第116話



「そんなに手に入りづらいものなのか?」


 蒼太の質問に、アントガルは唸りながらあいまいに頷いた。


「うーむ、難易度も高いんだが、国の許可をとる必要があってだな……俺は最近武器を創る仕事を怠っていたからもしかしたら許可が降りない可能性もあるんだ」


「許可をとる流れがよくわからないが、俺たちが許可をもらいにいくのはダメなのか?」


 アントガルは腕を組んで考え込む。



「……おそらくダメだと思う。竜鉄がとれる山っていうのが、国有のものでな。ドワーフ族以外には基本的に許可はおりない。さらに言うとドワーフ族であっても、鍛冶師として国に申請していないと許可をとることはできないんだ」


 アントガルの表情は更に厳しくなっていく。


「ってことは、誰かに譲ってもらうっていうのも……」


 蒼太がそこまで言った段階で、アントガルは首を横に振った。


「ダメか。だったら、方法は一つだ。アントガル、あんたが許可をもらいに行くしかない。それがダメだったら、またその時に考えよう」


「……わかった、いってみよう。だが、許可がおりたとして採掘の難易度も高い。昔は誰でも採ることができたんだ、発見した時は多くのドワーフが採掘に押しかけていた」


 それを懐かしむように言ったが、そこから表情が険しくなった。



「新しい金属が採れたことで、みんな沸き立ってペースというものを考えていなかったのさ。そんな時だ、異変が突如として起こった。竜鉄が持つ魔力に惹かれたのか、竜鉄が枯渇する危険性を感じ取ったのか、魔物がその鉱山に大量にわいてたんだ。今でもどこからあれだけの数の魔物が現れたのかわかってない。だが状況から考えておそらく竜鉄が関連しているんだろう、というのが大方の予想だ」


「そうか……その点に関しては、俺がいれば問題ないだろう。俺が現地まで護衛をしていき、採掘はアントガル、あんたがやってくれ」


 蒼太は当たり前のことのように問題がないと口にしたが、アントガルはその言葉に驚いていた。



「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺の話を聞いていたか? ゴブリンが少しいます程度の話じゃないんだぞ? 魔物のランクだって高いし、それが大量にいるんだ。他の鍛冶師だって、運がよければ手前の採掘ポイントで少量手に入る程度だ」


 アントガルは慌てていたが、蒼太は大きく頷いた。


「だから、安心しろ。魔物の相手は俺がする。手前で少量なんてけちなことを言わないで、奥で大量に持ち帰ろう。マジックバッグがあるから、持ち運びも簡単にできるぞ」


 アントガルは自信満々の蒼太を口を半開きのままで見ていた。



「ソータさん、アントガルさんはソータさんの力を知らないから不安になっているんだと思いますよ」


 いつからいたのかディーナが話しにずれが出ている二人の補足を行った。


「そう、か。しかし、俺の力を見せるといってもどうしたもんか……」


「だ、だったら、裏に武器の試し斬りができる広場が作ってある。そこで見せてくれ」


 そう言うと、アントガルは返事を待たずに立ち上がり広場へと案内していく。蒼太とディーナも特に何も言わずその後をついていくことにした。そこには木で作られた的がいくつか並べられていた。



「それで、どうするんだ? まさかその木に斬りかかれっていうんじゃないだろう?」


「いやいや、別のものを用意するよ。昔に創ってみたんだが、ほとんどの武器が負けてしまうから試し斬りには使えなかったんだが、これに傷を与えることができるならその力を信じようじゃねーか」


 そう言うと、アントガルは広場の端に設置された小屋から一つの人形のようなものを運んできた。台車に乗せて運んでいるが、相当な重さらしく両腕の筋肉がパンパンに膨れていた。



「はぁはぁ、こ、これだ。これに傷をつけてみな」


 アントガルが持ってきたのは、見る角度によって赤く、青く、黄色く、緑色に見える人形だった。


「……不気味ですね」


「あぁ、不気味だな」


「う、うるさいぞ! 見た目は問題じゃないんだ、これには竜鉄が使われているんだ、それ以外の鉱石も色々いれている。そのため超硬度になっちまった。だいぶ前に創ったんだが、今まで誰一人として傷をつけられなかった」


 アントガルはディーナと蒼太の感想に対し、動揺しながらもその人形の説明をしていった。



「なるほどな、武器はどれを使えばいいんだ?」


「何を使っても構わんが、武器が壊れても俺は知らんからな」


 蒼太は少し考えると、マジックバッグから取り出す振りをしながら鉄の剣を取り出した。


「なら、これでいいか」


 鉄の剣を右手に持つと、蒼太は何度か素振りをする。


「お、おいおい。それって、普通の剣だろ? そんなのでいいのか?」


 一見して何も特別な様子のない剣を取り出したことにアントガルは驚いていた。



「あぁ、ただの鉄の剣だ。というか、あんたが壊れても知らんと言ったんだろ? だったら、価値の低い武器を使うのは当然だろ」


「確かに言ったが、そんな武器じゃ……」


 蒼太はアントガルが言い終える前に、人形の前へと進み武器を構えた。


「お、おい」


 アントガルが声をかけるが、蒼太は集中しているためその声は届かなかった。



「せいっ!」


 蒼太は声を発し、気合を入れ剣を振り下ろした。鉄の剣と人形が衝突する瞬間、大きな金属音が鳴り響いた。


「やはり、こんなもんか」


 蒼太が手にしている鉄の剣は途中から折れてしまい、折れた先はあらぬ方向へ飛び地面へと刺さっていた。



「ほ、ほらな。そんな剣じゃ傷なんてつけられるわけがないだろ」


 アントガルは武器が壊れたことに内心ドキドキしながらも、自分の人形の完成度に胸を張っていた。


「いや、傷ならついたが。ほれ、ここを見てみろ」


 アントガルとディーナは近づいて人形の肩のあたりを確認した。そこには確かに先程の攻撃による傷がついていた。


「あ、ほんとですね。あんな一般的な剣で傷つけるなんてやっぱりソータさんすごいですね!」


「うっ、だ、だがこれっぽっちの傷じゃ力なんてわからんだろ」


 傷を確認すると、ディーナは賞賛を、アントガルは負け惜しみを口にした。



「わかった、だったらもっとわかりやすい結果を見せよう」

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