第151話
蒼太は行列に並んでもゆっくりとは話せないと考えたため、食事はルードレッドお勧めの別の店で済ませ、閉店後にレストランを訪ねることにした。
ルードレッドは蒼太にあの店を紹介されて以来、暇があれば色々な店を巡っておりこの辺りの飲食店に詳しくなっていた。今回の店もシルバンの店には劣るとはいえ、蒼太とディーナの舌を満足させるだけのものであった。その後もルードレッドは蒼太の時間つぶしに付き合い、街の観光案内を買って出てくれた。
シルバンの店は仕込などを前日から行うため、基本的にはランチのみの営業となっている。その為、観光を一通り終え夕方になった頃に三人は店を訪ねた。
扉を開けるとベルの音がなる。中からはゾフィの声が聞こえてくる。
「すいませーん、今日はもうおしまいなんです。閉店のプレートをかけてたと思うんですが……って、ソータさんとディーナさん! それとルードレッドさんまで。三人揃ってどうしたの?」
ゾフィの声にシルバンも厨房から姿を現した。
「おー、二人とも帰ってきたのか。早速何かを、と言いたいところだがこれから仕込みをするから材料があまりなくてな……」
「いや、食事は別のとこで食べてきた。ここにも一度来たんだが、あまりの行列だったんでな。二人とゆっくり話したかったから、ぶしつけだったがこの時間に来させてもらった」
蒼太の言葉に、ゾフィとシルバンは苦笑いになる。
「あー、あれな。客がたくさん来てくれるのは嬉しい悲鳴なんだがな。元々のスタンスとはちと変わっちまったかな」
シルバンは頬を掻きながら言うが、まんざらでもない顔だった。
「色んな人が食べに来てくれるから嬉しいけど、長時間待たせちゃうのはちょっと悩みの種かしら」
頬に手を当てながらそう言うゾフィは少し困った表情をしている。
「その件でお話があって伺いました」
ルードレッドは一人神妙な面持ちで口を開く。蒼太に話してもらいたいと言ったが、結局は我慢しきれずに自分で話し出すこととなった。
「……はっ、何かと思えばそんなことでわざわざやってきたのか。あんた仮にも一国の大臣なんだろ? こんな場末のレストランがちょっと繁盛したくらいでそんなに考え込むなよ。ってか、むしろたくさんの人に食べてもられてるからよかったぞ?」
ルードレッドの悩みを聞いたシルバンは鼻で笑った。
「そうだよ、確かに忙しいけど繁盛しててそれで誰かを恨むなんてどんな冗談だい! あー、もしかしてこの人がたまに来る客だけ相手にしてればいいみたいなことを言ってたから気にしてるのかい?」
ゾフィの言葉にルードレッドは目を丸くして無言で頷いた。
「かーっ、そんなことを気にして悩んでいたのかい。あんなの客が来ないことを正当化するためのこの人の言い訳に決まってるじゃないか」
「!? そ、そうなんですか? 私はてっきりあれが本心なのだとばかり……」
余りに衝撃的だったため、ルードレッドはそれだけ言うと放心状態になっていた。
「ま、まあそういうわけだから、今の状況には不満はない」
シルバンは自分の強がりを指摘されたことにバツの悪さを感じていたが、何とか話をまとめにはいった。
「何と言うか……俺とディーナが来なくてもちゃんと話をしていれば解決していたことだったわけか」
蒼太は呆れた顔でシルバンとルードレッドのことをみていた。
「で、でもよかったですよ。ルードレッドさんの話だと二人が忙しすぎて、やりたいことができないんじゃないかって話でしたから」
ディーナは話の流れを変えて、なんとかフォローしようとする。
「とにかく解決したならいいさ。俺たちも挨拶しておきたかったからな、願わくば料理が食べられるに越したことはなかったが……」
蒼太の言葉にシルバンは眉をしかめる。
「ん? なんだ、すぐにでも出発するような言い方じゃないか」
「あぁ、俺たちは自分の家に戻るつもりなんでこの国にはそう長居はしないつもりだ」
「それを早く言えよ! ゾフィ!」
「はいよ! あんたたちは待ってなさい!」
シルバンの声にゾフィも立ち上がり腕まくりをしながら厨房へと篭った。
蒼太とディーナは急なことに驚いて、呆然としたまま二人の背中を見送るだけだった。
しばらく待っていると、ゾフィによって料理が運ばれてくる。
「はい、これバッグにしまってね。どんどん来るよ!」
「わ、わかった」
使い捨ての皿に乗せられた料理を蒼太はバッグの口から亜空庫にしまっていく。
それから料理は全てで五十食近く運ばれてくることとなった。それを全て仕舞い終わった頃にシルバンとゾフィとルードレッドが戻ってくる。ルードレッドだけは別の意味だったが、全員が近くの椅子に座り一息ついていた。
「あ、ありがたいが大丈夫なのか? 食材があまりないとか……明日の仕込みがどうとかって言ってなかったか?」
蒼太の質問にシルバンは首を横に振った。
「気にするな、そこの大臣さんはここが繁盛したのは宮仕えのやつらのせいだと思ってるが、元を辿ればあんたら二人が全てのきっかけだろ? だから、これはその礼だ。恩人に礼をするのは当然のことだからな」
シルバンは後半には照れがみられ目線を外しながらそう言った。
「悪いな。いや、ありがとうだな。道中で食べさせてもらうよ。だが、明日の材料は大丈夫なのか? かなりの量使ったと思うが……」
出された料理は、その全てにおいて大盛りになっていた。
「あー、正直微妙だな。明日は休みにしたほうがいいか……」
「だったら、俺からは材料を提供しよう。厨房に入らせてもらうぞ」
蒼太は厨房に入る前に自分の身を魔法で綺麗にする。
厨房に入ると大きなテーブルがあり、蒼太はそこに次々に料理の材料を取り出していく。魚、肉、乾物などが山盛りになったところでそれを中断した。
「どうだ? これだけあれば明日の料理には困らないと思うが」
テーブルの上にあふれんばかりにたくさん並べられたそれは作ってもらった料理の量を越える分の材料であった。
「こ、こんなにどこに入って、いやそのバッグか、一体どんだけの量が……」
「そんなことより、こんなに貰えないよ。これじゃこっちが助けてもらったことになるじゃないか」
シルバン、ゾフィはそれぞれの反応をするが、今度は蒼太が首を横に振る番であった。
「気にするな、こっちこそ美味いメシを食わせてもらったお礼だ」
遠慮するなと彼らに笑顔を見せた蒼太は今回の分と、前回の分両方を合わせて考えているため、これだけの量を提供するのは当然のことであった……。
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