第127話

「で、だ。それはそれとして、俺の刀もどきの十六夜が壊れてしまったからには絶対に刀を作らなければならない。だから、アントガルにはしっかりといい鉱石を見つけてもらう必要があるんだ。頼むぞ」


 蒼太は笑顔でアントガルの肩にポンッと手を置いた。笑っているはずのその顔にアントガルは恐怖を覚え、その身を震わせた。


「わ、わかってる。俺だって命がけの戦いをしたんだ、ちゃんと結果を出すつもりだ!」


 アントガルは立ち上がってその恐怖を振り払うように、最後はやや語気を強くしながらそう言った。



「それだけでかい声が出せるならそろそろ出発しても大丈夫か?」


 蒼太はアントガルの動きとディーナの表情を確認しながら、スープを片付けていく。既に鍋の中は空になっていた。


「私は大丈夫です!」


 ディーナは自分の胸を叩きながら回復したことをアピールしていた。


「俺もだ!」


 女性であるディーナが泣き言を言わずにいるのを見て、アントガルも同じように胸をドンと叩いてアピールをする。



「……まぁ、大丈夫そうか。何か出たら俺が戦えばいいしな。出発するか」


 蒼太は水魔法で火を消し自分たちが入って来たのとは逆の通路に視線を送る。そちらから感じる魔物の気配は少なく、しばらくはゆっくりできるだろうと蒼太は考えていた。



 先程蒼太たちが倒した魔物はここの主のような存在だったのか、それを倒した蒼太たちに恐れ近寄ってくる魔物は少なかった。蒼太が前方へ威圧を放ちながら進んでいたのも魔物が襲ってこない原因の一つだったのかもしれない。


「それで、どういうところにあるんだ? その……竜鉄と言ったか。それは」


 蒼太の問いにアントガルは壁を見渡す。


「うーむ、ここらへんにはなさそうだな。もう少し奥に行こう」


 アントガルは職人の眼になっており、歩く速度は徐々に速くなりいつの間にか先導する形になっていた。



 蒼太が威圧をそのまま放っていてはアントガルに向かってしまうため、中断し周囲の気配を読むことに集中することにする。ディーナも精霊を呼び出しており、いつでも戦闘を行える準備をしていた。



 しばらく進んだところでふいにアントガルは足を止めた。その先は開けた場所だったが、先程の広場と違いマグマは流れておらず壁がキラキラと光を放っていた。そして、その壁には魔物が群がっている。


「あれだ……ちっ、魔物たちが邪魔だな」


 アントガルは目的のものを前に立ちはだかる魔物たちを見て思わず舌打ちをしていた。


「竜鉄ってのはもしかして魔力鉱石なのか? そうじゃなきゃ、あれだけの魔物が喰いつくのはおかしい」


「……俺は通常の鉱石と同じに扱っていたが、おそらくそうだと思う。多分この状況を見たやつがいないからそこまで疑問に思うやつが少なかったのかもしれないな」


 蒼太の疑問にアントガルは考えながら回答する。



「なんにせよ、あいつらの殲滅が先か……」


 群がる魔物を見て蒼太は竜斬剣を構える。


「二人はここにいてくれ、俺が一人でかたをつけよう」


 蒼太は一歩前に踏み出したかと思うと、一気に加速して魔物へと斬りかかっていく。対竜武器である切れ味特化の竜斬剣は、その場にいる魔物たちを真っ二つにしていく。その様はまるで熱せられたナイフで切られるバターのようであった。


「す、すげーな。あんたと将軍の戦いの時も思ったが、こいつはそれ以上だな……なんというか、桁が違うという言葉すら生ぬるい」


「そうなんです! ソータさんはすごいんですよ。私なんかと比べたら失礼です! それにこの間よりも強くなってる、すごい!」


 獣人国での戦いの際よりも蒼太の動きはよくなっている。ディーナの目にはそう映っており、それはあながち間違いではなかった。



「しかも、あれ斬って死んだやつを次々にバッグに入れてないか?」


 正確には亜空庫の中だったが、蒼太はそれを気づかせないように次々に格納していく。ランクでいえばBランク相当の魔物もいたが、蒼太は手加減を一切せずに斬りかかったため、他の魔物と同様に格納されていった。


「そうですね……ソータさんは昔から色々なものを集めていましたから、その時のくせなのかもしれませんね」


 ディーナは蒼太の性格からそう予想していた。



「結構数が多いな」


 当の蒼太はというと、足元が魔物の死体で埋まらないように格納しているだけだった。昔、大量の魔物に襲われる村を救った際に次々に重なっていく魔物の死体のせいで足場の確保が難しくなったことがあるため、それ以来倒した魔物はできるだけ速やかに亜空庫に収納するようにしていた。


 壁に張り付いていた魔物たちは、他の魔物が次々に倒されていくことに気づき戦闘体勢に入ろうとするが、それらは全て意味をなさずに斬られていた。中には斬られたことに気づかないものもいただろう。



「あいつって魔法も使えるんだろ? だったら、一気に強力な魔法でやったほうが早いんじゃないか?」


 蒼太の実力からしたら、一気に片付けることもできるだろうと考えていた。


「多分、鉱石に傷がついたり、魔法による影響が出ないように考えているんだと思います。今回の鉱石はソータさんの武器に使うわけですから、念には念を入れてるのかと」


 実際に、炎の魔法が鉱石に影響を与えてただの鉄鉱石を炎の鉱石に変えたという例もあった。


「あー、昔そんな話を聞いたことがあるな。確かに、狙ってない限りは控えるべきか……十六夜をぶん投げたりとか、短慮なのかと思ったが色々考えてるんだな」


「いや、あれは……そろそろ終わりそうですね」


 十六夜の件を訂正しようとしたディーナだったが、それより前に蒼太が魔物の殲滅を終えようとしていた。


「早いな……」



 蒼太は途中からもう一本剣を取り出し、二刀流で殲滅速度を上げていた。その剣の刀身は真っ黒で、竜斬剣にはやや劣るが蒼太が選ぶだけのことはあり、その切れ味は一流だった。


「これで、終わりっと」


 最後の一匹を収納すると、蒼太は二人の下へと戻ってくる。その服は返り血にまみれていた。

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