第四章

第111話

 腕によりをかけた料理は、二人がしばらく起き上がれなくなるくらいの量が提供された。そのため、蒼太とディーナは予定より出発が遅れることとなった。


「やっと旅に出られるな……」


「私、まだお腹が苦しいです。うぅ……」


 蒼太は腹をさすりながら、ディーナは馬車内で未だ横になっての旅立ちとなった。


「エド、悪いがゆっくり進んでもらっていいか? ちょっと食いすぎた」


「エドくん、ごめんなさい」


 エドは頷くとゆっくりとした速度で出発した。



 ドワーフ族の国は多くの著名な鍛冶師を輩出している。そのため、各国から武器や防具を求めて冒険者や各国の騎士団が訪れる。街中にある武器防具屋でもそれなりの品質のものが置いてある。個人で受注生産しているような鍛冶師の作るものはそれらとは品質的に比べ物にならないものが多く、値段も順番待ちの期間もそれ相応のものとなっている。ナルアスの持っていた武器も個人の受注生産であり、価格も相応のものであったと予想できた。



 また、周囲は多くの鉱山に囲まれており金属の産出量も随一。種族性により酒好きが多く、多種多様の酒が生産されていた。北方に位置しているため元々身体を温めるために酒を飲む習慣があり、若い子供ですら薄めたアルコールを飲むのが普通であった。


「ドワーフの国は寒いからな、色々買い込んでおいてよかったよ」


 蒼太とディーナは大会中に色々な店を回っており、夏服から冬服、それに防寒着なども購入していた。


「日頃から備えておくものですね、服も食料も必要なものは全部揃ってるから買い物に行く必要もないし」


 少し落ち着いたのか、ディーナは身体を起こして蒼太の言葉に反応した。



 その後、数週間旅は何事も無く無事に進んだ。ドワーフ国が近づいてきた証拠に、気温が徐々に下がっているのを感じることができ、二人は着替え気温の低下に備えていた。また、エドの分の防寒着も用意しておりその身体に装着されている。


「だいぶ寒くなってきましたね。息が白いです、はー」


 ディーナは御者台で蒼太の隣に座りながら、自分の手に息を吹きかけた。


「地域差が大きいよな。エルフの国は基本的に温暖な気候だから、この寒さは堪えるだろ」


「うーん、寒いけど大丈夫です。何かこういうのも旅の醍醐味なのかなあって思ったら、楽しいです」


 肌寒さを感じていたが、ディーナの表情は笑顔だった。蒼太は亜空庫から毛布を取り出して、ディーナの膝へとかけた。



「そろそろ山が見えてくるかもな、ドワーフの国はすごいぞ。でかい山に囲まれていて、その山と街が一体化してる感じだ」


 そう話していると、遠くにドワーフ国の入り口が見えてきた。エルフ国ほどの厳重さはないが、入国の確認だけは厳密に行われていた。



 蒼太たちがたどり着いた頃には、他の入国者のチェックは全て終わっており蒼太たちもスムーズに入国することができた。


「それでは、これで入国審査は終わりです。ようこそ、ドワーフの国ガドバルザへ!」


 あちらこちらで溶鉱炉などの煙が上がっており、工業区といった街並みだった。


「うわー、すごいですね。エルフの国とも、獣人の国とも全然違った雰囲気です」


 ディーナは見るもの全てが新鮮で興味津々といった様子でキョロキョロと当たりを見回していた。宿へと向かう道中には様々な店が並んでおり、品揃えもディーナが今までに行った二国と違っており、見ているだけでディーナの好奇心が刺激されていった。



「入国の時に聞いた宿はここか……。外観はなかなか立派な宿だな」


 蒼太は、馬車を降りると宿の中へと入っていく。ディーナは馬車を空けないように一人、留守番をしていた。


「いらっしゃいませ」


 迎えてくれたのは、若い女性のドワーフだった。ドワーフの特徴は色々な物語に出てくるそのままで、男性は若いうちから髭面になり、女性は髭の代わりに髪の毛が多くアフロのような髪型が多い。この女性のドワーフも髪は多かったが後ろで束ねていた為大きく膨らんではいなかった。


「二人なんだが……それぞれシングルルームで頼む。空いてるか?」


「少々お待ちくださいね……はい、空いてます。期間はどれくらいになさいますか?」


 彼女は受付の宿帳を確認しながら答えた。



「そうだな、とりあえず二週間で頼む。あと馬車もあるんだが、預かってもらえるか?」


「ありがとうございます! 馬車も大丈夫です、裏に厩舎もあるのでそちらに運んでもらえますか?」


 彼女は扉を開け、外へと向かう。


「この馬車ですね、それではこちらへお願いします。あ、こんにちは」


「こんにちは、よろしくお願いします」


 ディーナが馬車から降りていたので、お互いに挨拶を交わした。



 彼女の案内で裏手へ馬車とエドを移動させ、宿に戻って精算をする。二階の隣り合った部屋が割り当てられたため、一度部屋を確認しそれから街へと繰り出すことにした。二人は色々な店を眺めていく。その多くは武器屋・防具屋などの装備品の店だったが、二人の望むような品物を売っている店はなかった。店舗を構えている店では、Bランク程度までの冒険者が使う装備が多かった。


「やっぱり個人の鍛冶師を探さないとダメだな……」


 蒼太は過去に強力な武器を持っていたが、自分の望むものを作れずにいたためそれを作成できるだけの鍛冶師を探していた。



「ソータさんは、どんなものを作りたいんですか?」


 蒼太がこの国に来た理由に挙げていた作ることの出来なかった武器、それがなんなのかはディーナに伝えていなかったため、その疑問が口をついてでた。


「刀だ。千年前に俺たちが創れたのは、刀っぽいものだけだからな」


 腰の十六夜を指で指しながら自分の首を左手で軽く叩いた。



 蒼太とディーナはそれ以降もいくつかの店をみてまわったがこれといった店は見つからなかった。


「さすがに適当に見て回っただけじゃ、見つからないもんだな」


 これぞ、という武器が置いてあればそこから鍛冶師にたどりつかないかと期待していたが、一般的に流通しているレベルもしくはそれを少し上回る程度のものしか見当たらなかった。



「あそこの店を最後に宿に戻るか」


 少し古ぼけた店で来客も少なかったが、独特の雰囲気があったため最後にその店へと寄ることにした。

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