寄り、依頼の紙を順番に眺めていく。



「依頼かあ……」


 蒼太もディーナの隣に行き、なんとなく依頼を眺めていると、カウンターの奥の階段をかけ下りてくる足音が聞こえた。


「ソータさん!」


 ホールには他の冒険者たちがいたが、お構いなしにミルファが大きな声で蒼太に呼びかける。


「ん、ミルファか。どうした、でかい声を出して」


 蒼太とディーナは、慌てている様子なのでカウンターへ向かい、そこで話を聞くことにした。



「す、すいません、つい大声を出してしまって。みなさんもすいませんでした」


 ミルファは蒼太とディーナだけでなく、ホールにいた他の冒険者たちにも頭を下げていく。冒険者は珍しいものをみれたと、笑顔でその謝罪を受け入れていた。


「そ、それでソータさんとディーナさん。お二人にはギルドマスターの部屋に来てもらいたいんですが……」


 ミルファは声をひそめて、二人にだけ聞こえる音量でそれを伝える。


「……はぁ、断ったら困るんだろ? また何か厄介ごとか?」


 ディーナは何も言わずに蒼太の判断に任せることにしている。



「すいません、それも上でお願いします」


 ミルファは申し訳なさそうに頭を下げる。


「仕方ない、話だけは聞かせてもらおう。ディーナもいいか?」


「はい、むしろ私も行っていいんでしょうか?」


 ディーナは人差し指を顎にあてて首を傾げている。



「はい、ギルドとしましてはディーナさんはソータさんのパーティメンバーと認識していますので、お二人に不都合がなければ同席して頂ければと思います」


 ミルファはディーナにそう言ったが、慣れていないからなのか何か思うところがあるのか表情はやや固かった。


「じゃあ、行くか」


 蒼太の言葉にディーナとミルファは頷き、ミルファの先導で二階へと向かった。



 部屋へ入ると、アイリとギルドマスターグランが待っていた。アイリはミルファと入れ替わりに受付へと戻る。


「よく来てくれた。すまんな、急な呼び出しで。そこにかけてくれ」


 グランは立ち上がると神妙な面持ちで蒼太とディーナを迎え入れた。


「それで、話っていうのは何なんだ?」


「お前が魔物の素材をとってきたという森を覚えているか?」


「あぁ、覚えてる。大量の魔物がいたからな」


 グランの質問に蒼太が答える。静かな森で大量の魔物がいたあの風景はインパクトがあったため、記憶に鮮明に残っていた。



「そこの調査をお願いしたい」


 グランは蒼太の答えに頷き、依頼の話をする。


「あそこの魔物はほとんど俺が倒したはずだが……それに、調査なら三兄弟に行かせればいいだろ。いや調査くらいなら、他のやつでも十分こなせるはずだ」


 わざわざ自分を呼び出してまで調査を依頼することに蒼太は違和感を感じていた。



「三兄弟は無理だ、今は怪我で療養しておる。あいつらが怪我を負うほどの場所となると他の冒険者たちも……」


「無理ってことか。一体何があったんだ? 油断とかくらいじゃあいつらが療養するほどの怪我なんてことにはなかなかならないだろ」


 蒼太の疑問は最もであった。彼らの実力なら、それなりの実力の魔物でも十分に相手取ることができる。


「あいつらには先に二度ほど調査に向かってもらった。一度目は何事もなかった、しかし魔物が増えたとの情報が入ってな再び行ってもらったところ、今回の結果になった……」


「それで、俺にお鉢が回ってきたのか。依頼を受けるのは構わないが、報酬はどうなるんだ? Aランク相当のパーティがこなせない依頼を正式なギルド依頼ではなくランクの低い俺たちが受けるとなると、それなりなんだろ?」


 蒼太の要求にグランは顔を険しくする。



「報酬は……金貨十枚だ」


「それだけしか出せないのか?」


 依頼の難易度と報酬が噛み合っていないことに蒼太は呆れてしまう。


「それじゃあ受けることはできないな。冒険者っていうのは慈善事業じゃないからな」


 蒼太は腰をあげ立ち上がろうとするが、それを止めたのはミルファだった。


「お待ち下さい。どれだけの報酬であれば受けてもらえますか?」


 ミルファは蒼太から条件を引き出そうとする。



「金は特にいらないからなあ……珍しい魔道具とかなら考えないでもない」


 蒼太の返答にグランとミルファは顔を見合わせ考え込む。


「……ならば、わしが昔手に入れた風の魔道具をやろう、腕と足に装備して魔力を流すことで動作を加速させることができる」


 グランは冒険者時代に手に入れた魔道具の提供を申し出る。


「まぁ、微妙だがいいだろう」


 付与魔法などがあるため、蒼太にとっては効果的なものではなかったが、魔道具であれば売ればそれなりの価値があり、またディーナやエドに装備させることもできると考え依頼を受けることにする。



「それで、三兄弟はどんな魔物にやられたんだ?」


「あいつらが言うには、デカイ狼タイプの魔物にやられたと言っていたな」


「……そうか、ならこの依頼受ける理由ができたな」


 蒼太は含みのある笑みを浮かべていた。

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