第128話
「ソータさん、お疲れ様でした」
ディーナは返り血まみれの蒼太を恐れることも、嫌がることもなく近寄っていく。アントガルは一瞬ひるんでしまい、ディーナに遅れることになる。蒼太は慌てて二人が完全に近寄る前に手で止め、自分の身を魔法で綺麗にしていく。
「お前達、少しは近寄るのに抵抗を示せ。いくらなんでもさっきの姿はひどかっただろ」
自分の装備と服が綺麗になったことを確認しながらそう言った。
「でも、私たちは何もできませんでしたから。全てを請け負ってくれたソータさんを忌避するなんてことできません!」
「そ、そうだぞ。あれだけのことをやってのけたのに邪険になんてできるわけがないだろ」
アントガルはディーナの言葉に乗っかる形で自分がひるんだ事実を隠そうとしていた。
「まぁ、いいか……それよりも鉱石だ。この壁一面にあるやつが全部その鉱石なんだろ?」
蒼太は両手を広げながら壁を指し示す。
「あぁ、これだけの量を見るのは初めてだが間違いない。全て竜鉄だ」
独特の光を放っている鉱石で、蒼太とディーナはそれらが多くの魔力を含んでいることを感じ取っていた。アントガルはやや呆然とした表情で壁を眺めていたので、蒼太はわき腹をつついた。
「ちょ、やめろよ」
「いや、採掘はお前がプロだろ。お前が動かないと俺達には採掘技能はないぞ?」
アントガルは蒼太に指摘されると、はっとしてピッケルを取り出した。アントガルも容量はそれほど大きくないが、マジックバッグを持っていた。そのピッケルもアントガル特製で、竜鉄を掘り出すために用意したものだった。
「それじゃあ、ここからは俺に任せてもらおう。あんたたちは掘り出した鉱石を収納してくれると助かる」
アントガルは、腕を回しながら壁に近寄ると採掘を始める。その手際は素人目に見ていても見事なもので次々に鉱石が山になっていく。
「ディーナ、とりあえず俺が大半をしまっていく。だが、一応そっちのバッグにもいれていってくれ。何かあった時に分散しておいたほうが色々と対応しやすいからな」
ディーナは蒼太の提案に頷くと、自分のバッグに少しずつ竜鉄をしまっていく。
「ほれほれ、どんどんいくぞ。ちんたらしまってたら間に合わないからな」
その言葉通り、アントガルの採掘速度は徐々に増していき竜鉄の山も大きくなっていた。
「ふぅ、こっちも気合をいれていくか」
蒼太は竜鉄を手に取りそれを鞄にいれるふりをしながら亜空庫に送っていく。また、全てを亜空庫にしまうのではなくマジックバッグにもいれることでディーナのバッグ、蒼太のバッグ、亜空庫の三箇所に分散してしまっていく。
それから作業は数時間に及んだ。普通であれば休憩はさみながら行うものだが、アントガルはアドレナリンが放出されており疲れを感じることなく採掘を続けていく。格納する側は疲れを感じているが、気を抜けば竜鉄の山ができてしまうので休憩をせずにしまっていた。
「さて、こんなもんでいいか」
アントガルが作業を中断したのは、壁のほとんどの竜鉄を採掘しつくしたところでだった。
「いいのか? ほとんどを俺たちが持っていくことになるぞ」
「うーん、まぁ構わないだろう。この鉱山の、しかもこんな奥までこられるやつなんていないだろうからな。さっきのレベルの魔物に勝てるやつなんてあんたくらいじゃないか? この国の将軍ですら、ディーナさんに手も足も出なかったんだからな」
「さんづけはしなくていいですよ。呼び捨てでどうぞ。でも、確かにあの将軍さんがこの国の最上位であるなら、ここまで来るのは難しいかもしれませんね。おそらくあの方と私の実力はそれほど大きく離れてはいないと思います。今回は私が先制したので勝てましたが……」
ディーナは今回ここまで来られた理由のほとんどが蒼太であるとわかっているため、自分と同程度ではここまで来ることはできないと判断していた。
「ただ、あいつらクラスの魔物が再びあそこに陣取るかどうかって疑問もあるが……まぁ、その時はその時だな」
蒼太はとりあえず、考えても仕方ないことを後回しにする。
「それよりも……どうやら、俺は、ここまで、らしい……」
そこまで言うとアントガルはバタンとその場に倒れてしまった。ゆっくりと倒れたため頭などは打ってないようだったが、電池がきれたように急に倒れたことに蒼太とディーナは驚いた。
「アントガル、大丈夫か!!」
「アントガルさん!!」
二人が慌てて近寄ると、アントガルは満足そうな表情で寝息をたてていた。
「……寝てるだけか、人騒がせな」
「あれだけの量を一人でやれば、こうもなりますね……お疲れ様です」
「だな、まぁよくやったよ」
二人は呆れながらも、結果を出したことだけは素直に賞賛していた。
「このままにもしておけないか……よいしょっと」
蒼太はアントガルの側でかがむと、背丈はやや小さいががっしりとした体型のアントガルを軽々と持ち上げ肩に担ぎ上げた。
「ソータさんがすごいのは知ってますけど、アントガルさんをそうやって担ぐのは何か違和感ありますね……」
「そうか?」
傍から見れば巨体を抱えるその様は明らかに重量オーバーだったが、蒼太は担いだまま広場へと移動を始める。道中に敵は出てこず、スムーズに戻ることができた。
「何もいないな」
蒼太は周囲を気配察知で探るが、出発前と同様何者の気配も感じなかった。
「ここで休憩してもいいんだが、いつ魔物が出てくるかを考えると落ち着かないか……ディーナ魔物が出てきたら任せてもいいか?」
「任せて下さい! さっきの竜や黒騎士クラスじゃなければ、私達の敵じゃありません!」
ディーナは、既に準備万端で精霊の召喚も終えていた。
「それじゃ、俺はこいつを担いだままいくから任せたぞ」
ディーナは大きく頷くと、蒼太の信頼に答えられるようあたりを注意深く確認しながら入り口への道を先導していった。
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