第136話



 蒼太とアントガルが見つめる先におかれた刀。形は刀の形をしており、波紋も浮かび上がっているが、色が位置によって異なっていた。刃先は緑、中央が黄色、根元にいくと赤色と斑な色合いをしている。


 それを眺める二人の眉間には皺がよっている。


「これは……」


「……ダメだな」


 意見の一致をもって二人は肩を落とした。



「ただいまです」


 ディーナは買い物から帰り荷物を置くと、作業音が聞こえてないため作業場へと顔を出した。


「あぁ、おかえり」


「おかえり……」


 二人の口調が重いため、ディーナは二人の視線の先にあるものを覗き見る。



「これは……刀ですか?」


 珍妙な色合いの武器を見てディーナは質問する。蒼太とアントガルはその問いに対して素直に頷けずにいた。


「なんと言ったものか」


「形状はそうなんだが、そうと認めたくない自分がいる……」


蒼太とアントガルは微妙な表情になっていた。



「確かに、何ていうか……すごく個性的ですね!」


 ディーナは何とかいい感想を言おうとしたが、搾り出した言葉は二人の表情を好転させることはできなかった。


「そうなんだよなあ、そんな言葉しか出せないほどに酷い」


 蒼太は腕を組み、首をかしげながらその武器を見る。


「おそらく、竜鉄と金属を組み合わせた時の相性が悪かったんだと思うが……これは外れだな」


 アントガルも腕を組みながら自分の考えを話していく。



「今日はもうこれ一本で終わりだな、また明日別の組合せで作ってみるか」


 外を見ると日が落ち始めていた。


 今日試した金属以外にもアントガルの選定を切り抜けたものがいくつかあるため、それらを使用すればあるいは。その思いは二人の共通項であった。


「そうだな、明日また来てくれ。竜鉄のほうはもう一度用意しなおしてみる、もしかしたら俺の抽出方法が甘かったのかもしれない。少し鉱石を置いていってくれると助かる」



「わかった。また必要だったら言ってくれ」


 蒼太は返事をしながら、鉱石を少し多めに取り出して空いたスペースに置いていく。


「おう、ありがとな。これだけあれば十分だ。また明日の……同じ時間に来てくれ。また寝てるかもしれないが、起こしてくれて構わない」


「わかった、それじゃ明日に備えて俺らも宿に戻るか」


 蒼太は再び作業に入ろうとするアントガルの邪魔をすまいと、ディーナに声をかけ、その言葉にディーナは頷く。


「ちょっと待っててください。さっき買い物に行ってきたので、なにかアントガルさんの夕食を用意しますね」


 そう言うと、ディーナはキッチンへと戻っていった。



「さて、ディーナが戻るまで少し明日のことを話しておくか」


「そうだな……明日はどれと竜鉄を組み合わせる? 相性って一言でいったが、何か原因がわかればいいんだが……」


 アントガルの質問に蒼太はしばし考え込む。


「今日組み合わせたものは、少し魔力伝導率が低かったかもしれない。竜鉄自体は高いからそこに齟齬が生まれてしまった可能性がある。何しろ俺はかなりの量の魔力を込めたからそれに耐え切れなくて金属側が変異したのかもしれないな」


 蒼太の予想にアントガルは大きく頷く。


「言われてみると、納得できるな。確かに魔力量に対してあの金属だと弱すぎたかもしれない……なまじ竜鉄の魔力の親和性が高すぎるために形はでき上がったが、単品だと暴発していたのかもな。それならこいつなら……」


 アントガルはぶつぶつと思案モードへと入ってしまい、蒼太の存在が見えなくなっていた。



「まぁ、いいか。これで何かしら思いついてくれれば一歩完成に近づくだろ」


 その様子を見た蒼太はアントガルの邪魔をしないよう静かに作業場から出て行こうとする。すると、作業場に戻ってきたディーナと鉢合わせることとなった。


「あれ? ソータさん、どこにいくんですか?」


「いや、考え込みだしたから今日は帰ろうと思ってな……それは、近くのテーブルに置いてやればいいか」


 ディーナが持ってきたのは、簡単に食べられそうな料理だった。蒼太は、その皿の上に亜空庫から取り出した串焼きを乗せて、作業場の空いているテーブルの上に乗せる。その間もアントガルはぶつぶつと考え事をしていた。



「じゃあ、帰る。また明日な」


「また、明日来ますねー」


 二人は少し声を潜めながら、耳には入らないとわかっていたが声だけかけて工房を後にした。



 外に出ると既に暗くなってきていたが、工房を見守る住人がまだ残っていた。


「あんたらがあいつのやる気を引きだしたのか?」


「ありがとう!」


 その住人たちは、蒼太とディーナの下へと集まってくる。


「お、おいおい。なんなんだ、あんた達は」


 中には握手を求めてくる者までいたため、蒼太とディーナは気圧されてしまう。



「俺たちは近所の工房の者だ。アントガルが優秀だった親父さんや、ご先祖様の重圧に負けて鍛冶から離れていくのを見て心配していたんだ。だが、今日は金槌の音が聞こえた……つまり、あいつはやる気を取り戻したってことだろ?」


「そうだ、今日あいつの工房から出てきたのはあんたたちだけだからな」


 集まった住人たちは、お互いの意見に頷きながら、どうだと蒼太たちの顔を見る。


「……まぁ、その通りだが、俺たちは特別何もしていない。ただ、俺の武器を創るために動いただけだからな」


「それでも、あいつを鍛冶の道に引き戻してくれたのは間違いない。ありがとうな」


 再び、蒼太は手をとられ困り顔になるが、アントガルが皆から気にされる存在であったことに喜ぶ気持ちも同時に存在していた。



「まぁ、まだしばらくは……少なくとも明日も作業は行う予定だ。それで結果が出れば自信に繋がるんじゃないか?」


 蒼太の言葉に、住人たちはこれで大丈夫だろうという確信めいたものを持っていた。


「よかった、これであいつも一皮剥けてくれるはずだ。親父さんの偉大さに自信をなくしていたが、親父さんは常々あいつは自分よりも才能があるって言ってたからな」


 アントガルの父と懇意にしていた一人が我が子のことかのように嬉しそうに言った。



「アントガルさん、皆さんに愛されているんですね……」


 ディーナの言葉に、住人たちは苦笑する。


「愛というか、な」


「あぁ」


 みんな気持ちは同じようで、お互いの顔を見ながら頷く。


「馬鹿な子ほど可愛い、みたいな?」


 一人がそう言うと、他の面々も大きく頷いて同意する。



 蒼太とディーナはその様子を見て、再度アントガルが愛されているとわかり、住人たちのやりとりを微笑ましく見ていた。



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