第126話



「お、ディーナも目が覚めたか。とりあえず、これでも飲んで一息つけ」


 体を起こして座りなおしたディーナはスープを受け取ると素直に頷き、口をつける。


「……美味しい。シルバンさんのスープですね」


 その味で誰が作ったものかわかったディーナは笑顔になりながらゆっくりとスープを飲んでいく。



「アントガルはそのへんで止めておけ。起きたばかりで食いすぎだ」


 まだ足りないといわんばかりにアントガルは物欲しそうな視線を蒼太に送るが、その手にある器とスプーンは回収されてしまう。


「あー……」


 手を伸ばしてすがろうとするが、既に蒼太によって器は魔法で綺麗にされてバッグの中へとしまわれていた。


「また後で食わせてやるから今は我慢しておけ。残りは俺とディーナで食べるんだからな」


 蒼太は自分用の器にもスープをよそうと、それを食べ始める。



 蒼太とディーナが食べ終えると、蒼太はアントガルが気絶した経緯を話し始める。


「まず、ディーナが魔法で隙を作り竜を怯ませた。そこへアントガルが走り寄って攻撃を繰り出そうとする。それに竜が気づくがそれもディーナの魔法によって事なきを得た。そして、お前はあの竜に対して渾身の一撃をくらわせた。そこまでは覚えているか?」


 蒼太は順を追ってアントガルへと説明していく。当の本人はその話を聞いていくうちに徐々に記憶が整理されていく。


「あぁ……あー、思い出してきた。確かに俺は最高の一撃をあの竜の足めがけてぶちかましてやった……その先は……思いだせんな」


「あれだけ強力な一撃をくらえば、思い出せないのも当然かもしれないですね」


 ディーナはそう言いながら、アントガルが竜の尻尾に吹き飛ばされた時のことを思い出していた。



「その一撃をくらった竜はお前を吹き飛ばそうとして尻尾を振り回した。そして、それが直撃したんだ」


 それを聞いてアントガルの顔は青ざめていく。


「壁のほうに吹き飛ばされたがマグマの中には落ちずに済んだ、それをディーナが回復してくれたんだ。ありがたく思えよ。お前の回復のために魔力を気にすることなく使ったおかげでディーナもぶっ倒れる寸前だったんだからな」


 アントガルは勢いよくディーナへと振り向く、その手をとった。


「……あんたのおかげで助かったんだな? ありがとうな!!」



「え、えっと、それは私だけじゃなくて、ソータさんも」


 ぶんぶんと音が聞こえそうなくらいに握手をした手をふられ、ディーナは蒼太を見ながら助けを求める。


「そうか、ソータもありがとうな!」


 今度は蒼太の手をとって、上下に振ろうとしたが蒼太の力が勝っていたためピクリとも動かず、アントガルは驚愕の表情で額には汗を浮かべていた。


「あんまり騒ぐな。まだここは鉱山の中だ。目的も達成していないし、なによりお前達二人は病み上がりだ」


 蒼太は握られた手を離すと、周囲を見渡しいまだ危険の只中にいることを伝えた。



「うっ、悪かった。記憶が飛ぶほどの攻撃なんて初めて受けたもんでな、なんというか混乱してるのかもしれない」


 アントガルは注意されたことで自分自身がいつものテンションでないことを感じ取り、首を振り冷静になろうとしていた。


「まぁ、魔物の気配は感じないから大丈夫だろうがな。それよりも、鉱石はここらへんで採れるのか?」


「うーん、あるかもしれないが……確実に手に入れるならもう少し奥に行きたいところだな」


 蒼太の質問に辺りの壁を見渡しながら、アントガルは更なる進行を提案する。



「プロの言うことをきいておこう。もう少し休憩したらもっと奥に探しに行くか」


「そうですね、私もだいぶ回復しましたし……あれからどれくらい時間経ちました?」


 ディーナは手をグーパーして、自分の調子を確認した。


「時間にして数時間ってところか。アントガルが少し先に起きて、ディーナが起きるまでにはそんなに時間は経ってない」


 アントガルは何かを思いついたのか、ぽんっと手を打った。



「そういえば結局あの竜はどうなったんだ? 尻尾で吹き飛ばされたってことは俺の一撃は致命傷にはならなかったんだろ? ってことはあんたたちのどっちかが倒したのか?」


 戦いの結末、それを聞いていなかったことを思い出しアントガルは二人に向けて質問をした。


「あれはそうだな……たしか、あんたが吹き飛ばされたあと、ディーナが回復しようとしてあんたに駆け寄ろうとしたんだ。そこに竜がブレスを吐こうとしたんで、俺が魔力を込めた十六夜をやつの口めがけて投擲してぼかーんってわけだな」


「戦闘中に俺の回復に移動したのか! しかも、あの竜ブレスまで吐くのか! ぼかーんって結局あんたが止めかよ! ってかあの刀はどうなったんだ?」


 アントガルは驚き、次々に驚いたポイントを口に出していく。



「……元々黒騎士との戦いでヒビが入っていたからな。そこに魔力こめてブレスと反応しての爆発だから、木っ端微塵ってとこだ」


 今度はアントガルだけでなく、ディーナも驚いていた。


「え? 十六夜壊れちゃったんですか? そんな……ラウゴさんとソータさんがやっとの思いで作ったものだったのに……」


 思い出の品が壊れてなくなってしまったことに、ディーナは今にも泣きそうな表情になってしまった。


「いいんだ、二人が無事だったからな。ラウゴだって気にしてないだろ、それどころかディーナを救うために使ったんだ。褒めることはあっても怒ることはない。いや、その前の戦いでヒビをいれた俺は怒られるかもしれないな」


 蒼太は最後を冗談で締めくくったが、ディーナの表情は晴れなかった。



「ディーナ、気にするな。それに俺とあいつが一緒に作った武器はあれ一つじゃない、それこそ何十本、下手すりゃ何百本って数の武器があるはずだ」


 実際蒼太とラウゴが一緒に作った武器はそれだけの数あり、そのほとんどが亜空庫に格納されていた。だがディーナはかつての蒼太の仲間たちと別れてから、数ヶ月程度しか経っていなかったため、感傷にひたる気持ちが強かった。


 しかし、地球で数年の時を過ごした蒼太はある程度の気持ちの整理はつけており、仮に亜空庫にある武器全てを壊したとしても、現在の仲間であるディーナやアントガルの命を救うためなら喜んで投げ出すだけの気持ちは持っていた。



「武器はあくまで道具。大事なのはそれを使う者だ」


 アントガルがつぶやいたその言葉に、蒼太とディーナは目を丸くした。


「それは確か……」


 ディーナがそこまで口にしたところでアントガルは頷く。


「俺のご先祖様の言葉だ。どんなにすごい武器でも、使い手がダメなら使いこなせない。元々はそういう意味のだ。だがな、俺はこう思う。武器はあくまで戦いを助けるための道具だ、どんな使い方であろうとも使う者が大切な者を守るために使ったならそれは正解ってことなんじゃないかってな」


 ラウゴがよく口にしていた言葉の別回答をその子孫から受け取ったことで、気づけばディーナの気持ちもすっきりとしていた。

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