第107話



 本来の目的であったグレヴィン著の本を手に入れることの出来た蒼太とディーナは、宿に戻るとそれらの本の内容の確認を行っていく。


「長老も結構本を出したもんだな」


「ですねぇ」


 手に入れた本の中から、長老の書いた本のみをテーブルの上に積み重ねるが、それだけでも十冊近くはあった。



 その内の一つは千年前の戦いについて、現在ほとんどの国で伝えられている物語とは違い、真実に近い内容が書かれていた。トゥーラで読んだものとほとんど同じ内容だったが、更に細かい描写がなされていた。検閲がかけられ、ぼかした内容になったものの、一部が他国に流れていたようでトゥーラの図書館にあったものはその内の一冊だった。



「千年前の俺達の戦いが細かく書いてあるし、俺達しかわからないことがだいぶ書いてある。やっぱり生き残ってた一人は長老なんだろうな」


 蒼太は本を手に取り、どこか懐かしそうな表情でぱらぱらと捲っていく。


「もしかしたら私にも会いに来てくれたかもしれないですね……私封印されちゃってたけど」


 ディーナは落ち込み、肩を落としていた。


「エルフの国は、既に他種族への差別論が高まりつつあっただろうから国に入れたとしても会うのは難しかったかもしれないな。序列は上のほうじゃないにしろ、ディーナはお姫様だからな」


「そう、ですかね」


 蒼太の言葉に少し顔をあげるが、それでも落ち込みは消えていなかった。



 蒼太は何も言わずにディーナの頭を少し強めに撫でた。


「わっ」


「そんな顔をするな、封印されたおかげで俺にも会えたんだ」


「……はい!」


 ディーナは下を向いたままなのは変わらなかったが、その表情からは悲しみは薄れていた。



「さて、本のほうに戻るが……これ、ほとんどが物語とかそういうのなんだよな。書庫でも少し読んだが俺たちの知りたい謎とかそういうのの解決になるかは……」


 蒼太は他の本を手に取るが、その表情はすっきりとしない面持ちだった。


「あ、でも……っと、この本は違うかも。ちょっと読んでみてもらえますか?」


 ディーナは自分のマジックバッグから、一際古そうな一冊を取り出した。それは黒い表紙をしており、ともすれば本というよりは厚手のノートのようでもあった。


「ん? そんなのもあったのか、これは……物語風に書かれているが、日記みたいなものか?」


「ですです、片付けの最後のほうで見つけたんですけど、他の本とはちょっと毛色が違うかなあって思うんです。ソータさんも読んでみてください」



 ディーナに言われるままに後ろのページに行くと、そこには長老のこれからの予定が書かれていた。


「そうか、これがあれば……ディーナ、よくこんなの見つけたな。大手柄だ」


 蒼太は笑みを浮かべ、再度ディーナの頭を撫でた。


 そして再度ノートに視線を戻し、後ろのページから順番に読んでいく。


「これは……」


 数ページ読み進めたところで蒼太の手が止まった。



「? ソータさん、どうかしました?」


「ディーナ、もう一度城へ行くぞ!」


「えっ? は、はい!」


 城から戻ってさほど経っていないため、ディーナは面を食らい驚いたが既に立ち上がった蒼太に慌ててついて行った。




 二人が城に行くと、蒼太たちの再訪問は予期されていたらしくノーチェックで謁見の間へと案内された。そこには既に王や重鎮達が揃っていた。


「よく来たなと言うべきか、やはり来たかと言うべきか」


「やはり、が正しいかと」


 王の言葉にルードレッドが答えた。



「全部わかってたってことか」


 蒼太は少し拗ねたような表情で尋ねる。


「まぁ、話に聞いていた通りだったからそうだとは思ってたが、万が一の可能性も考えてな」


「千年目にしてやっと来たので、確実にしておきたかったのです」


 王の言葉にルードレッドが補足をいれた。



 ディーナは何のことかと蒼太と王とルードレッドの顔を順番に見ていた。


「ディーナ、お前が見つけたノートだがアレは長老が書いた手記だった。あの戦いのあと長老は小人族の国、竜人族の国、そしてこの国へとやってきた、もしかしたら他の国にも行ったのかもしれないがな」


 ディーナは真剣な表情で蒼太の言葉に頷いていた。


「それで、この国ではあの物語を残した。そして、ここの王家や国営の機関にはいつか俺が来るかもしれないと伝え、それを代々引き継ぐように頼んだんだそうだ」


「えっ? じゃぁ……」



 蒼太とディーナは王たちを見やった。


「あぁ、我々は千年前の英雄ソータ殿、そしてエルフ族の勇者ソルディア殿の妹君ディーナリウス殿のことは知っている。そしてそれがあなたたちだということも」


 ルードレッドはそう言うと、次に王を横目で見た。


「大会の話は王様の道楽です。責めるなら王一人を責めてください」


「お、おい、俺だけの責任にするなよ!」


 王は慌てたが、部屋にはどっと笑いがおこった。



「まぁ、本を大量にもらうことで意趣返しは出来たからそのことに関してはいいんだが、俺が来るかもしれないこと以外に何か伝わってないのか? どこにいけとか、誰に会えとか、何を探せとか」


 蒼太の質問を聞き、王は眉間に皺を寄せた。


「そういう詳しいことは伝わっていないな。俺達が聞いているのは、この国に来る前に小人・竜人の両種族の国に寄ってきたこと、あとはあれか、伝言だ。何か伝えてくれって言葉があった気が」


 王のは上を向きながら思い出そうとする。



「情報は残していく、だけど行く道は自分で決めるように。だったかと思います」


 ルードレッドが長老の伝言を口にした。


「そうそう、それだ。お前よく覚えていたな」


「お二人がいらっしゃってから、すぐに調べなおしましたので」



「自分で決める、か。いつもそんなことを言っていたな。元々小人族の長老という立場だから頼られることが多かった。でも、決して自分達で考えることを、決めることを放棄しないようにって」


 ルードレットが話したグレヴィンの残した言葉を聞いた蒼太は目を瞑り、長老からもらった数々の言葉を思い出していた。


「それと、伝えたいことはそのノートに書いてあると言っていたと伝わっている。ノートを持っていったとルードから聞いたから、ここに来るだろうと予想していたんだ」


 王は、蒼太が手に持っているノートを指差しながらそう言った。



「わかった、色々と騒がせてすまなかったな。大会の件をぬいて助かったよ。ルードレッドありがとうな」


「おい、俺には!」


 王は自分を指差し、つっこみを入れた。


「あぁ、本をたくさんくれてありがとうな」


 蒼太はそれだけ言うと、その場を後にした。ディーナも一度頭を下げると、蒼太に続いて部屋をでた。



 扉の向こうでは悔しげな王の雄たけびが響いていた。

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