第106話



 翌日も早朝から蒼太とディーナは書庫に篭っていた。


 ルードレッドは蒼太たちがチェックを終えた本の整理を行っていく。ルードレッドは手際が良く、本をジャンル別に分けて別の一時保管庫へと運んでいく。こうすることで蒼太達が使えるスペースを広くし、かつ圧迫感を少しでも減らすことで精神的な負担をも軽減させていた。



 蒼太たちが読みたい本は、それ用のスペースが作られておりそこへ置いていき、ルードレッドがその目録を作っていった。


 蒼太が送還され、ディーナが封印されていた間の歴史を記したものがあり、それは表面上の話だけでなく一般的に流通している本では語られていない部分まで掘り下げたものであり、情報収集の為にもピックアップしていく。



 もちろん面白そうな物語の本の収集もかかさずにやっていく。昼休憩を三人でとり戻ってくると、城門で図書館の司書が待っていた。


「お帰りなさい。お待ちしていました」


 司書の待ち人は蒼太たちであった。


「あぁ、来て頂けましたか。しかもきてくれたのがあなたなら百人力ですね」


 返事を返したのはルードレッドであった。


「ソータ殿、ディーナ殿。お二人に紹介しましょう。彼はこの街の図書館の司書長をやっているアルノートといいます」


「ソータ様にディーナ様ですね、よろしくお願いします」


 アルノートが頭を下げる。



「様はいらないよ。あの時は世話になったな」


 蒼太は右手を軽くあげ答える。


「その説はお世話になりました。私も様はなくて大丈夫です」


 ディーナはお辞儀を返した。



「それでは、ソータ殿にディーナ殿と呼ばせてもらいます。私は呼び捨てでも何でも構いませんのでお好きにお呼びください」


「わかった、それで一体どう言う用件で呼んだんだ?」


 蒼太はアルノートに返事を返し、ルードレッドへと質問を投げかけた。


「実は、私と彼は旧知の間柄でして、現在書庫の整理を行っていることを彼に話したら協力してくれるとのことで、私が是非にとお願いしたということです。ちなみに彼は手伝ってくれるだけで、余計な詮索はしないので安心してください」


 蒼太は、協力という言葉を聞いてルードレッドを睨んだが、最後まで聞いてその視線を緩めた。



「私は本に携わることができるだけで喜びなので、しかも城の書庫ともなれば私が見たこともない本もあるはずなのでそれだけで十分な報酬です」


 アルノートは満足そうに頷いた。


「それならば俺には異論はない。司書だったら戦力にもなりそうだしな」


「私もです、むしろこちらからお願いしたいです。あれを全部見ていくのはなかなか大変なので……」


 二人の顔に少なからず疲れが浮かんでいるのを見て、アルノートは色々と思案を巡らせていく。


「ふむ、とりあえず書庫にいきましょう。今考えている案で使えるものがあるかはそれからですね」


「わかりました、書庫に向かいましょう」


 ルードレッドの先導で蒼太たちは書庫へと戻っていく。



「これは……」


 部屋に入ったアルノートはそこで言葉が止まった。


「アルノートすいません、何とかしようとは思っていたのですがなかなか手がつかず……」


 ルードレッドが言い訳を始めるが、アルノートの耳には届いていないようだった。


「素晴らしい! これだけの蔵書の量、見たことのない本の山。この部屋そのものが国宝と呼ばれていても私は疑問に思いませんよ」


 アルノートは感激に打ち震えていた。


 その反応を見たルードレッドはやはりか、という顔をしていた。蒼太は図書館であった時点である種の雰囲気を感じ取っていたため、こういうタイプだったか……と内心納得していた。


「ここに入れるのはすごいことなんですね! 私もがんばらないと」


 ディーナはアルノートの言葉に感銘を受け、闘志を燃やしていた。



 その後の作業は効率化していった。アルノートの指示を受けルードレッドとその部下が動いていく。その間に、蒼太とディーナは本のチェックをしていた。二人は整理作業には加わらずチェック作業を続けていく。


 今回の書庫での作業は、蒼太とディーナが必要な本をピックアップしていくこと、そしてルードレッド側は書庫の整理をしていくことであり、アルノートの指示の下動くことでそれを同時にこなせていた。



 これからの数日間は、急ピッチで作業が進んだことにより書庫の整理はほとんど終わった。蒼太が必要な本も次々にピックアップされていき、グレヴィンが書いた本も数冊手に入れることができた。


 そして、全ての作業が終わった今、蒼太とディーナは再び謁見の間へとやってきていた。その隣には作業を手伝ったアルノートの姿もあった。


「それで、目的の本は見つかったか?」


 王の質問に蒼太は頷いた。


「おかげさまで色々と必要な本を手に入れることができたよ」


 蒼太の返答に王の眉はぴくりと動く。



「色々と、というのはどういうことだ?」


 その質問は王の隣にいるルードレッドへと向けられていた。


「それは……契約条件はソータ殿が必要とする本を差し上げるというものでしたから」


「あぁ、それは知っている。俺が了承した話だからな……おい、まさか」


 王の動揺に対して頷くことでルードレッドは肯定した。


「ソータ殿が今回書庫から持っていく本の一覧がこちらになります」



 王はそれをひったくるように受け取り目を通していく。


「これ、全部か?」


「そうです、全部で百六冊になります」


 その数字を聞いて、王を始め武官、文官などは目を見開いて驚いている。


「最初に大会の優勝を条件に持ち出された時はどうかと思ったが……今となっては感謝しているよ」


「いや、しかし、まさかそれだけの量を持っていくとは……」



「強いことが正義、だったよな? 約束どおり優勝したわけだが、何か問題はあるのか?」


「うっ」


 王は自分で言った言葉を持ち出され、言葉に詰まってしまった。


「必要な本を一冊だけ、とは言われていないよな?」


「うぅっ」


「それとも、優勝したというのに約束を反故にでもするか?」


 蒼太の言葉に追い込まれた王は、何かが爆発した。


「ええーい! もう何でも構わん、好きなだけ持っていけ!」



 それを聞いた蒼太がとてもいい笑顔になる。


「やっとそう言ってくれたか、よかったよ」


 蒼太が求めていた言葉を引き出されたことに気づき、王の額には青筋が浮かんでいた。


「あぁ、俺も男だ、二言はない!!」


 そう言うと、王は横を向いてしまった。

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