第152話
翌朝には、蒼太とディーナはシルバン、ゾフィ、ルードレッドに見送られて旅立つこととなる。ルードレッドは以前獣人国に滞在していた際に共に過ごす時間が長かったため、機密事項は伏せた上でこの国の近況情報などをしたためた書類を蒼太に渡してくれた。
そこには、武闘大会に参加し決勝まで進んだ参加者のその後の話も記されていた。サンタナ、テネシーの騎士団所属の二人は変わらず、将軍の息子のトバインは騎士団に入り、蒼太と決勝を争ったガルギスは騎士団への誘いを断り旅立ったとのことだった。
二刀使いのレイショーはカルロスのギルドに入り、エルフのプラムは国に戻ったとのことだった。
「ふーん、みんな色々あるんだな。ディーナも読むか?」
御者台の蒼太から手紙を受け取ったディーナは書類に目を通していく。
「……みなさんがんばってるんですね。蒼太さんも新しい武器を手に入れてパワーアップしてるし、今回の参加者の皆さんは色々動きがありますね」
蒼太もディーナもあまり興味はなかったが、とりあえず何かしらの感想を言い合った。
「とりあえず、今後会う可能性があるとしたらギルドのやつらかガルギスくらいだな」
「そうですねえ、ガルギスさんには色々お世話になったからまた会ってみたいですね」
ディーナは一人で散策している際にもガルギスから話を聞いており、それも含めて今回の参加者の中では最も繋がりが強い者であった。
「あー、そうだな。今回の参加者の中だとあいつが一番のびしろがあったように思う。もっと鍛えて強くなったらまた戦ってみたい相手ではあるかな」
上からの言葉ではあったが、蒼太はガルギスには言葉の通りに期待していた。他の選手、例えば優勝候補と言われたSランク冒険者のカルロスや騎士団の部隊長であるサンタナは既に完成された強さであり、あそこからの伸びは余程のことがない限りはみられない。だからこそ、まだ未完成なガルギスへの期待は強かった。
「次の大会は参加するかわからないから、その望みも叶わないだろうけどな」
蒼太は内心でこれがフラグになるかもなと思い、笑みが零れた。
「次の時は私も参加してみたいですね、もっと強くならないと」
既に千年前の勇者と同等の実力を身につけているディーナも未完成の逸材であり、もし参加すれば蒼太の最大のライバルになるであろうことは想像に難くなかった。
「まぁ、それはその頃俺たちがどんな状況にいるか次第だな。とりあえずは、俺たちの家目指してのんびり旅を楽しもう」
「はい!!」
蒼太の俺たちの家、という言葉にディーナはこらえきれない嬉しさが声と表情に表れていた。
それからの数週間はのんびりとした旅となった。道中の宿場町で宿をとったり、野宿をしたり、と言っても聖域のテントがあるため通常の所謂野宿とは各段に好条件であることは間違いなかった。
唯一あった問題といえば、宿場町の食堂で酔っ払った冒険者にディーナがナンパされそうになって、それを止めようとした蒼太に襲い掛かって返り討ちにした話くらいであった。
それ以外は静かなもので順調に旅は進み、冒険者の街トゥーラへと戻ってくることとなった。
入場の際は二人とも冒険者ギルドのカードがあり、衛兵が二人のことを覚えていたこともあって、すんなりと入ることができた。
二人は自宅へと戻る前に、不動産屋に寄りフーラから鍵を返してもらいにいく。
「あら、ソータさんとディーナちゃんじゃない。やっと戻ってきたのね、家の方は綺麗にしてあるわよ。これ鍵ね返すわ」
「あぁ、助かったよ。料金の方は足りてるか?」
「うん、まだ預かったお金にも余裕あるわよ。一度返却しましょうか?」
エルフ国に向かう際にも多めに渡していたが、今回も長くなるとわかっていたため多めに渡していた。
「いや、またその内旅に出ることになるだろうからそのまま預かっていてくれ」
「また? まあ冒険者だから不思議なことじゃないけど、せっかく家を買ったのに少しはゆっくりしたらいいじゃない」
フーラは家というもののあり方として、人が住んでこそのものであると考えているため、少し責めるような口調になっていた。
「そうなんだが、俺たちにも俺たちなりの目的があってな。滞在期間が短いのは家に対して申し訳ないが、やっぱり帰る家があるっていうのはいいものだよ。何だかんだ言っても自分の家が一番! なんて実家にいたころは遠出から帰るたびに言っていたからな」
「へー、そんな考えもあるのね。まぁ確かに旅から疲れて帰ってきて宿に泊まるより自分の家のほうが気楽だものね」
蒼太の話にフーラは感心していた。
「まぁ、考えはそれぞれってことさ。さて、ディーナ帰ろうか」
「はい、フーラさん失礼しますね」
「うん、またね」
二人はフーラに別れを告げ、家路についた。
自宅に着くと、馬車を一度降りフーラから返してもらった鍵を使って開錠する。中に入ると、エドから馬車を外し亜空庫へと仕舞う。エドはそのまま自分の定位置である厩舎代わりのエリアへと腰を落ち着けた。
「さて、久々の家だな。まずはゆっくりと風呂にでも浸かりたいな」
「そうですね」
宿場町では、風呂がある宿が少なくあっても小さいものしかなかったので二人ともゆっくりと浸かりたいと考えていた。
「まずは風呂を沸かしてくるよ。ディーナはメシの用意をしといてくれるか?」
「わかりました。旅の疲れもあるから、今日は少しさっぱりしたものにしますね」
蒼太は風呂場へ、ディーナはキッチンへ行きそれぞれの作業を始めていく。
ディーナは宣言通りにさっぱりとしたやや酸味の強い食事を作った。梅干のドレッシングを使った豚肉のしゃぶしゃぶサラダ、生姜を使ったスープ。そして柑橘系のフルーツ三種を使ったドリンクが用意されていた。そして、ドワーフ国で手に入れたライスも用意されている。
「いただきます……美味いな。疲れがとれる気がする」
「よかったです。いただきます。うん、美味しくできてる」
二人ともそれだけ言うと、無言で食べ続けた。途中で何度も休憩はとっていたが、知らず知らずのうちに疲れはたまっていたようで食事に集中していた。
「はぁ、美味かった……久々になんか、こうほっとする食事ができた」
蒼太は三回おかわりしており、膨れた腹をさすっていた。
「よかったです、食器を洗い終わったらお風呂にしましょう」
「わかった、メシを作ってもらったからディーナが先に風呂に入るか?」
蒼太の質問にディーナは少し考えこんでいた。
「……よかったら、一緒に入りません?」
その衝撃的なディーナの発言に、蒼太は口をあけて驚いていた。
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