第112話
蒼太とディーナは最後の一軒にと、古ぼけた店に入り武器を眺めていく。壁にかけられたもの、陳列棚に並んでいるもの、それぞれ品揃えとしては悪くないものだった。むしろ下手に大きな店よりもランクの高い武器が並んでいるようだった。
「どうでしょうか?」
ディーナの問いに蒼太は首を横に振った。確かに他の店に比べると良いものが並んでいたが、それでも大きな差はみられず蒼太の求めている刀が創れるとは思えなかった。棚から視線を外すと、樽が置かれているのが目に入る。その中には数本の武器が刺されており、樽に張られている値札を見ると一本あたり銀貨1枚と書いてる。
「確かこういう格安品の中に、お宝が眠っているのを何かで読んだ気が……」
蒼太が一本一本引き抜き確認をしていると、どこから現れたのか蒼太のすぐ後ろにいた店員が声をかけてきた。
「そんなとこにお宝なんてないぞ。そもそもそんなものがあったら、樽に刺しておかんし格安で売るわけもないだろうが」
髭面のドワーフの店員は、蒼太のことを呆れた顔で見ながらそう言った。
「まぁ、普通に考えたらそうだな。で、そんなところじゃなければ別のところにお宝はあるってことか?」
蒼太はにやりと笑いながら、店員に尋ねた。店員はそう返してくるとは思っていなかったようで、面をくらった顔をしたがすぐに笑いを返した。
「なかなか面白いことを言うが、残念ながらこの店にはない。というか、ここらの店で扱っているような武器で玄人好みだったり、お宝と呼べるようなものはないな。そういうものはほとんどが一点もので、直接職人に作成を依頼するのが普通だ」
店員は腕を組みながら蒼太へとドワーフの国での一般的な武器作成のやり方を説明していく。
「そうなんだよなぁ。職人のツテがあればよかったんだが……」
蒼太はそう言ってチラリと、店員を見た。露骨なアピールだったが、店員は嫌な顔をせずむしろ笑っていた。
「俺を満足させられるような武器を見せてくれたら、考えてやらないこともない」
店員は試すような笑みを浮かべ蒼太を見ていた。
「……これを見てもらえるか?」
蒼太は腰の十六夜を店員へと渡した。
「これは……一体どこで手に入れたんだ?」
鞘から抜いた刀身を見た店員は驚き、目を見開いて蒼太に質問をした。
「これは、昔俺の仲間だったドワーフと一緒に作ったものだ。これは色々詰め込んだらたまたまできたもので、俺からしたら未完成品でな。完成品の刀を作りたいんだよ」
「刀、か。それなら一人だけいるかもしれない」
蒼太はまず刀という言葉を知っていることに驚いた。更にそれを創れるものがいるということに、と二度驚いた。
「そいつを紹介してもらうことはできないか?」
蒼太は身を乗り出して、店員へと詰め寄った。
「あー、知り合いだったら紹介してやりたいところなんだが、少し特殊なやつでな。何せ、千年前の魔王との戦いの際の勇者の子孫だ」
「そいつにはどうやれば会える?」
蒼太は店員に食い気味で質問をする。
「うーむ、気難しいやつでな。気に入ったやつとしか話してもらえんらしい、俺も見かけたことくらいはあるが話したことはないな。どうしても会いたければ、工房の場所は教えるが……会えるかはわからんぞ」
蒼太の質問にしばし考え込んだ店員は、渋い顔をしながら店の場所を紙に書いていく。
「ほら、ここに行ってみるといい。まぁ忙しいやつだから工房にいるかもわからんぞ」
「それでも助かったよ。ありがとう、今度来た時はこの店でも買い物させてもらうよ」
蒼太は地図を受け取り確認すると、店員へ頭を下げ店をあとにした。
「さて、このまま教えてもらった工房に向かいたいところだが……」
「そうですねえ、そろそろ暗くなりそうだから宿に戻って、明日行きましょうか」
「そうしておくか、あまり遅くても失礼だよな」
元々日も落ちてきていので、この店を最後にするつもりであった。外は夜に指しかかろうとしていたので、本日の訪問は止め、宿に向かうことにした。
宿の食事はシルバン・ゴルドン兄弟の作った料理と比べるともちろん見劣りするものだった。しかし、ドワーフの国ならではの家庭料理をアレンジしたものが出され、旅ならではの良さを味わうことができ二人は満足していた。この国の食性なのか、各皿の量も多めに盛られており、量の面でも満足を得られていた。
宿の設備は一般的な宿屋と同等かやや上のランクであり、風呂はなかったがお湯などは桶に一杯は無料となっていた。またベッドも柔らかく、そのおかげもあってかその晩はゆっくりと休むことができた。
翌朝、朝食を宿で摂った後、昨日教えてもらった工房へと二人は向かっていた。宿屋の店員に聞いた情報では、昨日蒼太とディーナが散策していたあたりは商業区というくくりになっており、教えてもらった工房は工房区にあった。位置としては、商業区とは反対に位置していた。
工房区には色々な職人が工房を構えており、入り組んだ造りをしていたため、この街に慣れていない旅人などは目的の職人を探すことができずに何日も逗留することも珍しくなかった。
蒼太は昨日書いてもらった地図を頼りに道を進んでいく。短時間で描いたにしては、しっかりとした地図になっており二人を目的の工房へと導いていた。
「ここ、だよな?」
そこは工房区でも奥のほうに位置しており、勇者の子孫という話からは想像できないほど小さな工房だった。蒼太は地図の場所と工房名を確認し、再度目の前の建物を見た。
「そう、みたいですね」
ディーナは横から蒼太の地図を覗き込み確認したが、どこか疑わしさを含んだ言葉だった。
「とりあえず、入ってみるとするか。すいませーん」
工房の扉が開いていたので、中に入り声をかけてみた。しかし、反応はなく物音も聞こえなかった。
「いないのか? すいませーん。おーい、誰かいないのかー」
蒼太は少し声のトーンをあげて声をかける。
「すいませーん、いらっしゃいますかー?」
ディーナも蒼太に続いて声をかけてみる。
「……うるせー! 人が寝てるっていうのに騒ぐんじゃねー!!」
カウンターの向こうから起き上がったドワーフは怒りの形相で蒼太とディーナにむかって怒鳴り声をあげた。
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