第113話



「きゃっ!」


 ドワーフの男の怒鳴り声にディーナは驚いて声をあげ、蒼太の後ろに隠れた。


「お、おう。女もいたのか、びっくりさせて悪かったな……」


 ディーナに気づいたドワーフの男は、バツの悪い顔で頭をかきながら謝罪をした。



「でかい声を出したのはこっちも謝る。返事がなかったもんでな」


 蒼太は悪びれもせずにそう言った。


「すまん、昨日は夜遅くまで作業していたからつい寝てしまってた。まぁ、誰しも寝てるところを起こされたら機嫌も悪くなるというもんだろ」


 ドワーフの男の今度の言葉にも悪びれる様子は見られなかった。


「それで……一体何のようだ? といってもこんなとこまで来るやつの目的は一つだろうが」


 ドワーフの男は腕を組みながら蒼太に尋ねた。その表情は呆れを含んでいた。



「まぁ、工房を訪ねる理由は一つだな。俺の武器を創ってもらいたい」


 ドワーフの男は、想像通りの答えにため息を吐いた。


「またか……どこかで俺の噂を聞いてきたんだろうが、俺は噂の通り昔の勇者の末裔だ。だが、俺にはそんなことは関係ないし、俺はもう武器なんて作りたくねーんだよ。せいぜい作っても鍋と包丁くらいだ」


「そう言わずに協力してくれないか? 俺専用の武器を作りたいんだが、俺一人じゃ創れそうにない。だが、あいつの子孫だっていうあんたとなら創れるかもしれない」


 蒼太の言葉にドワーフの男は眉をひそめた。



「あいつ? 創る? 一体どういうことだ? 俺に武器の依頼に来たんじゃないのか? それに、俺のご先祖様を知っているようなその口ぶりは……」


 蒼太の言葉に、ひっかかりを覚えたドワーフの男は質問を重ねる。


「ご先祖様の話は置いておくとして、まずは俺の目的から話していこう。まずは、これを見てくれるか?」


 そう言って、腰に携えた十六夜をドワーフの男と蒼太の間にあるカウンターの上に乗せた。ドワーフの男は、それを手にとり鞘から抜いて刀身を見た。


「こいつは……相当なものだな、魔剣なのか? 不思議な力を感じる。これがあるなら、新しい武器なんていらないんじゃないのか?」


 ドワーフの男は十六夜を鞘に納めると、蒼太へと押し返した。



「そいつは、とあるドワーフと俺が二人がかりで創ったものなんだが、俺が本当に創りたかったものとは違うんだ。俺が創りたいのは、日本刀と呼ばれる俺の故郷で創られていたものだ。もちろん故郷とは違う素材、手順で創っていくから全く同じものというのは無理だが、それに近いものを目指したい。その刀身には波の模様が浮かび、反り返る刀身は美しく。断つのではなく、斬ることに特化した武器、刀。武器という話だけであれば、その十六夜も十分ではある。だが、それは俺の目指すものではない」


 蒼太の刀にかける思いに、ドワーフの男は心の奥から沸き立つものがあることを感じていた。


「だ、だったらそのドワーフと一緒にまた創ればいいだけだろ。これだけの武器を創れる腕があるなら、それ以上のものを創ることだってできるだろう」


 そのドワーフというのはもしかして……その思いがあったがそれを口にすることはなくドワーフの男は思ったこととは別の言葉を蒼太に返した。



「それは無理だ、その男はもうこの世にはいない。だから、あんたの力を貸してもらいたい。俺には刀の知識がある。だが、それを創るだけの技術を持ち合わせていない、だがあんたの力が加わればもしかしたら、創り上げることができるかもしれないんだ」


 蒼太は、このドワーフの男にあってから感じるものがあった。顔立ちからは仲間だったドワーフの勇者の面影があり、職人特有の気難しさと、職人特有の雰囲気を感じ取っていた。この男なら、千年前に果たせなかったことを実現できるのではないか? そう考えていた。



「へ、へー。そいつは残念だったな、そいつは何ていう名前なんだ?」


 自分の予想する答えが出てくるのではないか? そんな動揺を何とか抑えながら蒼太へと質問をした。


「薄々気づいているんだろ?」


 蒼太の言葉に動揺は強くなり、ドワーフの男は何も口にできなかった。


「そのドワーフの名前はラウゴだ」


 蒼太はドワーフの男の返答を待たずに名前を口にした。ドワーフの男は、身体に電撃が走ったような気がした。その名前は彼のご先祖様の名前で、当代の工房主がその名を引き継ぐことになっている。といっても、そのままの名を名乗るではなくミドルネームとして名乗っていくのが慣例になっていた。



「そ、そうなのか。俺の親父に手伝ってもらったのか」


 ドワーフの男の祖父は、彼が生まれる前に亡くなっており自分自身は目の前の男に会った覚えがない。消去法から、自分の父親が手伝ったのだろうと、思っていないことを結論として口にだした。


「違う、俺はあんたの親父にはあったことはない」


「じゃ、じゃあ覚えてないだけで、俺が……」


「それも違う」


 蒼太はやや被せ気味に首を横に振った。



「あんたに正体を隠すのは失礼だから言うが、俺はあんたの先祖のドワーフ族の勇者とともに魔王と戦った召喚された勇者だ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。その勇者は死んだんじゃなかったのか? いや、元の世界に戻されたんだったか? どっちにしてもあれから千年もの時間が経っているんだ、あんたがその勇者なわけがないだろ。もしかして、俺と同じで勇者の子孫とかってことなのか?」


 ドワーフの男は蒼太に質問をしようとしたが、混乱し質問と自己回答が混ざっていた。



「落ち着いてくれ、あんたが仕事を受けてくれるならそのへんは詳しく話す。あまり店先で話す内容じゃないから、どこか落ち着ける場所にいきたいんだが……」


 蒼太は外に気配がないことを確認しながら、男を手で落ち着くよう制した。


「う、受けるとは言ってない。だが、話くらいは聞いてやろうじゃないか。今日は店を閉めるから、奥の部屋で話をしよう。内容次第じゃ受けてやらないこともないかもしれない……」


 ドワーフの男は蒼太の話への興味が強くなり。部屋の奥へと二人を通した。取り付く島もないような最初の態度がかなり緩和し、蒼太の話に興味を持たせた時点で、蒼太は成功したと考えており、その表情には笑みが浮かんでいた。



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